米国関連

米空軍がF-15EXをボーイングに正式発注、プロトタイプ引渡しは2021年

国防総省は13日、ボーイングに対し正式に戦闘機F-15EXを8機発注したと発表した。

参考:DAF awards contract for first lot of F-15EX fighter aircraft

遂に正式発注された米空軍のF-15EX、プロトタイプの引渡しは2021年を予定

米空軍は当初、F-15C、F-16C/D、A-10等の第4世代戦闘機を全てF-35Aで更新する計画だったが、開発に遅れが生じたため既存機の運用期間延長を検討しなければならなくなった。そのためF-16C/Dは構造補強や搭載レーダーのアップグレード(AN/APG-83への換装)などが進行中で、A-10は老朽化した主翼を新たに製造したものに取り替えるなど対策が講じられたが、最も老朽化が進んだF-15Cをどうするのかで揉めることになる。

出典:U.S. Air Force photo by Master Sgt. Nathan Lipscomb

老朽化が進みすぎたF-15Cの保守費用は膨らみ続け、現在同機を1時間飛ばすための飛行コストは約2万2,500ドル(約250万円)に達しており、第5世代戦闘機F-22A(約4万ドル)を除く米空軍の戦闘機の中で最も運用するのに金が掛かる厄介者になってしまった。

国防総省向けの請求レートを元にした1時間飛行するのにかかるコストの目安
F-15C21,290ドル22,489ドル
F-15D21,109ドル21,745ドル
F-15E17,071ドル17,408ドル
F-16C8,374ドル9,054ドル
F-16D8,274ドル9,017ドル
F-22A36,455ドル40,385ドル
F-35A17,701ドル16,952ドル
A-10C6,118ドル6,863ドル

さらに致命的なのは問題はF-15Cの機体寿命が限界を迎えようとしているため、安全性を確保するのが難しくなっている点だ。

そこで空軍は突然、第4.5世代相当にアップグレードされたF-15EXでF-15Cを更新したと言い始めたのだが、議会は旧世代機の新規導入に懐疑的でF-15EXを導入する資金でF-35Aの調達数を増やせばいいと否定、そこで空軍はステルス性能が優れているF-35Aと兵器搭載量が優れているF-15EXは互いに補完しあう関係にあると議会説得に動き、擦った揉んだの末に何とかF-15EXの調達をねじ込むことに成功したが、今だにトランプ政権下で国防副長官に就任した当時のパトリック・シャナハン氏(その後に辞任)が強引に斡旋したものという見方が根強い。

その理由はシャナハン氏がボーイングで上級副社長を務めた人物で、彼がボーイング戦闘機部門の苦境を助けるためF-15EXの導入を強引に斡旋したのではないかと疑いを掛けられ、実際に告発(調査の結果シロ判定)されたからだ。

以上のような経緯を経て無事(?)空軍はF-15EX導入のための資金を確保することに成功したのだが、再び問題に直面することになる。

出典:ボーイング

議会は空軍が主張したF-35とF-15EXを組み合わせを信用しておらず、空軍がF-35AとF-15EXの組み合わせによる効果や空軍全体の戦力構成に関するプランやF-15EX取得に関する計画やリスクに関する報告書を議会に提出するまで承認した資金を使用させないと言い出したのだ。

結局、報告書提出に手間取り予算成立から半年以上発注が遅れることになったが、この度ようやく承認された約12億ドルの資金を使用してF-15EXを8機正式に発注したと国防総省が発表した。

この契約によれば空軍は、正式発注を見越してボーイングが製造を開始しているF-15EXのプロトタイプを2021年に2機受け取り各種試験を実施、その後2023年までに残りの6機を受け取る予定になっている。さらに空軍は2021会計年度予算案でF-15EXを12機購入するための資金を要求中で、2022年から2025年までに計64機のF-15EXを購入するための資金を議会に要求する予定だ。

ボーイングによれば今回の契約の取引上限額は230億ドルに設定されているため米空軍は最大200機(※)のF-15EXを調達する可能性があり、最低でも144機のF-15EXを導入したと米空軍は考えている。単純に上限いっぱいのF-15EXを調達した場合、1機あたりのF-15EX導入費用は約1.15億ドル(約129億円)程度になるとみられる。

補足:取引上限額230億ドルというのは飽くまでも可能性の話であり調達を約束したものではないので注意、現在承認されている予算は8機分12億ドルのみ

出典:Pixabay

因みにF-15EXの機体単価は約8,000万ドル(約89億円)と言われているが、F-35Aの機体単価(ロット11:8,920万ドル→ロット14:7,790万ドル)が値下がりしたため、F-35Aに対する価格的優位性は失われてしまい、F-35の量産が進めば両機の価格差は更に広がるものと予想される。

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force courtesy photo

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 7月 14日

    よかったねボーイング

    • 匿名
    • 2020年 7月 14日

    >ボーイングによれば空軍はF-15EXを最大で144機調達する可能性があり、

    もし144機買うならやっぱりボーイング救済だよなあ。

    海外市場でF-16VやF-35AのLM勢に競合して受注数を伸ばす事が出きるか?

