孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾  米中対立のなかで中国との軋轢も激化 「民主主義の防波堤」とは言うものの・・・

2020-09-19 23:34:50 | 東アジア

(台湾南方のバシー海峡上空を飛行する中国空軍のTu-154M型機(左)と、台湾空軍のF-CK-1戦闘機。(2018年5月11日撮影)【9月17日 AFP】)

 

【弔問外交、米国務省では最高位高官の訪台 ニューヨークでも】

弔問外交というのは、外交におけるひとつのパターンですが、台湾では李登輝元総統の告別式にアメリカからクラック国務次官(経済成長、エネルギー、環境担当)が訪台し話題となりました。

 

台湾外交部(外務省)によると、1979年の米台断交以来、国務省では最高位の高官による訪台であり、8月のアザー米厚生長官訪台に続く、米高官訪台です。

 

“中国は台湾への軍事的圧力を強めている。一方、米国は8月にアザー米厚生長官を訪台させた。中国との対立を深めるトランプ米政権は、高官を派遣することで台湾を支援する姿勢を鮮明にし、中国を強くけん制する狙いがあるとみられる。”【9月17日 毎日】

 

****台湾で弔問外交が本格化 李氏の告別式前に蔡総統が米高官と晩餐会****

台湾の蔡英文総統は18日、台北の総統官邸で訪台中の米国のクラック国務次官(経済成長・エネルギー・環境担当)のために歓迎夕食会を主催した。双方は今後の米台関係の深化などについて意見を交換する。

 

クラック氏は19日、台北近郊で行われる李登輝元総統の告別式に参列。森喜朗元首相が率いる日本の弔問団も18日に台北入りし、「弔問外交」が本格化した。

 

クラック氏は18日午前、王美花経済部長(経済産業相に相当)ら台湾の経済閣僚と会談した。同日昼には、科学技術分野の企業家らと会食した。

 

台湾メディアによると、クラック氏が率いる米代表団の中には国務省で人権問題を担当するスタッフもおり、同日午後、台湾側と香港の人権問題などについても意見を交換した。

 

台湾当局は8月末、米国との自由貿易協定(FTA)締結の最大の障壁とされる米国産牛肉と豚肉の輸入を2021年1月から全面的に解禁すると発表。台湾側はクラック氏との交流を通じ、対米FTA交渉の開始につなげたい考えだ。中国のサプライチェーン(供給網)からの脱却を目指す米国も台湾との経済提携を強化する思惑がある。(中略)

 

台湾当局関係者によると、李氏の告別式に当たっては当初、多くの外国の友人を招いた大規模な弔問外交を展開する案も検討されたが、各国で新型コロナウイルス感染が厳しい状況にあるため、感染防止の観点から招待客を日米など最小限に絞った。(後略)【9月18日 産経】

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アメリカは、さらにニューヨークでも台湾との関係をアピールしています。

 

****米大使と台湾高官が初会談 NY、国連参加阻止は恥****

クラフト米国連大使は16日、ニューヨーク・マンハッタンのレストランで、台北駐ニューヨーク経済文化弁事処(総領事館に相当)の李光章処長と昼食を取りながら会談した。クラフト氏によると、米国連大使と台湾高官の会談は初めて。AP通信が伝えた。中国側が強く反発するのは必至。

 

クラフト氏は「国連のホスト国として李氏を歓迎した」と述べ「台湾は国連に参加できるようになるべきであり(中国が加盟を阻止しているのは)恥だ」と主張。「台湾が国連にもっと関与できるようにする方法を話し合った」と語った。

 

台湾は1971年の中国の国連加盟を受け国連から追放された。【9月17日 共同】

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【中国軍 台湾海峡で実戦演習でけん制】

当然ながら、中国は強く反発しています。

 

****中国、高官の台湾訪問巡り米政府に抗議 「必要な措置」も=外務省****

中国外務省は17日、クラック米国務次官(経済成長・エネルギー・環境担当)の台湾訪問を巡り中国は「必要な対応」をする方針で、すでに米政府に抗議したと明らかにした。(中略)

中国外務省の汪文斌報道官は会見で、クラック氏の台湾訪問に「厳しく抗議」したと明らかにし、中国は米国と台湾の当局レベルのいかなる交流にも反対すると述べた。

クラック氏の台湾訪問は、台湾独立派を勢い付け、中米関係に打撃を与えるとし、「米国に対し台湾問題の敏感さを完全に理解するよう要請する。今後の状況によっては中国は必要な対応をすることになる」と述べた。詳細には踏み込まなかった。【9月17日 ロイター】

