はじめまして。

うぐ丸です。

 

 

可愛い顔をしていますが、こう見えてもれっきとしたホーランドロップの男です。

寒さ厳しい冬に生まれ、たくましく成長しております。

 

 

僕は6人の兄弟と共に

優しい人間の男の人と女の人から

たっぷりとした愛情を一身に受け、

藁の座布団が敷かれたこじゃれたワンルームで

のびのびと、穏やかに暮らしておりました。

 

 

男女の管理人付のこのワンルームでの暮らしは非常に快適で、

家賃・光熱費なし。

水飲み放題&チモシー食べ放題。

朝夜には別途ペレットとサプリメント付。

トイレ掃除は専用のお手伝いさんが

決まった時間に清掃をしてくれます。

 

さらにネイルサロンやヘアサロンも完備。

抱き上げられる瞬間は少し身構えてしまいましたが、

回数をこなすうちに

管理人さんの巧みな手さばきが病みつきになってしまいました。

 

 

また、幸いなことにルームシェア相手にも恵まれておりました。

幼いころから一緒におりましたので、特に意識はしておりませんでしたが、

今思えば見目麗しいおしとやかな淑女だったように思います。

 

着かず離れず、程よい距離感を保つのが上手な兎で、

遊びたいときにはほどよくかまってくれ、

逆に一人の時間が欲しい時には

僕をトイレにこもりっきりにさせてくれるなど、非常にできた兎でした。

 

 

たまに部屋割りが変わることもあり、

彼女のほかにも様々な兎と生活を共にしましたが、

彼女との暮らしが最も穏やかなものでした。

 

 

 

 

 

 

寒さが深まるにつれ、

一人、また一人と仲の良い兄弟たちが

優しそうな人間たちと共に

このワンルームを後にしてゆきました。

 

 

「このままここで一生を穏やかに暮らすのも悪くない」

 

 

チモシーをくわえ、穏やかに微笑んで見せた仲の良いお友兎も

べっぴんの人間の女の人に眉間を撫でられ、

垂れた耳が床にくっつくのではないかというほどに

とろけた状態で僕の前から去りました。

 

 

「人間の手には魔力があるのよ。

優しい人間ほど、掌に秘めた魔力で兎から力を奪い、腑抜けにしてしまうの」

 

 

いつだったか、このワンルームに入居する前、

母からそんな話を聞いた覚えがあります。

腑抜けにされた後はどうなるんだったか…。

 

 

そんなことを考えるうちに、

いつしか凍てつくような寒さはすっかりと落ち着き、

僕の穏やかな日々が世界へ広がっていったような

暖かくのどかな気候が続く季節になりました。