石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

SF小説:「新・ナクバの東」

2022-01-17 | その他

(英語版)

(アラビア語版)

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」

Chapter 1. 未明の出撃

 20XX年某月某日未明、イスラエルの空軍基地から3機のF35ステルス戦闘機が東に向けて飛び立った。通常の訓練飛行或いは作戦訓練であれば西の地中海上空に向かうはずである。東へ向かえば数十分で隣国ヨルダンの国境を越え、さらにはサウジアラビア或いはイラク上空に達する。それは明らかな領空侵犯である。

 

しかし3機は離陸後ぐんぐん上昇し、高度1万メートルに達すると水平飛行に移り迷うことなく進路を真東にとった。高々度で巡航し目標地点が近くなれば低高度で侵入、任務終了後再び高々度に上昇して基地に帰還する予定である。作戦用語でいわゆる「Hi-Lo-Lo-Hi(ハイ・ロー・ロー・ハイ)攻撃」と呼ばれるものである。機内の全地球測位システム(GPS)と機体に装着したレーザー誘導爆弾(LGB)「バンカーバスター」にセットされた攻撃目標はイランの首都テヘランの南200マイルにあるナタンズ。目標までの距離は約2,000KM。ナタンズの地下十数メートルの壕には数千基の遠心分離機によって濃縮ウランが製造されている。イランの核開発施設の中で最も需要な施設の一つである。

 

 イランの核関連施設にはナタンズの他にウラン遠心分離に必要な六フッ化ウランを生産する施設がイスファハンにあり、またアラクに重水プラント及びプルトニウム生産炉がある。これら三つの施設が総合的に結びつけば、イランは米英仏露中の五大国及びインド、パキスタン、北朝鮮に次ぐ世界9番目の核兵器保有国となることができる。否、イスラエルが核兵器を保有していることは公然の秘密であるから、イランは10番目の核保有国となる。イスラエル自身は核兵器を保有していることを否定も肯定もしない。思わせぶりな態度を取ることがむしろ周辺アラブ・イスラム諸国に対する無形の圧力となっている。

 

その一方、イランの核開発を座視すればイスラエルは自国の優位性を失うことになる。そのイスラエルにイラン核施設を攻撃する絶好の機会が訪れた。米国の共和党大統領がイランと世界の強国が結んだ核開発協定を一方的に離脱し、経済制裁を課した。と同時に大統領はUAEなどアラブの数カ国を抱き込んでイスラエルと外交関係を結ばせた。さらに中東地域からの米軍の撤退を進めた。この結果、中東地域のパワーバランスが崩れたのである。

 

これを契機にイランはウラン濃縮を再開、核兵器の実用化に必要な濃度まで今一歩に達した。欧米諸国はイランが危険なレッドラインを越えたととらえた。イスラエル軍部、そして極右国粋主義者達にとっても受け入れられないことであった。彼らユダヤ人は自分たちが人類史上最も優秀な民族であると固く信じている。米国の白人には一目置くものの、自国の周辺に住むアラブ人、ペルシャ人などは劣等民族としか考えていない。数次にわたる中東戦争でアラブ人を完膚なきまでに叩きのめした。そして今、米国のとりなしでUAE、スーダンなどいくつかのアラブ諸国と和平を結んだことによりアラブ陣営を無害化することに成功した。

 

イスラエルにとってペルシャ人とてもアラブ人と五十歩百歩である。イランごときが自分たちと対等の立場に立つのは我慢ならないのである。降ってわいたのが米国の大統領の交代である。新しい大統領はイラン核交渉への復帰を表明し、またイスラエル国内の入植地拡大に異議を唱えた。ただ復帰交渉は難航している。

 

イスラエルは米新政権の厳しい姿勢に焦ると同時に、イランの核兵器が開発途上である今こそがイランを叩く絶好のチャンスと考えた。イスラエル軍部にイラン攻撃論が急速に高まった。

 

 ナタンズ爆撃に向かうイスラエル空軍パイロットにとってはそのような政治や経済の問題など無関係である。今彼らの心は高ぶっている。何しろイスラエル空軍が他国に出撃するのは久しくなかったことである。最近で言えばイラクの核疑惑施設空爆とレバノン南部のヒズボラーキャンプ攻撃があるが、いずれも近距離の隣国であり、アラビア半島を横切る本格的な長距離爆撃は初めてのことである。

 

(続く)

 

荒葉一也

 


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