    F-35追加購入に懐疑的だった日本の一部の評論家もF-15Jの更新にF-15EXは主張しないと思うし。

      • 匿名
      • 2020年 7月 14日

      頭狂珍文のハーフ田んぼが、「日本がF35を「爆買い」のウラで、米軍はF15の大量購入を決めた
      やはり、騙されているのか…?」とかいう記事を書いてた。

        • 匿名
        • 2020年 7月 14日

        その珍文は読みました。

        アメリカも日本以上にF-35を購入しているのに意味不明だと思いました。

          • 匿名
          • 2020年 7月 14日

          頭狂珍文の労組は、「事実誤認の有無よりも政権に対峙する姿勢が大事だ」とかツイートしてますからね。頭がおか志位ひとたち。

          1
        • 匿名
        • 2020年 7月 15日

        あぁ見た見た。
        軍事音痴の一般層には受けるのかとも思ったが、ネットの発達で後ろ指を指される存在に既になってますね。

    • 匿名
    • 2020年 7月 14日

    F-35の増産で凌げ無い理由が良く分からん。

      • 匿名
      • 2020年 7月 14日

      増産するにはラインを新たに構築する=投資が必要=単価が上がるからですよ。
      それに新たに構築したライン分の仕事が将来に渡って発生する保証はどこにもない。その場合更に単価が上がる要因になる

        • 匿名
        • 2020年 7月 15日

        ボーイングにライセンス生産も難しいでしょうしね。

    • 匿名
    • 2020年 7月 14日

    良かったなボーイング
    首の皮いちまい

    • 匿名
    • 2020年 7月 14日

    もうF-15よりF-35が安くなってるのは草
    パートナー国も「やっぱりキャンセルせず予定通り購入する」とか言い出したりするのだろうか

      • 匿名
      • 2020年 7月 14日

      すまんがトルコは引き渡しキャンセルされたんだが

        • 匿名
        • 2020年 7月 14日

        トルコはそもそもパートナー国扱いから外されたので
        ここでいうパートナー国に入っていないのは明白だし
        なにがどう「すまんが」なのか意味がわからないが

        1
    • 匿名
    • 2020年 7月 14日

    ただ、F-35ではF-15Eの役割を代替するには能力不足なのも確かだと思う
    搭載量が多くF-35より出撃コストが安い機体はやっぱり必要

    1
    • 匿名
    • 2020年 7月 14日

    ボーイングは旅客機部門もコロナ禍で逝きそうだから、ほんと潰れそうで心配。

      • 匿名
      • 2020年 7月 14日

      ボーイングが潰れるとどれだけの失業者が出るかわかったもんじゃないから、なんとしても助けるよ。

      あと、737MAXについては自業自得だけどね。

    • 匿名
    • 2020年 7月 14日

    ステルスと平行して、用途限定の旧式も生き延びるわけだ、テロリストだの武装勢力相手に。
    今後の編成定型になる気がする
    米中ロシア、今でも数十年前の爆撃機使ってるしね

    • 匿名
    • 2020年 7月 14日

    多分にボーイングを助ける面はあるだろうけど
    今後も競争構造維持するためにはそれはそれで不合理とも思わないかな
    戦闘機部門がロッキード1社になれば、それはそれで長期的にみたら問題ありなのは確かだもの

      • 匿名
      • 2020年 7月 14日

      運用リスクの低減のためにもそうかな。
      事故や不具合で全機飛行停止で米空軍終了になっても困るだろうし。
      どこかの実戦で再評価されることを期待したい。

    • 匿名
    • 2020年 7月 14日

    いちいち飛ばすと色々文句言われる爆撃機と違ってF15Eは爆撃し放題だからね、非正規戦闘で。
    F35だと爆撃任務で2度手間になるし、増槽タンクすらありませんからね(F35で爆撃したいイスラエルはアメと共同開発し始めたらしいけど)敵陣攻撃の機会損失が大きいのでF15EXがいいのでしょうね、空軍は。
    制空任務だけならF35オンリーが正解なんだろうけど。

    • 匿名
    • 2020年 7月 14日

    日本のF-15も初期の輸入型は老朽化していて同じ問題起きてそうですね、コストにどう影響が出ているのやら。
    個人的にはF-3をF-2の置き換えだけでなくF-15の置き換えにも活用してほしいです。
    しかし、F-3は別に成功が約束されているわけでもなく。
    現実的な落とし所はなんでしょうね。

