だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

令和2年度重要判例解説ランキング(公法系)

 たいへんご無沙汰しております。「勝手に重判ランキング」が意外と当たるらしいです。

①読者のYさんのコメント

いつも有益な情報ありがとうございます。去年の予備試験の民事訴訟法、重判からの大穴出題予想、みごと的中されていました。 今年の予備論文まで、あと2ヶ月弱です。 ぜひとも、今年も令和2年の重判ランキングをお願い致します!

 確かに当たってる!しかも、厳密に言うと重要判例ではなく、「重判の片隅に載っていた判例」だ…(下記、記事の画像参照)。

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②その他、当たった自慢

 と、いう訳で、今年も重判を超・主観的にランキングしてみました。今年の予備試験にはギリギリ間に合うか!?というタイミングですが、参考にしてください。

 各ランクの意味付けは、こんな感じです。

  • 出題可能性&学習上の有用性(解説含む)を総合判断
  • A=必読。次回百選に掲載されるレベルの判例。
  • B+=読んでおきたい。主要な基本書で言及されそうな判例。
  • B=可能であれば読んでおくと安心。
  • C=暇があれば読んでおきたい。暇はないと思いますが。
  • 無印=読まなくてOK

 なお、そもそも重判を学習にどう活用するか、については下記記事(の前半)をぜひぜひご一読下さい。

憲法

  1. 性同一性障害者特例法における非婚要件 C
    → 家族制度にかかる立法府の広い裁量、という訳で、その裁量が憲法の枠組みに収まっているかどうかは、もはや社会学や政治学の領域のような気もします。

  2. マイナンバー制度の合憲性 C
  3. 医学部入試における女性差別 B
    → 私人間効につき、教育機関(大学医学部)には「公の性質」(教育基本法6条1項)を有することから、より強度の憲法的制約が働くか…?と、理論的には面白そうな判例。ただ、残念ながら被告が得点調整の合理性につき、具体的に主張立証しなかったらしく、あてはめは学べません。

  4. 大阪市ヘイトスピーチ条例の合憲性 B+
    → 個人の権利を直接侵害しない集団誹謗についても、その規制を合憲と認めた裁判例です。規制を受ける表現を丁寧に類型別にして、それぞれの制約の正当化を検証する、という審査手法それ自体を身に着けておくべきです。

  5. あん摩マッサージ指圧師養成施設の認定要件 B+
    → 当分の間、…厚生労働大臣は、あん摩マツサージ指圧師の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合、あん摩マツサージ指圧師に係る学校…において教育し…ている生徒の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合その他の事情を勘案して…あん摩マツサージ指圧師に係る学校…についての第二条第一項の認定…をしないことができる。
     というあん摩マッサージ指圧師学校の認定要件が、憲法22条1項等に反しないか、という問題です。審査目的二分論、というよりも薬事法違憲判決に即して検討するのが筋でしょう。
    積極目的(緩)+事前規制(厳)+客観規制(厳)+「当分の間」「厚労大臣の裁量を重視すべき事情」(緩)
     と考えると、薬事法違憲判決よりは緩く、小売市場判決よりは厳しいだろうな、という審査密度(審査基準)が想定でき、実際に本判決もこのような枠組みで検討しています。理論的にも面白く、かつ、実務的でもありますから、司法試験の出題可能性は低くないように思います。

