【香り研究】チオールって何だろう?

【香り研究】チオールって何だろう?

こんにちは!やざわです!
ついに先日、ANTELOPEで初仕込みを行いました!色々偉そうに講釈を垂れてる自分ですが、どんなお酒ができるのか楽しみと不安でいっぱいいっぱいです!

今回は、ホップや果実、また麦芽にも含まれているチオールという香り成分についての記事です。研究自体が新しく、実践的にどうやってチオールを増やすかを考察する内容になります!(みなさんでワイワイ話し合う叩きになれば幸いです👀)

Thiols/チオールってそもそも何だろう

お酒の作り方に興味がある方はどこかで耳にしたことが多いかもしれません、このチオール。「匂い成分だろうけど、、」という認識の方がほとんどだと思いますので、整理して考えてみたいと思います!

物質の総称
チオールとは、R-SHという構造で表される有機化合物のことです。簡単に考えると、炭水化物(R-)に硫黄(S)と水素(H)がくっついた化合物のことです。難しいようですが、みなさんが普段飲まれるビールやチューハイに含まれるアルコールは、R-OHという化学式でまとめられます。これのOとSが入れ替わっただけのものです🙆
また、チオールはメルカプタン類とも呼ばれることがあります。チオールは3MHや4MMPなどの略称で表わされることが多いですが、その中のMはメルカプタンのMである場合もよくあります。

嫌な香りのやつが多い
ほとんどのチオールは低濃度でも人間が感知できるような匂いを持ちます。そして、悪臭であることが多いです。硫黄臭い、という言葉があるくらいですので硫黄が含まれている成分はなんとなく臭そうです。例えば、ビールを紫外線に当てると発生するいわゆる「日光臭」と呼ばれるMBTという成分もチオールの仲間です。TはチオールのT。
ただし、一部のチオールは低濃度ではフルーツのような、素晴らしい香りを出すこともあります。有名なものは、ソービニョンブランという白ワインに特徴的な香りですが、3MHや4MMPなどのチオールが原因とされています。今回は良い匂いをいかに出すか、という点にピックアップして考えていきます🙆

良い匂いのやつもいる
お酒作りにおいて、良い匂いのチオールを取り出すことが重要になってきます。その中で特に有名なモノとそれらの香りを紹介したいと思います!

  • 3MH:グレープフルーツ、セイヨウスグリ
  • 3MHA:パッションフルーツ、グァバ
  • 4MMP:完熟したフルーツ、カシス、パッションフルーツ

他にも花の香りがする4MMPOHなどもありますが、キリがないので上記3つだけを覚えたら良いと思います!果実らしさをお酒に含ませる重要な3つのチオールです。
ただし、チオールはどれも非常に低濃度で香りを感じることができます(進化の過程で腐った食べ物を見分けるためだ~とかも聞きますね)。そのため、闇雲に濃度を濃くしてしまうと良い香りとは呼べなくなってしまいます。例えば、低濃度ではカシス様の香りがする4MMPも高濃度になると猫のオシッコのような香りになると表現されています。

また、3MHAは3MHが発酵中に酵母によって変化することで発生することが多いです。3MHAの方が少ない量で香りがするので3MHAに効率的に変化させるのも重要なステップです。ただ、これはまた1つの記事にしますね。。。

他の成分と結合すると匂いがしなくなる(ことがある)
チオールは遊離してると強烈な匂いを発することがあっても、他の物質と結合してしまうことでその香りがなくなることがあります。主にアミノ酸であるシステインや、グルタミン酸と結合して原材料中に存在しています(Cys-3MHとか、G-3MHと略されたりします)。これらの化合物をチオールに変化する前の物体として、チオール前駆体と呼んでいます。酵素の力を借りてその結合を解いてやることでチオールを解放でき、匂いをお酒に残すことが可能になります。

次は、どうやってチオールを最終的なお酒に残すことができるのかを考えてみたいと思います!