    • 匿名
    • 2020年 7月 14日

    ボーイングはマジで新型機の開発能力を失ったようだ、今すぐ新型機の開発を始めなければボーイングの軍用機部門は完全に消えることになる、型車が発売できずじり貧だった日産は今後10車種以上を出して巻き返しを図るようだがボーイングにはこういうことができない。
    車と戦闘機はレベルが違うが、ゴーンは新型車の開発を止めて利益優先の経営方針で日産はボロボロになった、ボーイングもCEOの利益優先体質がこの結果を生んだんだろう、将来的にじり貧状態になることは確定している。
    戦闘機を新規開発できるのはLM一社になってしまったが、アメリカは今後どうするつもりなんだろう。

      • 匿名
      • 2020年 7月 14日

      F-Xの発注がないんだから勝手に新型機を作るわけにはいかないでしょ
      特に第五世代戦闘機以降の製造コストは高騰し、冷戦期のように資金があるわけでもないんだから、企業が独自に物を作って軍にプレゼンテーションするわけにもいかない
      ロイヤルウィングマンだってオーストラリアの発注があってプロトタイプの製造に至ってるわけだし、航空機は大きなスポンサーがなければ作れないさ

    • 匿名
    • 2020年 7月 14日

    遂に・・・遂にキタアァァァァッ!!

    Fー15EXスーパーイーグル
    っ!!!

    20世紀世界最強の大空の覇者が究極形態機として、
    ステルス戦闘機や無人機が主流となる時代の大空へ・・・!

    いざ、飛翔っ!!!

    • 匿名
    • 2020年 7月 14日

    F-35に複座は無いからな
    後ボーイングを食わせにゃならんしな

    • 匿名
    • 2020年 7月 14日

    爆弾マシマシで空対地やって良し、F35をレーダーにしてミサイルキャリアーで対空やって良し、いいと思うんだけどな。

    • 匿名
    • 2020年 7月 14日

    ボーイング救済のためにも良かったですね、流石にLM1社だけだと先細りになる。

    F-35Aは既に習得コストだけでなく運用コストもF-15Eより下がっているんですね。単座と複座の違いが有るから直接の比較は出来ないけど費用対効果はかなり高い模様。結局日本は良い買い物をしたって事になるかなぁ?

    • くえすあいR
    • 2020年 7月 14日

    ラプターを導入して。ラプター自体の価格を抑えて、加えてラプターなんてそのうち時代遅れになるわけだか、今のうちに量産して価格をさげるのが懸命じゃない?ばんばん輸出して価格を下げなさい。
    今更、F15を導入しようとするアメリカに国防を任せていいのだろうか?
    多分あほなトランプは自国のボーイングを救済するために、自国て導入して実績を作ってからの他国への輸出を狙ってんだろうな(笑)
    ただの経済人のトランプが考えてるほど国防は甘くないと思います。
    中国のステルスが想像以上にできる機体ならイーグルの増産は無意味だと思います。
    ラプターを追加導入して、近々時代遅れになるだろうラプターを輸出して、ラプターの価格を下げたほうがよほど懸命だと思います。
    そもそもボーイングの戦闘機なんて知らないから。黙って旅客機作ってろ!

      • 匿名
      • 2020年 7月 14日

      もしご存じだったら申し訳ないが、F-22はすでに生産ラインを閉じてずいぶん経つそうで。

      これから再生産となると、ラインを構築して、必要な治具・工具を揃えて、作業員の教育をして…と時間とおカネがかかりすぎる。

      現実的じゃないって結論が出てる。

      • 匿名
      • 2020年 7月 15日

      既に生産ラインを閉鎖しているラプターを再生産して低価格で販売するって無理だろ。

      そもそもラプター作ったのはLMなのだから今はF-16VとF-35の生産で手一杯だと思う。

      • 匿名
      • 2020年 7月 15日

      米軍の今後の事を考えればボーイング救済にも意味はある。
      ただしF15系統を2020年代になって未だに欲しがる金持ちの外国は・・どうかなぁ見つかるかなぁ?ってな感じ。

    • 匿名
    • 2020年 7月 14日

    F-35は多くの国のサプライヤーが集まって作ってるから、F-15のほうがアメリカの戦闘機って感じがして好き

    • 匿名
    • 2020年 7月 14日

    F-35とF-15EXの情報共有は何を使うの?
    F/A-18E/F BlockⅢと同じ「Link-16」ですか?
    管理人さん、次回に追加情報をお願いします。(m。_。)m オネガイシマス

    • 匿名
    • 2020年 7月 16日

    機体価格ばっか注目されるけど機体寿命がF-15SEはF-35の倍位ってのを考えるとF-35Aばかりを大量導入すると後で困る気がする
    F-15SEで賄える任務はF-15SEの方がトータルコストで得だと思う

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