孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  コロナ禍のもとでの総選挙 選挙から排除されるイスラム教徒 中国マネーの影

2020-10-21 23:22:52 | ミャンマー

(ネピドーで9月27日、NLDの32周年式典にフェースシールドをつけて出席したアウンサンスーチー氏 【10月20日 朝日】)

 

【総選挙 コロナ禍の選挙運動制限を利用するスー・チー与党】

世界が注目するアメリカ大統領選挙は11月3日に迫っていますが、ほぼ同時期の11月8日にはミャンマーの総選挙も行われます。

 

8月22日ブログ“ミャンマー総選挙  陰りが見えるスー・チー人気 ロヒンギャ対応では軍政と同じとの批判も”でも書いたように、ノーベル平和賞受賞者のアウン・サン・スー・チー国家顧問は、ロヒンギャ難民問題をめぐり国際的な評価はがた落ちになったものの、国内では今も根強い人気を誇っています。

 

ただ、前回総選挙時の圧倒的人気とは様相も異なります。

 

新型コロナで選挙活動が制約されるなかで、スー・チー氏は政権党および圧倒的知名度の強みを最大限に活用して勝利を目指す戦略のようです。

 

****「与党有利で不公正」批判 ミャンマー、コロナ下に来月総選挙*****

ミャンマーの総選挙が11月8日に実施される。前回は軍の政治支配に終止符を打つ歴史的な転換点となったが、今回は新型コロナウイルスの感染拡大で、街頭活動がままならない中での選挙戦になった。

 

圧倒的な知名度を誇るアウンサンスーチー国家顧問が率いる与党が優勢を保っているが、野党勢力からは「公正な選挙戦ができない」と批判の声が上がっている。

 

「選挙はコロナとの闘い以上に、ミャンマーの将来にとって重要だ」。スーチー氏は9月下旬、与党・国民民主連盟NLD)のオンライン会議で訴えた。野党側は再三、延期を要求したが、政権側は予定通り選挙を実施する構えだ。

 

8月中旬までミャンマーの累計感染者は数百人で推移したが、移動制限などを緩めた途端に感染者が急増した。最大都市ヤンゴンなどで外出を禁止する措置を取ったが、感染拡大のペースは落ちていない。都市部などで街頭での選挙活動が規制され、NLDが数万人の支持者を集めた5年前とは対照的な光景が広がる。

 

前回の総選挙では、民主化運動の指導者だったスーチー氏が率いるNLDが大勝し、軍の政治支配が半世紀以上続いていたミャンマーの歴史を変えた。

 

今回は5年間のNLDの実績が問われ、最大野党で国軍系の連邦団結発展党(USDP)や、少数民族政党がNLDにどこまで迫れるかが焦点だが、選挙運動が十分にできないことへの野党側の不満は強い。

 

選挙運動がままならなければ、圧倒的な知名度のスーチー氏が率い、国営メディアなどを通じて政策も訴えられる与党に有利に働くためだ。

 

NLDからたもとを分かった民主派の人民先駆者党(PPP)や、軍人出身のシュエマン元下院議長の連邦改善党(UBP)などの新党も苦しい選挙戦を強いられている。都市部はNLDの大票田のため地方での得票が勝負どころだが、移動制限で現地入りすら難しいのが実情だ。

 

 NLD、進まぬ2大公約

歴史的な政権交代を果たしたNLDだが、2大公約だった「少数民族和平」と「憲法改正」はこの5年でほとんど進んでいない。

 

多民族国家ミャンマーでは長年、少数民族と国軍の内戦が続く。前回選挙で少数民族勢力は、和平の進展を期待して多くがNLDを支持したが、和平交渉は停滞。今回は一定数がNLDに見切りをつけ、地元の少数民族政党に投票するとの見方が出ている。

 

憲法改正でも苦戦している。NLDは今年1月、国会の議席の4分の1を軍人に割り当てている現憲法の「軍人枠」などの改正案を提出したが、軍人議員らの反対で否決。総選挙を前に改憲の意思をアピールするのが精いっぱいだった。

 

スーチー氏はこの間、現在も政治に強い影響力を持つ国軍を刺激しない政権運営に終始した。少数民族和平や憲法改正で協力を得るためだったとみられるが、言論の自由を後退させたと指摘されている。

 

