「東アジアのトルコ」になりたい韓国、

「獅子身中の虫」作戦で中国におべっか

https://www.dailyshincho.jp/article/2022/05311701/?all=1
鈴置高史 (스즈 오키 타카 부미,Takabu-mi Suzu-oki)  半島を読む 2022年05月31日

 

(鈴置高史さんのブログ記事)

東アジアのトルコになりたい韓国

 

あとは韓国にムチを入れるだけ

――この作戦で中国は韓国への怒りを収めたのでしょうか。

鈴置:怒りは簡単に収まらないでしょうが、中国は「だったらちゃんと約束を守れよ」と言い渡しました。Global Timesの「China, South Korea to embrace larger devt; hope Seoul ‘does what it says’: ambassador」(5月26日)です。

・South Korea stressed that it will join the IPEF based on principles of openness, transparency and inclusiveness, and we hopes it could do what it says, Xing noted.

 尹錫悦大統領の参加表明発言を引用し「開放性・包容性・透明性の原則に基づいてIPEFを推進する」と約束した以上、それが実行されることを望む、と念を押したのです。

 中国はIPEFを有名無実化するための足場たる「韓国」を確保した。あとは韓国にムチを入れ、約束を実行させることになります。

――韓国はそんなにせこい手を使うぐらいなら、IPEFに入らなければよかった……。

鈴置:韓国の半導体産業は米国の設計技術と米日の製造装置・素材なしでは立ち行きません。加入しなければ、米国から「中国側の国」扱いされ、「いざ」という時に供給を締め上げられるのは確実です。

 IPEF加入に当たり、それも中国を説得する言い訳にした模様です。先に引用した「GT Voice: S.Korea can’t allow chip sector to be hijacked by US geopolitics」(5月18日)に、以下のくだりがあります。
半導体でも米中板挟み

・the seemingly strong industry relies heavily on the Japanese supplies of upstream raw materials, and key parts of the industrial chains are subject to the US technology patent control.
・If South Korea succumbs to the threats or control of the US and Japan to its semiconductor industry, it will be harmful to its industrial momentum, putting its supply chains at a disadvantage in the long run.

 日米に屈すれば、韓国の半導体産業は勢いを失う――。韓国は外交だけでなく、半導体産業でも米中の間で板挟みになっているのです。ここでも表面的には同盟国である米国に従うフリをしつつ、裏では中国に通じる――という手を使うしかないのです。

 日米豪印の枠組み「Quad」に関しても、韓国では「獅子身中の虫作戦」が語られています(「早くも米日とすれ違う尹錫悦外交 未だに李朝の世界観に生きる韓国人の勘違い」参照)。

 国防研究院の金斗昇(キム・ドゥスン)責任研究委員はQuadに入ることで、その反中的性格を日本と共に内側から弱めて行こうとはっきり提言しています。「韓国新政権出帆に対する日本の認識と政策的含意」(4月22日、韓国語)です。

 韓国はトルコに似ています。トルコは、フィンランドとスエーデンがNATO(北大西洋条約機構)加盟を希望すると難色を示しました。既存の加盟国の全会一致が必要条件ですから、トルコが決定権を握った形です。

「クルド人テロリストを両国が匿っているから」との名分を掲げていますが、NATO拡大の阻止に動くことでロシアにいい顔をしたい、というのがトルコの本音でしょう。自由と民主主義を守る「NATO」のメンバーであることを利用して、圧政のロシアを助ける――。まさに獅子身中の虫です。

 

QuadはQuad

――韓国が「獅子身中の虫」とは米国も知っているのでしょうか。

鈴置:十分に知っているからこそ、Quadに入れないのでしょう。もし加入させれば、中国と呼応して内側からQuadを揺さぶるのが明らかだからです。

 韓国は中国とは敵対しない「準メンバー」などというムシのいい資格で潜り込もうとしましたが、米国ははっきりと拒絶しました。

 ホワイトハウスのJ・サキ(Jen Psaki)報道官(当時)は5月2日の定例会見で「韓国をQuadに入れるのか」との質問に対し「QuadはQuad(4カ国)のままであろう。韓国とは別途の仕組みで協力する」と冷たく突き放しました。

「韓国との関係改善を急ぐ」と表明している岸田文雄首相も、5月24日に東京で開いたQuad首脳会議の冒頭挨拶で「地域諸国と歩む」として「ASEAN(東南アジア諸国連合)、南アジア、太平洋島嶼(とうしょ)国」を挙げましたが、韓国は無視しました。

 「韓国を入れるつもりはないから、甘い顔をするな」とのお達しが米国から来ていたのかもしれません。「Quad入りを日本が邪魔したら、米国に怒られるぞ」といった情報を韓国政府が流しては日本政府にQuadの扉を開かせようとしていたからです。それを真に受け「大変だ。米国に怒られる!」と言って回った日本の専門家もいたほどです。
トルコかベラルーシか

――韓国の裏切りに対し、米国はどう対応するのでしょうか。

鈴置:日本と組んで半導体素材の供給を絞る手があります。また、韓国が通貨危機に陥った際にドルを貸さない、といった手口も有効です。これも日本と歩調を合わせる必要がありますが。

 米ドルの相次ぐ利上げによりウォンが弱含み、資本逃避の懸念が日増しに高まっています。韓国銀行も追従してウォン金利を引き上げていますが、いつまで続けられるか分かりません。

 韓国ではカネを借りて株やビットコイン、不動産に投資する――ミニバブルが発生していました。急激に金利を上げれば、このバブルが崩壊しかねないのです。

 そこで追従利上げをせずにウォンを防衛する切り札として、日本と通貨スワップを結ぶべきだ、との声が日増しに高まっています。韓国は「岸田政権は騙しやすい」と見ていますから「日韓通貨スワップを結ぶべきだ」といった声を日本で上げさせようとするでしょう。もっとも、それを米国が許すのかは不明です。

 1997年の通貨危機の際、米FRB(連邦準備理事会)は日銀に対し「韓国にドルを貸すな」と指示してきました。当時の金泳三(キム・ヨンサム)政権が中国に米軍の情報を流すなど、韓国の「裏切り」が目に余ったからです(『米韓同盟消滅』第2章第4節)。

 尹錫政権は「親米」を謳いますが、「従中」に変わりはない。「東アジアのトルコ」にお灸を据えるのか。2022年3月の大統領選挙で文在寅氏以上の反米政治家、李在明(イ・ジェミョン)氏が当選していれば、韓国は「ベラルーシ」になっていた。それと比べればましなので、とりあえずは見逃すのか――。米国の判断がカギとなります。

 

鈴置高史(스즈 오키 타카 부미,Takabu-mi Suzu-oki)
韓国観察者。
1954年(昭和29年)愛知県生まれ。
早稲田大学政治経済学部卒。
日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。
95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。
18年3月に退社。
著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。
2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。