  6. 憲法53条に基づく内閣の臨時国会召集義務
  7. 在外国民の最高裁裁判官国民審査権の制限 B
    → 憲法15条等の問題というより、「〇〇〇という規程が無いせいで、■■■できない、という不利益被っている!」という立法不作為の場合、どんな訴訟を起こしたらいいの?という行政法的な部分が問題であり、学ぶべきところです。
     大きく言って、
    ・■■■できる地位確認(①)
    ・〇〇〇が無いことの違法確認(②)
    という、2種類の確認訴訟があり得ます。この問題については、平成17年の在外国民選挙権制限違憲判決が、「次回の選挙で制限なく投票できる地位確認(①)」は適法だよ!としていましたが、本判決は、
    ・国民審査できるという地位確認(①)は違法で、
    ・国民審査権を認めないことの違法確認(②)は適法
     としました。平成17年大法廷判決とは逆の結論です。どう理解するか、というところですが、
    平成17年:在外国民に【選挙区選出議員の】選挙権を認めていない【部分的不作為】①
    本判決:在外国民に最高裁裁判官の国民審査権を一切認めていない【全面的不作為】②
     という違いがあります。【①部分的不作為】については、原告の権利救済のためにより適切なのが地位確認(①)。【②全面的不作為】については、裁判所が新たな立法をしちゃうことになる地位確認は不適法で、違法確認(②)に留める。というのが巻先生の見解のようで、筆者もこれは(わかりやすいので…)賛成です。
  8. ハンセン病患者特別法廷の合憲性

 憲法はそこそこの不作です。5番は(かなりひねりが必要ですが…)出題可能性があるかなぁ、という感じ。

行政法

  1. いじめの被害生徒に対して、受信の際に虚偽説明を支持した市立中教諭に対する懲戒停職処分 C
    → 去年も懲戒処分の判例ありませんでしたっけ。比例原則の適用方法(あてはめ)は、読んで勉強しておく価値があります。

  2. 原爆症認定における要医療性要件
  3. 地方団体徴収金の納付告知後になされる給付請求通知と消滅時効の中断
  4. ふるさと納税に係る総務省告示の違法性 B+
    → 改正した法律「寄付金(ふるさと納税)の募集の適正な実施にかかる総務大臣が定める基準に適合する地方団体だけ、住民税の特例控除になるよ」
      告示(基準)「…上記の法改正の前から、ふるさと納税制度の趣旨に反する方法で、著しく多額の寄付金を受領した団体(泉佐野市…)は、基準不適合になるよ」
      原告「総務省の告示は、法の委任の範囲を超えて違法だ!」
     …という訳で、要するに、裁量基準の適法性です。司法試験委員会の大好物です。重要条文である、地自法247条3項(助言等への不服従を理由とした不利益取り扱いの禁止)も引用した解釈がなされており、大変勉強になります。これは読みましょう。

  5. 沖縄防衛局に対する埋立承認取消処分は国の機関が「固有の資格」で相手方となる処分でないとされた事例
  6. 政策に反対の請願を理由とする差別取扱いと国賠請求 C
  7. 故意による共同加害公務員と求償債務の連帯

  8. (番外編)税理士業務停止処分の訴えの利益 B+(大阪地判平成30年8月2日 判タ1467号108頁)
    → 「行政法判例の動き(大橋先生執筆)」に掲載されていた大穴判例です。税理士業務停止処分の期間が経過したら、(狭義の)訴えの利益は無くならないの~?という定番のやつです。
     今回の事件では、業務停止処分を受けた税理士が公認会計士でもあり、かつ、公認会計士懲戒処分の処分基準(金融庁基準)には、懲戒事由として税理士法違反による業務停止処分が行われた場合等…という記載がありました。
     そうすると、先行の処分を受けたことが、裁量基準(処分基準)を介して、後行の不利益処分と結びつくか?というパチンコ店営業停止事件判決(最判平成27年3月3日)と同じ問題が生じるわけです。
     本事件では、先行・後行処分を比較すると、①根拠法令が違う、②処分庁も違う、③そもそもの裁量の範囲も違う、という点が上記最判と違います。出た!司法試験委員会が大好きな、「ひねり=著名判決との事案の(ちょっとした)違い」です。軽くで良い(というか、掲載判例ではないので軽くしか書いていない)ので、ぜひチェックしてみて下さい。

 行政法も不作ですが、問題にしやすそう、というより4番と8番は勉強になりますので、読んでおくべし!です。

まとめ

 総じて、公法系はまたまたまた不作ですね。百選級(何はともあれ必読判例)は今年もありません。憲法7が最高裁に行き、違憲判決が出たら百選掲載!ですかね。