運動失調の原因や評価、リハビリをまとめました



出典:https://ogw-media.com/

運動失調とは

運動失調は筋力低下や運動麻痺がなく、運動自体は可能であるにも関わらず、運動が滑らかでない、拙劣で協調的な動きができない様子を表しています。

 

私たちが運動を遂行するとき、運動を緻密にコントロールするため小脳が大脳、脊髄、前庭系の神経核と連携しています。

そしてフィードバック制御、フィードフォワード制御を用いて運動をコントロールしています。

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運動失調の分類

運動失調は障害の部位によって

・小脳性

・脊髄性(感覚性)

・迷路性(前庭性)

・大脳性

に分類されます。

 

小脳性運動失調

小脳は運動のコントロールの中心的な役割を果たしていますが、この小脳が障害されることで小脳性運動失調が出現します。

 

小脳梗塞や脊髄小脳変性症などで生じ、運動失調の分類のなかで最も頻度が高いものです

 

<特徴>

・深部感覚は正常

・歩行は酩酊歩行様 ・測定異常があり、振戦は企図振戦

・症状は両側にみられることもあるが、病巣と同側に片側性に出現することが多い

・構音障害(爆発性・不明瞭・緩慢)が特徴的

 

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脊髄性(感覚性)運動失調

脊髄に病変があり、位置覚、関節覚などの深部感覚が障害されることで起こります。

深部感覚が障害されると、体性感覚の情報が欠如しフィードバック制御ができなります。

<特徴>

・ロンベルグ試験が陽性

・運動失調は下肢で著明に出現

・歩行時には、足元をみながら足を開いてパタパタと踵を踏みながら歩行する

・閉眼すると運動失調は増悪する

 

迷路性(前庭)運動失調

前庭・迷路系は身体の重力に対する方向や傾き、左右上下の回転、またその速度の情報を入力し、小脳へ情報を送っています。

 

そのため、ここが障害されると起立や歩行時の平衡障害が特徴的に出現します

<特徴>

・深部感覚は正常である

・起立時は足を広げて立つ

・歩行時は千鳥足で歩く様子がみられる

・眼振を伴う

 

大脳性運動失調

前頭葉、側頭葉、頭頂葉の病変でも運動失調が起こることがあり、小脳性運動失調の症状に似ています。

前頭葉を中心とした脳外傷や脳腫瘍が原因の疾患として挙げられます。

<特徴>

・運動失調は小脳性のものと似ている

・病巣とは反対側の身体に症状が出現

・頻度としてはまれである

 

小脳性と脊髄性運動失調の鑑別

小脳性運動失調と脊髄性運動失調の鑑別を表しました。

症状

小脳性

脊髄性

深部感覚障害

なし

あり

ロンベルグ兆候

陰性

陽性

測定障害

あり

あり

振戦

企図振戦

粗大振戦

歩行

よろめき歩き

足元を見ながらパタパタと歩く

構音障害

あり

なし

腱反射

軽度低下

消失

 

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小脳性運動失調の評価

四肢の運動失調は以下の6つに分けられます。

・測定障害

・反復拮抗運動不能

・運動分解

・協働収縮不能

・振戦

・時間測定障害

 

それぞれについて評価と合わせて説明します。

 

測定障害(dysmetria

運動を目的の箇所でとめる・調整することができない現象のことです。

 

測定過大:目的の箇所を超えてしまうことを指します。例えばコップを掴ませるように指示するとコップよりも奥まで手が超えてしまいます。

 

測定過小:目的の箇所まで達しないことを指します。例えばコップを掴ませるように指示するとコップまで達しません。

指鼻試験では指が鼻を強く叩いてしまったり、踵膝試験では踵が膝を越して大腿や脛に達してしまいます。

反復拮抗運動不能

上肢であれば手関節の回内外、下肢であれば足関節でのタッピングなどの交代運動を反復して速く正確に行えなくなる現象です。

失調症でなくても運動麻痺や筋緊張の異常、深部感覚障害の場合でも出現することがありますが、運動失調の場合では動作が拙劣であり、運動の時間的な間隔が不規則になります。