チオールを多く残す方法

最終的なお酒に遊離したチオールがどうやったら沢山残るだろうか?というところだけに絞ると、下記のようになるでしょうか。

  • チオールを足す
  • チオールを遊離しやすくする
  • チオールを逃がさない
正しい例えではないかもですが、バーベキューの炭火を想像してみてほしいです。火を長く楽しむためには、炭の量を増やすか、熱が逃げないような容器を用意するか、空気が流れやすくしてやるかですよね。えっ、、違う?笑

チオールを足す

チオールは様々な食品に含まれています。
南国のフルーツのように最初から遊離したチオールを多く含んでいる食品もありますし、別な物質とチオールが結合したチオール前駆体を多く含んでいる食品もあります。シンプルに考えると、遊離したチオールを多く含む原材料でお酒を仕込めばチオールの多いお酒になる可能性は高まります。クラフトビールの世界で言うと、香りの強いモザイクやシトラ、ネルソン・ソーヴィンなどをたくさん使ったイメージです。

また、香りのしないチオール前駆体をたくさん含む食品でお酒を仕込むという方法も間接的ではありますが、チオールの総量を増やす立派な方法です。チオールを遊離させてあげる必要がありますが、一般的なイーストは後で紹介しますがβ-lyaseというチオール遊離酵素を一定量持っています。つまり、遊離してる、していないに関わらず原料に含まれるチオールの総量を増やしてあげることが近道です。

どんな原材料がチオールを多く含むのかは、以下の記事をご覧下さい🙆
(作成中です~!!!)

チオールを遊離しやすくする

原材料にはすでに香りのするチオール単体と、他の化合物と結合して香りのしないチオール前駆体が存在しています。チオール前駆体はそのままの状態では真価を発揮できませんから、何かの力で結合を解いてあげる必要があります。その方法は大きく分けて2つで、1つは物理的なエネルギーを加えること、もう一つは酵素を利用することです。

物理的なエネルギー
これは明確には解明されてないのですが、熱エネルギーによってチオール前駆体が分解されるのでは?あるいは複雑な化学変化を通じてチオールが遊離するのでは?というデータがあります。これはホップを高温で煮沸したときに、3MHが増加したというものですが、はっきりとしたメカニズムは分かっていません。ちなみに単離してる4MMPは高温で煮沸すると消えてなくなります。

酵素の利用【重要】
これがチオールとお酒の関係で重要なポイントです。なぜかというと、このチオールを遊離する酵素は酵母により提供されるからです。発酵中にチオール前駆体が酵母のもつ酵素によって遊離させられて、香り成分としてお酒の中を彷徨うことになります。その酵素に関して、あとで詳しく見ていきましょう。

重要な酵素:β-Lyase

酵素は鍵と鍵穴の関係と呼ばれる、「特定の酵素は、特定の鎖しか解けない」というルールがあります。すなわち、今回のチオールを遊離させてあげる酵素も特定のものが必要です。

それが、β-Lyaseです。

この酵素をチオールと別の物質の結合部分に作用させてあげることで、チオールは晴れて自由の身になります。モルトが持っているアミラーゼなどの酵素では持ってる鍵が違うので鎖をほどけません。この酵素の量はIRC7という酵母の遺伝子に大きく由来しているそうですが、この遺伝子はセレビジエ、パストリアナスに普遍的に存在しているとのことですので、通常の酵母はβ-lyaseが活性と考えてよいはずです。しかし、イーストごとの能力のばらつきや、酵素が活性化する条件(温度、pH、内圧、etc...)については研究が始まったばかりのようです。遺伝子工学の進歩から、このIRC7という遺伝子を選択的に活用する方法?が生まれて、OMEGA社やBerkerley社がβ-lyaseが従来よりも活性化している酵母を最近発売しはじめました。

超絶に魅力的なイーストですが、これらのイーストはまだ日本に輸出されていません(新しい遺伝子技術が認められていないから?)。OMEGA社に問い合わせるとユニバーサルな酵母を現在開発中とのことですので、似たような酵母がいずれ入ってくるかもしれませんね!

また、イースト以外にもチオールを遊離する酵素が活性な原材料があると思いますので、それらもまとめて記事にしようと思います🙆
ちなみに下の図はlallemand社が発表しているイーストの酵素活性です。

小さくて見づらいですが、青の線がβ-lyaseの酵素活性です。これらが大きいイーストはチオールを遊離しやすいと考えてよいでしょうね!

