前回の患者さんの話を聞くと、塩分制限を最初は6g未満を目標にやっていたら、徐々に薄味になれたので、この1か月間は1日1g未満を達成していたそうです。

 

食事が原因の低ナトリウム血症の診断です。点滴により緩徐にナトリウム補正を行い、2週間で退院となりました。

 

低ナトリウム血症は、120mEq/L以上であれば、悪心や食欲低下などの症状を認める程度ですが、120を切ると傾眠、無欲などの意識障害を認め、110を下回ると精神不穏やけいれんなど重篤な症状を引き起こし死亡する危険性もあります。

 

上記の症例からも明らかなように塩分制限にも下限は必要です。

色々な報告がありますが、下限は一番低い値で2.5g以上の摂取を勧めています。

現実的には4gあたりを下限とする報告が多いです。

 

厳しすぎる減塩は害になります。いかに計算して塩分を摂っていくかが大事です。

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実際に私が大学病院時代に経験した患者様を見てみましょう。

 

・57歳男性、5年前から高血圧症、半年前より徐々に腎機能低下を認め、血清クレアチニン値 1.2~1.3mg/dlと高くなっていました。

 

腎機能低下を認めてから、奥様も外来に一緒に来るようになり積極的に食事療法について関わり夫婦で頑張るようになっていました。

 

ある日、奥様より「力が入らず、立つことができない。なんか意識もボーっとしている感じです」と病院へ電話がありました。救急車ですぐに来院するよう指示。来院後、血圧 88/64mmHg, 脈拍 72/分、意識レベルは名前や場所などコミュニケーションは取れるが、いつもより反応が悪く活気がない。頭部CTにて明らかな異常はなし。

 

採血結果にて、血清Na 112mEq/L(正常値 136~147)と低ナトリウム血症を認め緊急入院となりました。

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2013年BMJ Open誌(著者:Powles J, Fahimi S, Micha Rらより引用)より塩分摂取量の地域別比較表が発表されました。

上の目盛りが食塩摂取量(g/日)、下の目盛りがナトリウム換算量(g/日)となっています。

さらに、細かいデータで、

2010年世界の平均は10g、アメリカ9.1g、イギリス9.2g、オランダ8.4gであり、

日本12.4g、中国12.3g、韓国13.2g、ロシア10.6gと東アジアや寒い国で高いことが示されています。

2012年厚生労働省の「国民健康・栄養調査」では成人男性 11.3g、女性 9.6g

2017年厚生労働省の「国民健康・栄養調査」では成人男性 10.8g、女性 9.1gと

この近年の啓蒙活動で減塩は少しずつ広がっていますが、まだまだ、塩分制限に関して日本人は塩分を摂り過ぎであることがわかります。

 

塩分摂取に関しては腎臓からの塩分排泄処理能力の問題もあり、日本は塩分多い食事ながら、野菜・果物からカリウムを十分に摂っているためナトリウム排泄を助け長寿になっているのではとも言われています。

減塩のリスクとベネフィットに関しては、さらなる研究が必要です。

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