 

手回内・回外検査

座った状態で手を膝の上に置きます。

両手同時にリズムよく膝を叩きながら叩いたら毎回手掌と手背を入れ替えます。

徐々にリズムを速くしていくと小脳障害では障害側の手はリズムが崩れ、動作も円滑でなくなります。

 

運動分解

運動が効率的でなく、目的物に手を伸ばしたときに最短距離でなく、遠回りして目的物に達する現象です。

例えば、手を前方に伸ばした肢位から自分の耳を触ろうとすると、まずは自分の身体に手を寄せて耳に向かって手を上げるようになり、1段階で終わる運動が2段階の運動を要します。

協働収縮不能

私たちは普段動作を行う際に多くの関節と筋が協働的に働いて動作を遂行します。

しかし、協働収縮不能では、この調和のとれた動作ができなくなります。

評価としては、

背臥位で両腕を組んだ状態から起き上がるように指示します

正常であれば、下肢を重り(固定)として上半身だけ持ち上げてくるなどの動作になります。 しかし、協働収縮不能では、下肢を一緒に高く持ち上げてしまい、重りとしての役割を担えなくなります。

 

(企図)振戦

小脳性振戦では企図振戦が出現することが特徴です。企図振戦では目的物に指を伸ばした時に、目的物に近づくほど振戦が著明になる現象です。

 

時間測定障害

動作を開始するときや、やめるときに正常よりも時間がかかってしまう症状です。

「手を握って」と指示があってから実際に手を握り始めるのに健側の手と比較すると動作し始めるまでに時間がかかってしまいます。

 

運動失調のリハビリテーション

Frenkel体操

フレンケル体操は運動失調に対して考案され、視覚を代償的に用いてフィードバック能力を高めて運動失調の軽減を図ります

フレンケル体操では臥位・座位・立位のそれぞれの姿勢で定められた運動を行います。

 

例として

・立位では2本の平行線の間から足がはみ出さないように歩く。

・床に描いた足形に沿って歩く。

などです。

 

患者の状態に合わせて課題の難易度を簡単なものから複雑なものに調整することが重要になります。

弾性包帯による圧迫

運動失調患者の四肢関節に弾性包帯を巻き、感覚入力の増大を図る方法です。

小脳の障害により、筋緊張が低下し筋紡錘からの求心性情報が低下していると考え、弾性包帯による圧迫で関節の安定性の付与とや筋紡錘や腱・関節の固有感覚受容器の求心性情報の入力を増大させる狙いがあります。

また、体幹などの身体の中枢部に巻くことで体幹部の安定をすることで四肢の失調緩和も図ります。

 

重錘負荷

運動失調患者に手関節や足部に重錘を巻き、重さによる固有感覚入力の増大を図る方法です。

重さとしては上肢で200~400gの重り、下肢で300~600gの重りで負荷することで運動失調の軽減につながるとされています。重りを負荷することでの四肢への注意の集中と抹消感覚入力の増大による失調の改善を狙っています。

 

PNF

PNFは筋や関節、腱などの固有受容器に、一定の運動パターンに抵抗を加えることで刺激して筋活動を促す手技になります。

運動失調では、拮抗筋との同時収縮を促通するrhythmic stabilization 、一定の運動パターンを反復させ協調性を向上するslow reversalなどの手技が利用されることが多いようです。

 

基本動作の反復

寝返り、起き上がり、起立・着座、歩行などの基本動作では、反復練習で適切な運動を学習して協調性の改善を図ります。

セラピストによる適切な運動の誘導や介助、声かけで運動のタイミングや動作方法を獲得し、反復練習で学習していきます。

 

エルゴメータやトレッドミル

エルゴメータとトレッドミルは一定のリズムで交互運動ができるため有用であるとされます。