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熟語・句動詞攻略のカギ! 比喩の3類型って?⑤~提喩(シネクドキ)編~【英語学習のヒント#10】

提喩 アイキャッチ

皆さん、こんばんは。ねこらいたーです(= ̄ω ̄=)

 

今回はいよいよ比喩の3類型の最後、「提喩(シネクドキ、synecdoche)」 についてです。この比喩は前回までの「換喩(メトニミー)」よりもさらに目立たないですが、実は日本語でも英語でも意外と使われています。

 

今回のシリーズでやってきた「比喩の3類型」を理解すると、熟語・句動詞などの英語表現がグンと覚えやすくなりますよ^^

 

では、本編へどうぞ。

 

 

 

提喩(シネクドキ、synecdoche)って?

提喩 イメージ

図1 提喩(シネクドキ)のイメージ

提喩(シネクドキ、synecdoche)とは、2つの事物の「包含性」に基づいた比喩表現のことを言い、この前に扱った「換喩(メトニミー)」の一種とされています。

 

一般的には、”wheels”が”a car”を表すように「ある事物の一部分がその全体を表す、またはある事物の全体がその一部分を表す」パターンもこの提喩(以下、シネクドキ)に含ませている場合の方が多いようです。

 

しかし、この考え方だと換喩(以下、メトニミー)と混乱しやすいので、当ブログではカテゴリに関係するものだけをシネクドキとして扱い、さきほどの"wheels"のような同一個体における「部分と全体」に関する比喩はメトニミーに分類してあります(実際このように分類する学者もいます)。後者については【英語学習のヒント#8】を参照ください。

 

ということで、当ブログでいうシネクドキは結局、以下の2パターンだけということになります。

 

上位カテゴリに位置するものが、その下位カテゴリに位置する別のものを表す

 

または

 

下位カテゴリに位置するものが、その上位カテゴリに位置する別のものを表す

※注 ここでいう「上位カテゴリ」とは「より広範囲の意味をもつもの」のこと。逆に言えば「下位カテゴリ」とは「より狭い意味をもつもの」のこと。

  

これらを端的に言うなら、1つ目のパターンは意味の特殊化で、2つ目のパターンは意味の一般化となります。ちなみに、図1は後者のパターンです。

 

なお、「全体と部分」のメトニミーと今回のシネクドキとの違いについては、後述の「『全体と部分』のメトニミーとの違い 」の項目をご覧ください。

  

日本語での例

ではまず日本語の例から。青字部分がシネクドキ表現です(以下同じ)。

 

1)ご飯に行く 
2)を飲む 
3)見に行く

4)医者に「が溜まってますね」と言われた

 

1)では、図1にもあるように、下位カテゴリにある「白飯としてのご飯」がその上位カテゴリである「食事」を表しています(※1)。

 

提喩 イメージ

図1 提喩(シネクドキ)のイメージ(再掲)

実際には白飯を食べずにパンやパスタを食べるという場合にも「ご飯に行く」ということができるのは、このためです。というのは、下位カテゴリである「ご飯」が上位カテゴリの「食事」を表す(=意味の一般化)ことによって、その「食事」のカテゴリに含まれるものなら何でも、例えばパンでもパスタでもラーメンでも間接的に表すことが可能になるからです。

 

続いて2)。これはお酒を飲む方ならご存知でしょう。酒というのは元々は「日本酒」のことであり、それが転じてアルコール飲料全般」を指すようになりました。 つまり、これは「下位カテゴリに位置するものがその上位カテゴリに位置する別のものを表す」パターン(=意味の一般化)というわけです。

 

3)も日本人にはお馴染みの表現ですが、これも立派な比喩です。というのも、「花見」とはいっても、「桜」「梅」以外を観る場合にこの表現はふつう使いませんよね。つまり、ここでいう「花」というのは、実際にはその下位カテゴリにある「桜」・「梅」を指しているんです(=意味の特殊化)。

 

4)の石は当然ですが道端に転がっている石ころのことではありません。この場合は病気の話ですから、実際には「結石」あるいは「胆石」を意味しているわけですね。

 

意味の範囲としては「石」の方が広いのでこちらが上位カテゴリになりますから、4)の表現は、上位カテゴリである「石」がその下位カテゴリである「結石」あるいは「胆石」を指すパターン(=意味の特殊化)と解釈できます。

 

 

※1 「食事」と「ご飯」ではコトバの種類が違うのではないか?というギモン

一見すると、行為である「食事」と食べ物である「ご飯」とではコトバの種類がズレていて適切でないように思われるかもしれません。確かに、「食事」とは元々「食べること」を意味するコトバです。しかし、それが転じて「食べ物」も表すようになりました。この意味拡大は、密接な関係のあるもの同士の間で起こる「メトニミー」の働きによるものです。事実、食べることと食べ物とは言うまでもなく密接な関係にありますよね。したがって、図1での「食事」というコトバは「食べ物」の意味なので、コトバの種類がズレているわけではありません。

挿絵 イメージ

 

 英語での例

 次に本題の英語での例です(和訳の対応箇所があるものは青字)。

 

4)be fond of drink 

       (好きである)

5)mark papers 

     (答案の採点をする)

