植物園「 槐松亭 」

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鶏血石を鑑定する(中編) 赤い色だったらみんな鶏血か?

2022年12月03日 | 篆刻
中国印石三寶と言われて尊ばれる印材は「田黄石・鶏血石・芙蓉石」であります。印材の研究、夥しい数の印材を保有しているワタシの泣き所は、実は本当に価値がある真正の「田黄石・芙蓉石」を良く知らないということにあります。
お金をケチってはヤフオクで落札しているので、どれが本物でどれが偽物・類似品かの区別が定かでないのです。

これは、そもそも篆刻に使う石印材の多くは「ヨウロウ石」(葉蠟石、 パイロフィライト)であることと、外観では似たような石が何百種類もあって、古来から主観で分類される、という特性にもあるのです。石の仕分けは第一には「産地」がベースにあって、その産地(山系)や出土・採石した場所がはっきりするのが重要なのです。それから色合い・透明度・模様・肌理などの特徴から、主に外観でネーミングしています。例えば「田黄」は、寿山の田坂郷の畑の中に埋もれていた黒っぽい皮を被った丸石が厳密な田黄で、その色合いで田黒・田白・田紅などと呼ばれるようになりました。

芙蓉石もまた、芙蓉山系で採掘された半透明な乳白色の石がベースながら、様々な色合いがあって様々な呼び名に分かれていくのです。一方、田黄石はもはやその資源が枯渇し新たな産地は見つかっていません。美しく高値で取引されてきたので、これに似た黄色ぽい類似品、数多くの別種の石を田黄と偽って売ったことからことがヤヤコシくなったのです。

さて、そこで鶏血石ですが、その産地から大きくは二つに分類されます。一つは昌化石系、浙江省臨安県の文玉岩山というところから産出されるのが昌化石であります。臨安県は割合海に近く、上海の西側に位置します。その中で鮮血の様な色合いの緻密な硬い石を昌化鶏血石と呼ぶようになったのです。

ヨウロウ石とは異なり、粘土と石英が主成分であります。硬度が7くらいの硬い鉱石として知られています。 これに印泥に用いられる辰砂が加わって赤い色を造り出しています。昌化石である場合は肌がカサカサという説もありますが、 昌化石にも赤のほか、黒、黄など何色も混ざった多色昌化石などがあり、非常にきめ細かい艶やかな材もあるので一概に決めつけることは出来ません。( 浙江省にはもう一か所、青田県というところで数百年以上前から彫りやすく美しい石が産出されていて、篆刻石材の一大産地となったのです。)

他方、内蒙古(モンゴル自治区)で採石されるのが、細工がしやすいので工芸品として自然石の細工物が売られていたのです。これを割合最近(4~50年位前)、「巴林石 (パリン石)」として、印材用に市場に出回るようになりました。見た目も美しく彫りやすい、欠けにくい印材として最近はこの石を愛用する篆刻家さんも増えているようです。このパリン石にも赤い鮮やかな色が混じったものが混じっていることから巴林鶏血石と呼ばれるようになったのです。

こちらはどちらかといえばねっとりとした赤い色で、艶やかなものが多いようです。パリン石は、概ね派手な色合いや模様が混じって、古来から賞玩された伝統的な鑑賞石と比べて「下品」と見られる傾向があります。

さて、鶏血石もやはりピンキリであります。珍重されて非常に高値で取引される要素の筆頭が「色」、その赤い血の色の鮮やかさと全体に占める割合が鑑定や評価の最大のポイントになります。その割合から「上級」「珍品」などと仕訳けられ、最も血の気が多い(笑)のが「大紅袍」 などと呼ばれています。かつて国交回復を記念して、周恩来さんが田中角栄さんに贈呈したのがこの(昌化)「大紅袍鶏血石」というのが広まって、日本人が昌化鶏血を求めて中国に行ったと言います。

また、手のひらで転がして愛玩される他の印材と違って、赤い色の辰砂(硫化水銀 )は酸化しやすく日光に当たると黒ずんで汚くなります。掌にある油も有害で赤い部分が崩れて凹んできたりします。管理状況によってその価値も大きく変わるのです。

さらに、鶏血石は古来より「石の皇后」などと呼ばれて、驚くような高値が付くものもあるので紛い物や偽物、類似品も多いのです。人造石や粗悪品は無価値であり、「新鶏血石」と呼ばれる、上記の2大産地に属さない正体も出所も不明の赤い石が昭和初期に出回ったと聞きます。また、「血石」(bloodstoneの直訳 )という赤い色が混じった黒緑色の硬い玉石もあります。これは全く刻に適さない飾り石であります。

とまぁ、ざっくりと 鶏血についての予備知識を踏まえたうえで入手した二つの石をじっくり調べて、その価値を見極めようというわけであります。

それに役立つのが、ワタシの安物の数多の鶏血石コレクションであります。

ざっと数えて70本近くあります。高いものは少ないですが、人工物はありません。全て自然石で90%以上は一応鶏血石と断定しています。これで、おおまかに昌化石系かパリン系かの区別はつくのです。

因みに、真っ赤なにせものはコレです。
写真のやや右上にあるのがフィルムを剥がしたところです。これは普通の丸い印材全体をフィルムで覆ったものです。

ここで予定稿に達したので続きはまた明日。こうご期待であります。<m(__)m>

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