尹錫悦は「シャングリラ」で従中の馬脚を現した 

尹錫悦後は「キシダ」を騙すだけ

https://www.dailyshincho.jp/article/2022/06141715/?all=1
鈴置高史 (스즈 오키 타카 부미,Takabu-mi Suzu-oki)  半島を読む 2022年06月14日

 

(鈴置高史さんのブログ記事)


 アジア安全保障会議(シャングリラ会合)で尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権の米中二股外交が鮮明になった。

『韓国民主政治の自壊』(新潮新書)を上梓した韓国観察者の鈴置高史氏が新政権の「親米従中」を読み解く。

 

日米韓の軍事訓練が復活?

――日米韓の3カ国が共同軍事訓練を再開します。

鈴置:そう報じられましたが、過大評価すべきではありません。韓国が本気で海洋勢力側に戻ったわけではないからです。

 6月11日、シンガポールで開催されたシャングリラ会合に参加した機会を生かし、日米韓の国防相が会談しました。ミサイル発射を繰り返し、核実験再開をほのめかす北朝鮮を牽制することで3カ国は合意しました。

 防衛省が発表した「日米韓防衛相会談共同声明」(2022年6月11日)から「共同軍事訓練」部分を引用します。

・3か国の閣僚はさらに、3か国によるミサイル警戒及び弾道ミサイル探知・追尾訓練の実施及び北朝鮮による弾道ミサイル発射に対処するための3か国によるさらなる活動を具体化することにコミットした。

 日本のメディアは「日米韓が対北牽制でスクラムを組む」とのノリで伝えました。日経・電子版の見出しは「対北朝鮮ミサイル訓練再開 日米韓防衛相、台湾にも言及」(6月11日)でした。

 当然のことながら、共同声明の中身は米国防総省の発表(英語)、韓国国防部の発表(韓国語)ともに同じです。しかし、発表直後から韓国の「サボタージュ」が始まりました。

 李鐘燮(イ・ジョンソプ)国防部長官が韓国メディアに「共同訓練は実施訓練ではない」と強調したのです。聯合ニュースの「韓米日3国国防長官会談…ミサイル警報訓練・追加措置を論議(総合)」(6月11日、韓国語版)を引用します。

・彼[李鐘燮長官]は「韓米日軍事訓練に関しては包括的な水準で論議した」とし「ミサイル警報訓練や弾道弾追跡・監視(訓練)などに対し具体的な話をした」と説明した。
・しかし李長官は、各国の兵力を1カ所に集め動かすという3国の共同軍事訓練に関しては「韓米軍事訓練と韓米日軍事訓練は異なる」と述べ「別に接近せねばならない」と線を引いた。
「3NO」で金縛りの尹錫悦

――日本を含む共同の実地訓練はしない、と宣言したのですね。対北圧力を弱めるような発言をなぜするのでしょうか?

鈴置:中国の顔色を見たのです。韓国は文在寅(ムン・ジェイン)政権時代に中国との間で「3NO」(三不)を約束しました。基本的には在韓米軍基地へのTHAAD(地上配備型ミサイル防衛システム)配備をこれ以上認めない、との誓約ですが、「日米韓の3国同盟につながる動きもしない」とも約束しているのです。

 尹錫悦政権に左派政権が約束した「3NO」を破る度胸はありません。当選直後から「韓米日の共同軍事訓練はしない」と表明しています(「『米国回帰』を掲げながら『従中』続ける尹錫悦 日米韓の共同軍事訓練を拒否」参照)。

 だから「北朝鮮の核実験は今日か明日か」という煮詰まった状況になった今でも、3国共同声明に冷や水をかける発言をするのです。

 今回の会談でもL・オースチン(Lloyd Austin)米国防長官から3カ国の軍事協力の強化に応じるよう圧力をかけられたでしょうが、それにも屈せず中国にゴマをスリ続ける……。保守政権になっても「韓国の従中」には変化がないことが明らかになりました。

 

 

李鐘燮・韓国国防部長官とは目も合わせなかったという岸信夫防衛相(6月11日の日米韓防衛相会談より)

 