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単に「抗議」だけでなく、軍事力を見せつける行動で台湾をけん制。

 

****中国軍が台湾海峡で実戦演習 18日から、米次官の訪台に反発****

中国国防省の任国強報道官は18日の記者会見で、クラック米国務次官の台湾訪問を受けて、人民解放軍の東部戦区が同日から台湾海峡付近で実戦演習を開始したと発表した。

 

「現在の台湾海峡情勢に対応し、国家主権と領土を守るために必要で正当な措置だ」と主張し、関係を強化している米国と台湾を軍事的に威嚇するための措置であることを事実上認めた。

 

任氏は「最近、米国と(台湾の)民主進歩党当局は結託を強め、頻繁に騒ぎを引き起こしている」と非難。「人民解放軍は、あらゆる外部勢力の干渉や台湾独立に向けた行動を打ち砕く意志と自信、能力がある」と述べ、さらなる軍事圧力を示唆した。

 

中国外務省の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官は17日、クラック氏の訪台について「米台間のいかなる公的往来にも断固反対する」と反発し、「必要な対応をとる」と報復措置を示唆していた。

 

中国軍は8月にアザー米厚生長官が訪台した際にも「台湾独立勢力に著しく誤ったシグナルを出した」として台湾周辺で実戦演習を実施。9月に入っても台湾南西の防空識別圏に多数の軍用機を侵入させ、台湾への軍事圧力を強めている。【9月18日 産経】

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****中国軍機8機以上が台湾海峡中間線越す 過去最多****

台湾の国防部(国防省に相当)は18日、中国の戦闘機と爆撃機計18機が同日午前に台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入、少なくとも8機の戦闘機が台湾海峡の中間線を越えたと発表した。

 

中間線は中台間の事実上の停戦ラインとして機能している。中国軍機の中間線越えは2019年3月末以降、4回目だが、今回は過去最多となる。台湾側も戦闘機を緊急発進(スクランブル)させるなどして対応した。

 

クラック米国務次官が17日から訪台しており、中国軍にはこれを牽制(けんせい)する意図があるとみられる。(後略)【9月18日 産経】

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【米 台湾を「ハリネズミ」のように武装させる】

軍事面では、アメリカ側も負けていません。

 

****米、台湾に兵器を大規模売却へ ロイター報道****

ロイター通信は17日、トランプ米政権が台湾に巡航ミサイルや無人機、多連装ロケット砲など7種類の兵器システムの売却を計画していると伝えた。中国の軍事的圧力にさらされている台湾の防衛力強化を支援するのが目的。米国による台湾への武器輸出で7種の兵器を一度に売却するのは異例という。

 

複数の関係者が同通信に語ったところでは、ポンペオ国務長官が今週、トランプ大統領に売却計画の内容を説明し、数週間以内に議会に通知される。

 

売却が計画されている兵器は、中国による台湾への上陸侵攻作戦の阻止に向けた沿岸防衛や対潜水艦戦闘の能力強化を目指すもので、関係者は台湾を「ハリネズミ」のように武装させることで中国から攻撃されにくくするとしている。

 

台湾の蔡英文総統は1月の総統選で再選されて以降、台湾の防衛力強化に向けて米国からの兵器購入を積極的に進めていく意向を表明している。(中略)

 

一方、スティルウェル国務次官補(東アジア・太平洋担当)は17日、上院外交委員会の公聴会で証言し、中国による台湾や南シナ海、尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺での「挑戦的行動」や香港国家治安維持法の施行などに関し「世界的な国家主体のやることではない。無法なごろつきの振る舞いだ」と非難した。

 

スティルウェル氏はまた、米台関係について「国際的懸案をめぐる連携や経済的関与を通じて強固な関係を一層深化させていく」と表明した。【9月18日 産経】

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南米4カ国を歴訪中のポンペオ米国務長官は18日、中国軍が台湾海峡で同日開始した実戦演習を「われわれは(李登輝元総統の)告別式のために使節団を送っており、中国は明白に軍事的な脅しで応じた」と非難し、中国の「経済侵略」を警戒するよう呼び掛けています。【9月19日 時事より】

 

【中国に対する「民主主義の防波堤」 ただ中国との関係先鋭化は台湾にとって危険性も増大】

こうした流れを受けて、台湾自身からも中国に対する「民主主義の防波堤」としての台湾をアピールする声が出ています。

 

****台湾、対中防衛を国際社会に要請 民主主義の防波堤を強調****

台湾の呉釗燮外交部長(外相に相当)は16日、中国が武力行使に訴える恐れがあるとして、台湾と周辺地域を中国の「拡張主義的」動向から防衛するための支援を国際社会に求めた。