6)Man shall not live by bread alone.(『聖書』)

  (人はパンのみに生くるにあらず)

7)butcher

       (肉屋)

 

4)について。drinkの基本的な意味は「飲み物全般」なので、ここでは上位カテゴリdrink下位カテゴリalcohoholを指すパターン(=意味の特殊化)になっていると理解できます。

 

5)も同じパターン。ここでも上位カテゴリであるpaperがその下位カテゴリであるanswer sheetを指しています。これも意味の特殊化ですね。

 

6)はご存知のように「人が生きるには、物質的な満足だけでなく精神的な充足も必要だ」といった意味のことばですが、ここのbreadもシネクドキに該当します。つまり、下位カテゴリであるbreadがその上位カテゴリfoodを指している(=意味の一般化)わけです。

 

7)は他の例とは性質が異なり、本来の意味が駆逐されシネクドキによる意味が完全に定着したパターンです。というのも、『ジーニアス英和大辞典』によれば、現代英語のbutcherは『雄ヤギを屠殺(とさつ)し肉を売る人』という意味の古フランス語”bochier”(または"bouchier")に由来しているとされ、これが転じて現在の「肉屋」の意味になったという歴史的経緯があるからです。

 

言うまでもなく現代英語でのbutcherは「雄ヤギの肉かどうかに関係なく肉を売る人」のことなので、この歴史的な意味変化は、下位カテゴリ上位カテゴリを指す言い方(=意味の一般化)が定着したものと理解できます。

 

最後に動詞の例を1つだけ見てみましょう。

 

8)I got some books at the store.

    (その店で本を数冊買った)

 

8)のgetの基本義は「~を手に入れる」ですが、ここでは「~を買う」の意味で用いられています。より広い意味を持つのは前者の意味なので、これは上位カテゴリの「~を手に入れる」が下位カテゴリの「~を買う」を指すパターン(=意味の特殊化)と理解することができます。

 

挿絵 イメージ

 

「全体と部分」のメトニミーとの違い 

 最後に、今回のシネクドキと【英語学習のヒント#8】で扱った「部分と全体」のメトニミーとの違いについてご紹介します。

 

結論から言いますと、「部分と全体」のメトニミーは主に物質世界(または具象世界)での話で、シネクドキは主に精神世界(または抽象世界)の話だ、という違いがあります。

 

以下、おさらいも兼ねて順に見ていきましょう。 

 

まず「部分と全体」のメトニミーというのは、

 

ある事物の一部分がその全体を表す

または

ある事物全体がその一部分を表す

 

という比喩です。例を少し見ましょう(緑字部分が「部分と全体」のメトニミー)。

 

9)At last he had his own wheels.(OALD)

       (ついに彼は自分のを手に入れた)

10)They live under the same roof.     

           (彼らは同じに暮らしている)

11)The entrance fee per head is $10.

    (入場料は一人あたり10ドルになります)

12)He heard the piano.

        (彼はピアノの音を聞いた)

 

9)は冒頭でも触れた例で、車という物体の一部を構成する「車輪」がその全体である「車」を表しています。

 

10)と11)も同様で、物体の一部分(=roof, head)がその全体(= house, person)を表している例です。

 

一方、12)は上の3つとは逆で、全体がその一部分を表す例です。ピアノという物体そのものを聞くことはできませんから、聞こえたのは当然「ピアノの音」(= piano sound)ということになります。

 

これらに共通するのは、部分と全体が一般的に不可分のものである、という点です。その典型が11)のheadです。頭を切り離したら大変なことになりますよね!

 

もちろん9)のように分解できるものもありますが、本来的には車輪と車は一体のものですから、やはりコレも例外ではありません。実際、車輪のない車はもはや「車」とは呼ばないでしょう。

 

 一方、今回のシネクドキの例を振り返ると、例えば

 

4)be fond of drink 

       (好きである)

  

であれば、上位カテゴリdrink(「飲み物全般」)が下位カテゴリalcohol(「酒」)を表しているわけですが、この2つは特に問題なく切り離して考えることができますよね。

 

では、「部分と全体」のメトニミーとシネクドキとの間にこのような違いがなぜ起こるかといえば、最初に言ったように想定している世界が異なるからです。つまり、前者は主に物質世界(または具象世界)での話で、後者は主に精神世界(または抽象世界)の話なので、このような違いが出てくるんです。

 

 

編集後記

さて、今回はいかがだったでしょうか。

 

このシリーズ記事で扱ってきた隠喩・換喩・提喩はレトリックとして説明されることも多いので、日常とは関係のないものと思われがちですが、実際には日常的に使っている表現の中に結構な確率で隠れているごく一般的な思考方法なんです。

 

もちろん別にこれらについて知らなくとも、英語表現を覚えることはできます。しかし、これらのような思考法が日常的に使われていることを知っていると、また違った視点で英単語や熟語などを見ることができ、意味を覚えるための(結構強力な)手助けになると思います。

 

次回からはぼちぼち句動詞表現の解説に戻っていくつもりですが、ひょっとすると今回のシリーズ記事の補足的な記事も挟むことになるかもしれません。

 

では、今日はこの辺で。

 

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