IPEFと同じ「裏切り」

「中国へのおべっか」は日本との共同訓練問題だけではありません。韓国国防部は韓国の記者団に「ミサイル警報に関わる3国の共同訓練はずっと続けてきており、別に目新しくもない」とも説明したのです。先に引用した聯合の記事から翻訳します。

・韓米日3国のミサイル警報訓練は四半期ごとに実施されてきたが、2018年以降は南北米の和解ムードを考慮し、訓練の事実を外部に公開していないことが明らかとなった。

 韓国は中国に対し「3カ国の共同訓練は継続中であり、再開するわけではない」と言い訳したのです。先に引いた日経の記事によると、日本の防衛省は「日米韓は2016-2017年に弾道ミサイルの情報共有などの共同訓練を計6回開いたが、2017年12月を最後に途絶えていた」と説明しています。事実関係が180度異なります。

 中国包囲網を目指すIPEF(インド太平洋経済枠組み)の結成会議にリモート参加した尹錫悦大統領が「開放性・包容性・透明性の原則」を訴えたのと同じ構図です(「『東アジアのトルコ』になりたい韓国、『獅子身中の虫』作戦で中国におべっか」参照)。

 米国に命じられて反中的な動きに加わっても、中国に対しては「米国の言いなりにはなりません」と揉み手する。韓国は保守の尹錫悦政権になろうと、文在寅政権の「反米従中」から「親米従中」に変わっただけなのです。

 韓国でも「中国を排除するためのIPEFを開放的に運営する」なんてことがあり得るのか――と、尹錫悦外交の二股ぶりが危険視されています。

 中央日報のユ・ジヘ外交安保チーム長が朴振(パク・ジン)外交部長官に単独会見した際、そこを突きました。朴振長官は「中国が新しい規範に適応して参加すれば中国にも開放されている」などと、苦しい言い訳に終始ました。「〈インタビュー〉韓国外交長官『韓日の懸案解決、包括的に』(1)」(6月13日、日本語版)で読めます。
うやむやのTHAAD公約

――尹錫悦大統領は選挙期間中に「中国に対する毅然とした姿勢」を訴えていました。

鈴置:THAADに関しても公約しました。韓国北半分を守るTHAADの配備です。在韓米軍のTHAADが南半分しかカバーできないので、韓国軍として独自に導入する、と約束したのです。もっとも、この公約はうやむやになっています。「3NO」に違反する可能性が高く、中国が許すはずがないからでしょう。

 公約ではないのですが、在韓米軍のTHAAD基地の「正常化」にも動くと報じられていました。文在寅はその前の朴槿恵(パク・クネ)政権が米国に認めた配備を忌み嫌い、環境影響評価の結論を任期中の5年間、出さず仕舞いでした。

 韓国の自称・市民団体はこれを盾に在韓米軍基地を封鎖し続け、機材の搬入を阻止しています。このため、THAADを運用する米兵は劣悪な居住環境の下、勤務しています。オースチン氏を含む米国防長官は韓国政府に繰り返し「正常化」を求めてきました。

 そこで「親米」を売りにする尹錫悦政権は「正常化」を掲げましたが、これも怪しくなってきました。シャングリラ会合を利用し6月10日に中韓国防相会談も開かれました。朝鮮日報は「韓中国防長官、THAAD問題など論議」(6月11日、韓国語版)で以下のように報じました。

・現政権が「正常化」の意思を明らかにした慶尚北道・星州の在韓米軍のTHAADに関しても、中国側はこの日の会談で憂慮の立場を表明したという。

 韓国国防部はこの問題に関し「今は語れない」とコメントを避けていますが、中国側を説得できなかったのは明らかです。「3NO」の読み方次第では、韓国は配備済みのTHAAD基地も追い出す必要があるのです(「『米国回帰』を掲げながら『従中』続ける尹錫悦 日米韓の共同軍事訓練を拒否」参照)。

 韓国では在韓米軍基地の正常化も先送りになると見る向きが多い。中国は経済的な報復も示唆していますから、THAADでも尹錫悦政権は「言うだけ番長」に終わるというのです。