チオールを逃がさない

せっかくチオールを足して、チオールを酵素によって遊離させてあげたのに、それを提供する前に逃がしてしまってはもったいないです。グラスの匂いを嗅いで、「あ~良い匂い」ってなるってことは匂い成分が空気に乗って鼻に届いているという訳ですから、放置してればいつか飛んでなくなっていく可能性もあるわけです。その逆の方法で香りだけを抽出してるのが蒸溜、と考えると分かりやすいでしょうか🙆

特にチオールは揮発性が高い、疎水性(水に溶けにくい)、という飛んでいきやすい条件が整っています。そのため、チオールが飛んでいきづらい状態を作ってあげると、最終的にチオールが残りやすいという訳です。

アルコール度数を上げる
水には溶けづらいチオールもアルコールには溶けやすいです。そのためアルコール度数が上がることで溶けやすくなる可能性があります。実際に、アルコール度数が低い酒は高いものよりも4MMPの最終的な量が少なかったというデータがあります。

ラガーイーストを使用する/発酵温度を下げる
発酵温度が低いと発酵はゆっくりになり、CO2の発生速度もゆっくりになります。発酵が激しいとCO2の勢いに乗ってチオールがタンクの外ににげるので、なるべくゆっくりした発酵の方が良いのでは?という話です。極論、CO2が全く発生しない状況で、タンクを密閉してたらチオールは逃げない訳ですから。
これは眉唾で聞いて欲しいのですが、エールイーストよりもラガーイーストで仕込んだビールの方がチオール多かった的な論文もありました。後述する酵素活性も関係あるかもですが、チオールの残留度合いは管理中の温度に強く依存してるかもです(冷やした方が揮発しづらい的な)

発酵後のチオール添加
これも揮発性の高いチオールは飲む直前に添加した方が揮発しないよね、という話です。あくまでチオールに限った話で、実際にホップを飲む直前に入れたらチオール以外の青い匂いもくっついてきます。単離したチオールの含有量が高い原材料に関しては、後入れするという引き出しがあっても良いですね!

滓引き後のチオール添加
上記と似ていますが、内容としてはイーストにチオールが付着する可能性がある点に注目しました。イーストは色んなものを吸着し、発酵が終了するとタンクの底に沈んでいきます。ホップのアロマ成分も吸着して沈むことがあるので、滓引きをした後にチオールを含む原材料を添加してあげることで、イーストによるチオール減少を少なくなりそうです。
ただし、イーストによる酵素でチオール前駆体を遊離しようとしてる場合は、もちろんですが滓引き後に添加しても何にもなりません。

(高温で煮沸する)
クラフトビールの世界では一般的になりつつある、「チオールは煮沸してあげると増える」という話。3MHというチオールに関しては、煮沸工程中に増加したデータがあるのですが、同じ実験で4MMPに関しては減少しています。ただ、チオールの含有量が多いホップで煮沸してあげると3MHに関しては増加するので、チオール含有量が比較的多いCTZ(コロンバス、トマホーク、ゼウス)でビタリングするレシピがメジャーになりつつあります。でも、3MHだけに関して言えば、米産カスケードの方が多いという研究もあると噂。

まとめ

色んな方向に話が飛び散ってしまいましたが、この辺で終わりにします!笑

チオールはよく耳にしますが、実際なんなのか?と少しでも理解が進めば幸いです。チオールの総量を増やし、チオール前駆体はなるべく酵素の力で単離してやり、単離したチオールはなるべく逃がさない、の3stepです。「チオールは煮沸しないと残らない」という考えを聞いたことがある人も多いと思いますが、より多方面の議論に発展すると楽しいですね!ワインの世界はβ-lyase以外にも色んな酵素の可能性が研究されたりしてるそうですし、日本酒では麹による酵素の研究も盛んですし。

また、この記事もあくまで僕個人が調べて提示したものですので、もっと色んな着眼点があると思います🙆
業界の壁を越えて、ホットな話題にみんなで切り込んでいき、美味しいお酒が造れるような技術が確立できると最高ですよね。

駆け足だったので、ご不明点もたくさんあると思います!そんなときは、僕のsnsのDMか、ブログのコメント欄にご連絡いただければ幸いです。なるべく即レスできるように頑張ります!では、また🎈

【参考文献】
Spotlight on release mechanisms of volatile thiols in beverages
ビールに特徴的な香りを付与するホップ由来香気成分
Screening of brewing yeast β-lyase activity and release of hop volatile thiols from precursors during fermentation
Yeast Influences the Hop Character of the Beer
Thiol Driver

ANTELOPEブルワー谷澤 優気
お酒が好きで醸造の世界に入る。日本各地での研修期間を経て、2020年3月滋賀県野洲市で国内初のクラフトミードハウス・ANTELOPE株式会社を共同創立。
「ちょっと深く知るとお酒はもっと楽しい」をテーマに醸造学を発信中。

志賀→浜松→掛川→滋賀県野洲市[now!!]

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