新しいトムとアルのペアを迎えたクリスマスの時期の再演のニュースがとてもうれしかったミュージカル『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』(Story of My Life、以下SOML)。できれば初演ペア、新ペアのどちらでも観てみたかったのですが、チケット争奪戦に乗り遅れて確保ならず。せめて初演で観れていない新ペアだけでも観たい!ということでターゲットを絞ってみたところ、幸運にもかなり見え方が異なる席で2回観劇することができました。というわけで私が観劇できた新ペアのお二人は
アルヴィン・ケルビー:太田基裕さん
トーマス・ウィーバー:牧島輝さん
でした。
韓国で知った大好きな小劇場作品である本作。作品の概要は別のブログ記事で詳しめに書いていますのでよかったらご参照ください。特定のキャストに限定していない物語に踏み込んだネタバレ考察記事も貼っておきますので、こちらも併せてどうぞ。
感想
結論から先に書くと、とても良かったです!太田さんも牧島さんもどちらも初めましての俳優さんだったのですが、今まで観たどのアルヴィンとトーマスとも違う、彼らならではの魅力を感じる二人の物語でした。瑞々しくてある意味生々しくて残酷、だけどどこか温かい。私にとって二人の物語はそんな手触りを感じる物語でした。
2021年日本版ミュージカル『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』ダイジェスト
太田さんが演じるアルヴィンはとても老成していて、自分自身の中で大切なものとそうではないものの境界がはっきりしているように感じるアルヴィンでした。それは恐らく彼が幼い彼にとって「世界の全て」だった両親の片割れを亡くしていて、その喪失からなかなか立ち直れない父親の姿を見てきたからだということを強く感じます。時を超えて物語になることに対しても人一倍拘りを感じるアルヴィンで、プログラムで太田さんが語っていた通りその生死観は比較的その辺が「普通の人」である牧島さんのトーマスとは全然違うんだろうなと感じます。割と笑顔を見せた後に真顔でトーマスを詰めていくアルヴィンで、その姿がトーマスを導いているように感じた初回の観劇ではアルヴィンがトーマスの様子を見守りに来たアルヴィンのように感じたのですが、2回目の観劇ではその印象が一転。トーマスを冷静に詰めながらも「Butterfly」以降にアルヴィンが見せる細やかな悲しみとやるせなさの演技に、トーマスの脳裏を離れない「自分が傷つけたアルヴィン」の姿を映しているように感じてとても心が痛かったです。
牧島さんのトーマスは今まで観たことのあるトーマスの中でも若々しい等身大のフレッシュさを感じるトーマス。牧島さんのトーマスで私が特に好きなのは「Independence Day」以降。自分の中で色濃く残るアルヴィンに対する悔恨の気持ちに少しずつ向き合いはじめてからの演技です。なぜトーマスが婚約者にアルヴィンとの約束のことを言えなかったのか、トーマスがアルヴィンに婚約者のことを言えなかったのか。トーマスにサラ1を紹介されたアルヴィンの反応と、サラに別れの挨拶をすることを拒んだアルヴィンのエピソードはどのペアでも演じられますが、その時のなんとも言えない気まずさはこのペアが今まで観た中では随一。「犬の話だよ」とアルヴィンと言われても乾いた笑いしか返せないトーマスの姿にその一端を感じました。記憶の解像度はとても鮮やかで無意識ながらも細かなことをしっかり記憶できているのに、世界を広げることに夢中でその精査があまりできていないように感じた牧島さんのトム。太田さんのアルヴィンの価値観がはっきりと確立しているからこそ、牧島トムの自分にとって大切なものが何かが十分に向き合いきれていない未成熟な若さがとても印象に残りました。
感情的になってアルヴィンの最期の物語の真相を求めた後、まるで寄る辺のない子供のように涙を湛えた表情で「This Is It」を穏やかに歌う太田アルヴィンを見詰めていた牧島トム。幼い弟を諭すように語り、トーマスに「真相を知ることはできない」ことを静かに告げる太田アルヴィンの姿は、彼がトーマスにとってミューズであり、永遠に「敵わない」相手であることを感じさせます。きっと牧島トーマスは温かいけどほろ苦い後悔とともに脳裏の「偉大なる図書館」にアルヴィンを住まわせ続けて人生を歩み続けるのでしょう。「Angels in the Snow」2を書き終えた後、トーマスは再び筆を取れるのか。きっと簡単ではないでしょうがアルヴィンに諭され、たまにはチクッと刺され、励まし続けられながらトーマスが物語を「紡ぐ人」3であり続けることを願わずにいれません。
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