一方で、長年にわたり民主化運動を率いてきたスーチー氏の人気は根強い。民主活動家で、1988年の民主化運動にも参加したジーミー氏は「民主主義のために今後もNLDを支援し続ける」と期待を寄せる。

 

国際社会から厳しい批判を浴びている少数派イスラム教徒ロヒンギャへの迫害問題は、選挙の争点にはなっておらず、与党側にとってマイナス要因にはなっていない。

 

ミャンマー現代史に詳しい根本敬上智大教授は上下院664議席で、NLDは前回より議席を減らしつつも、過半数を維持するとみる。「投票率は下がると思うが、『スーチーしかいない』という、半ば消極的な支持でNLDが勝つだろう」と分析する。【10月20日 朝日】

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【選挙から排除されるイスラム教徒、ロヒンギャ】

東京でも“在外投票が3日、東京都内のミャンマー大使館で始まり、早朝から数百人が列を作った。名古屋の名誉領事館と合わせ約8千人が14日までに投票する見込み。投票した人からは「改革を続けてほしい」と、民主化の前進を願う声が聞かれた。”【10月3日 共同】

 

しかし、国内少数派のイスラム教徒、特に問題となっているロヒンギャなどは、選挙に参加できない者が多いという実態も。

 

****投票したい…選挙から除外されるイスラム教徒ら ミャンマー****

ミャンマーのメイ・タンダー・マウンさんは、11月の総選挙で初めて投票するのを心待ちにしていた。

 

しかし、マウンさんは「イスラム教徒だからという理由で、身分証明書を取得できていない」と話す。身分が証明できなければ、投票はできない。

 

マウンさんの身分証明書を取得しようという試みは、地元当局によって1年以上にわたり妨げられてきたという。一方、仏教徒はこのような問題とは無縁だ。

 

マウンさんの故郷ミャンマー中部のメティラは、2013年に仏教徒とイスラム教徒の衝突の傷痕が今も残っている。

 

仏教徒が多数を占めるミャンマーでは、2011年の民政移管後から2度目となる総選挙が11月8日に行われる予定だ。アウン・サン・スー・チー国家顧問が率いる与党・国民民主連盟が再び政権を握るとみられている。

 

今回の総選挙では、バングラデシュの難民収容所や、ミャンマー国内の避難民キャンプや村に閉じ込められているイスラム系少数民族ロヒンギャの選挙権はほぼ全員剥奪される見込みだ。

 

ミャンマーには、ロヒンギャ以外にもイスラム系民族がおり、人口の約4%を占めている。このようなイスラム系民族は、理論上は市民として認められているものの、実際の扱いは異なっている。

 

「学校、職場で差別されている他、公職への就業機会にも違いがあり、反イスラム感情は絶えず存在する」と話すのは、ヤンゴンを拠点に活動するアナリストのデービット・マシソン氏だ。

 

また、身分証明書を取得できたとしても、民族を記載する欄があるため苦難は続く。イスラム教徒の身分証明書には、主に南アジア出身であるという偽の民族が記載されることが増えている。

 

約25万人いるヒンズー教徒も「混血」と記載されるという、同様の問題に直面している。

 

■「最も好ましくない」民族

だが、最も好ましくないとされる民族は、主に迫害を受けているロヒンギャを指す蔑称として使われる「ベンガル人」だ。

 

2017年8月のミャンマー軍の弾圧によって75万人のロヒンギャが、ミャンマーのラカイン州からバングラデシュに逃れた。この弾圧は、国際司法裁判所がロヒンギャへのジェノサイド(大量虐殺)をめぐる裁判を開くきっかけにもなった。

 

ミャンマー国内では今も約60万人のロヒンギャが暮らしているが、市民とは認められず、権利も剥奪され、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが「アパルトヘイト」と呼ぶ状況で暮らしている。

 

マシソン氏によれば、最近ではイスラム教徒が「ベンガル人」として登録させられる事例が全国で相次いで報告されているという。

 

同氏は、NLDは「支持者の多くが問題視していない人種差別的な制度を修正するよりも、重要なことがある」と考えていると非難した。

 

イスラム教徒のマウン・チョーさんは、軍事政権の時代よりもイスラム教徒に対する差別はひどくなっていると指摘する。イスラム教徒は「失望し、意気消沈して」おり、自身の多くの知り合いは、現政権に幻滅し、総選挙では投票しないと決めていると述べた。 【9月15日 AFP】

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「ベンガル人」として登録すると、生粋のミャンマー国民とは異なる海外から移民扱いにもなります。

仏教徒以外をミャンマー国民から排除しようという試みでもあり、ロヒンギャ弾圧と根を同じくする問題です。

 

【ロヒンギャ迫害の国際司法裁判】

そのロヒンギャ問題については、上記記事にもあるように国際司法裁判所においてロヒンギャへのジェノサイド(大量虐殺)をめぐる裁判が行われており(訴えたのは西アフリカ・ガンビア)、昨年12月、スー・チー氏本人が出廷し、ほぼミャンマー国軍を擁護する主張に終始したことも話題になりました。

 

その後の話は聞いていませんが、進行中であるのは間違いないようです。

 

****ロヒンギャ迫害の国際裁判参加=カナダとオランダ、原告支援****

カナダ、オランダ両政府は2日、共同声明を出し、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャ迫害をめぐる国際司法裁判所(ICJ、オランダ・ハーグ)での裁判に参加すると発表した。ジェノサイド(集団虐殺)があったとしてミャンマー政府を提訴している原告のガンビア政府を支援する。

 

声明では、残虐行為の責任を追及しジェノサイド条約を守ろうとするガンビアを称賛し、「全人類に関わるこうした努力を支えるのは、われわれの義務だ」と強調。特に性的暴力に関連する犯罪行為を重視して協力する方針を示した。また、ほかの条約締約国にも支援を呼び掛けた。【9月3日 時事】 

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どういう経緯でガンビアが表に立っているのかは知りませんが、やはり批判の主体である欧米が前面に出るべきでしょう。

 

この問題でのミャンマー、そしてスー・チー氏への批判は未だ収まっていません。

“ミャンマー軍兵士、動画でロヒンギャの大量殺害告白 人権団体が主張”【9月10日 CNN】

“スーチー氏、人権賞グループの活動資格失う 迫害黙認で”【9月10日 朝日】

 

【中国マネーで進む開発 環境問題などで政権が住民と中国の板挟みになることも】

今日目にした記事は、中国の影響に関するもの。

軍事政権時代、欧米からの制裁を受けていたミャンマーは中国に接近しました。

 

民主化によってその影響は薄れるように思えたのですが、昨今のロヒンギャをめぐる欧米との対立、ミャンマーを「一帯一路」の要として重視する中国の対応もあって、やはり中国の影響は色濃いようです。

 

****急増バナナ園、中国マネーの影 ミャンマー北部、健康被害の懸念****

ミャンマー北部のカチン州で、急拡大するバナナ農園に地元の人々から反対の声が高まっている。実質的に農園を運営するのは中国企業。土壌や水の汚染、住民の健康被害が報告されているなかで、ミャンマー政府の対応は――。

 

 ■農薬散布「焼けるような痛み」

3~4メートルほどの高さのバナナの木が生い茂る。濃緑の大きな葉に遮られ、昼なのに暗い。カチン州ワインモーでは至るところにバナナ農園が広がっている。

 

ただ、働き手を取り巻く環境は過酷なようだ。2年間、農園で殺虫や除草などの仕事をしているタンラーさん(38)は、農薬や殺虫剤をまく時期に毎日のように、体全体に焼けるような痛みを覚える。

 

毎日12時間働き、賃金は夫と合わせて月16万チャット(約1万3千円)。昨年出産した男児の腹からは腫瘍(しゅよう)が見つかった。「農薬との関係はわからないが、家族全員の体がむしばまれている気がする」

 

カチン州の環境保護団体のブランアウンさんは「バナナ農園では大量の農薬や化学肥料が使われ、住民は日常的に汚染された水を飲み、農作業で体を壊す人もいる」と訴える。住民と環境保護団体が協力して州政府に訴えているが、ブランアウンさんは「役人は面会すら拒み、我々の意見を聴こうとしない」とため息をつく。

 

収穫されたバナナはほぼ全てが中国に輸出される。8年前から農園で働くアウンサントゥンさん(36)は「収穫期にはトラックに乗った数百人の労働者がやってくる。収穫されたバナナは中国国境に消えていく」と話す。

 

カチン州政府などによると、2006年ごろ、中国との国境付近で盛んだったアヘン用のケシ栽培を減らすため、政府の支援でキャッサバやバナナなどの栽培を増やそうとしたのが始まりだった。次第に、ミャンマーと中国の合弁企業が運営する農園が増え、14年ごろからは急増した。ワインモーではいま、東京都世田谷区と同程度の60平方キロにまで広がった。

 

 ■「合弁」名乗り、登録すり抜け

カチン州政府によると、同州でバナナ農園を経営する企業が40社以上ある。いずれも社名はミャンマー語だが、「中国企業の隠れみのだ」と地元の僧侶、アシンビジャヤ氏は指摘する。

 

住民から健康被害などの相談を受けてきたアシンビジャヤ氏は「中国企業は名目だけの代表者にミャンマー人を据えて『合弁企業』と名乗り、外国企業に必要な登録をすり抜けている」と言う。18年5月には政府が州議会で、当時バナナ農園を営んでいた45社のうち44社は「適切な登録をしていない」と認めた。

 

農園で中国人の通訳をしているザウンイワルさん(44)は「各農園では1~2人の中国人が農薬散布や収穫時期を指示し、ミャンマー人は従うだけ。中国人は農園近くに住み、本国と連絡をとって収穫量などを調整する。ただ、農薬散布時は健康被害を気にしてか、中国に帰ってしまう」と話した。

 

農園運営企業の一つ、「グランド・エートゥット」の営業責任者エートゥット氏が取材に応じた。「バナナ農園の農薬が環境に負担をかけるのは他国でも起きていること」と主張し、政府への登録については「手続きに時間がかかっているだけ。我々は合弁会社で、外国企業ではない」と釈明した。

 

一方、州政府農業大臣のチョーチョーウィン氏は取材に、「無登録の運営企業があるのは確かだが、適正な登録を促すなど対応している。環境被害を示す明確なデータはない」と話した。

 

 ■国境の州、混乱の歴史と事情

「バナナ問題の背景にはカチン州の複雑な現状がある」と、キリスト教徒の多い同州で大きな影響力を持つカチンバプテスト教会のカラム・サムソン氏(59)は話す。

 

カチン州では、少数民族武装勢力のカチン独立機構(KIO)が多くの地域を実効支配し、政府側も手出しができない。「混乱に乗じてKIOとつながりを持つ中国企業が入り込んできた」とサムソン氏。難民キャンプなどに逃げた住民の土地が次々とバナナ農園にかわったという。

 

ミャンマーと中国との関係も影響する。ワインモーには、ミャンマー軍事政権(当時)と中国企業が36億ドル(約3700億円)で合意したが、環境問題などを理由に建設が凍結された大規模水力発電所、ミッソンダムがある。

 

「建設再開を求める中国に『負い目』を感じ、強い態度に出られないミャンマー政府の姿勢がバナナ問題にも影響している」とサムソン氏は語る。

 

地域の貧困問題も背景にある。カチン州のジャーナリスト、ランカウン氏(27)は「バナナ農園をなくしたら職にあぶれる人が続出し、さらに貧困が進む。まず地域の和平を成し遂げ、中国やKIOに左右されないカチン州独自の産業を生み出さなければ、問題はずっと続く」と話した。【10月21日 朝日】

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中国の問題だけでなく、少数民族問題、さらには貧困問題も絡んだ状況のようです。

 

チャイナマネーによるミッソンダム建設については“ミャンマー北部カチン州でのミッソンダム開発計画を再開するのか、それとも最終的に中止とするのか。ミャンマー政府としてはインフラ開発が遅れているだけに、中国からの資金的な援助は喉から手が出るほど欲しいが、環境破壊を懸念する地元住民の反対を押し切るほどの勇気もない。しかしいつまでも放置しておくわけにはいかず、決断の時期が近づいている。(拓殖大学名誉教授・藤村幸義)”【2019年6月18日 SankeiBIz】という、中国と地元住民の板挟み状態が続いているようです。

 

ミャンマー中部で開発中のレパダウン銅山(ミャンマー国軍と中国企業の合弁事業)で、公害を懸念して閉鎖を求め居座る地元. 住民や僧侶たちのキャンプを警察当局が強制排除したように、この種の開発事業に関しては開発を優先させる傾向にあるスー・チー政権です。それは、スー・チー氏としては国民生活向上を最重視していることの表れでもあるでしょうが。

 

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