 

呉氏は仏テレビ局フランス24に、台湾は「共産主義の中国に民主主義が乗っ取られないよう防衛する最前線」に立っていると説明。中国が近年「台湾に対する軍事的脅威を強めており」、台湾近海での軍事演習を拡大していることに言及して、他国からの支援の必要性を訴えた。

 

先週30機を超える中国軍用機が台湾の防空識別圏に進入したことについて、呉氏は「非常に脅威的」と指摘。「台湾はここ数年間、自前の防衛力強化に懸命に努めてきた。だが同時にわれわれは、民主主義国家としての台湾が、影響力の拡大を試みる独裁国家の中国に脅かされていることを国際社会に理解してもらいたい」と述べた。

 

独自の政府を持つ台湾を、中国は自国領とみなし、武力による統一も辞さない構えを取っている。

 

台湾では2016年に、中台を不可分と位置付ける「一つの中国」原則を否定する蔡英文総統が就任。以来、中国政府は台湾への外交、経済、軍事的圧力を強めてきた。

 

呉氏は、対中戦争について「台湾に対する中国の脅し方を見れば、現実的な可能性がある」と主張。地域の安定性と複数の国家の主権を中国が脅かしている実例として、南シナ海や対インド国境、香港での中国の行動を挙げた。

 

その上で「中国の拡張主義的動機を阻むため、志を同じくする国々や同胞たる民主主義国家がこの地域にもっと注意を払い、互いに助け合う必要があると感じている」と呉氏は語った。 【9月17日 AFP】

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もっとも、必要以上に中国を刺激することは台湾にとっても非常に危険であり、蔡英文総統もそのあたりは従来より一定に配慮してきたところです。

 

米中の対立が激しくなることで、台湾が重要なカードとして脚光を浴びることは、アメリカなどから重視されるという点では台湾にとって喜ばしいことですが、中国の軍事的脅威が現実味を増すという点では危険なことでもあります。

 

台湾が「ハリネズミ」のように武装しても、もし中国が国際的孤立のリスク覚悟で台湾進攻に踏み切れば、これを食い止めることは困難でしょう。そのとき、アメリカが米中戦争の危険を冒してまで体を張って防衛してくれるか・・・。

 

【親中路線をめぐる野党・国民党の苦悩】

台湾関係のニュースで興味深いのは、親中国姿勢の強い野党・国民党と中国の関係。

 

台湾の独自性を重視する世論の流れに対し、従来からの親中国姿勢の変更も模索されていますが、なかなか進まないようです。

 

****台湾・国民党、「92年合意」見直しは見送り…対中融和路線を継続****

台湾の最大野党・国民党は6日、台北市で党大会を開いた。江啓臣主席は演説で、対中融和路線を継続する考えを示した。中台が「一つの中国」で合意したとされる「1992年合意」の見直しは見送った。

 

江氏は、民進党政権が中台間の平和と相互信頼を崩壊させたと批判し、「両岸(中台)の交流と対話を今後も進め、戦争へと向かう悪意のスパイラル、冷戦の再現は避けなくてはならない」と述べた。

 

92年合意については、大陸の中華人民共和国と異なる「中華民国(台湾の『国号』)」としての立場を強調した上で、「両岸が互いに歩み寄り、時代に応じた変化を追求する」とした。変化の具体的内容には言及しなかった。

 

中国は92年合意を中台関係の基礎と見なし、国民党はこれを認めることで対中改善を進めてきた。だが、1月の総統選、立法院(国会)選で、国民党は親中姿勢を批判されて惨敗、3月に党主席に就任した江氏は、合意見直しに着手した。

 

党改革委員会は6月、「中国が『中華民国の主権』を尊重することを合意の前提とする」との大胆な改革案をまとめ、党大会での決定を目指した。ところが、馬英九・前総統ら歴代党主席らが相次いで不満を表明し、案は行き詰まった。

 

民意以上に、党内融和と対中関係を優先した決着と言える。国民党の党勢回復は難しそうだ。【9月6日 読売】

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ただ、国民党としてこれ以上、中国への宥和的姿勢を見せることはできない立場にも。

 

****台湾・国民党が異例の対中強硬姿勢、「和解乞いに来る」報道に反発、両岸交流イベント欠席****

台湾の最大野党・国民党が中国福建省で開催予定の中台の民間交流イベント「海峡フォーラム」への代表団派遣を中止した。中国国営中央テレビが(CCTV)が「和解を乞いに来る」と報じたためで、親中路線の国民党としては異例の強硬姿勢だ。

海峡フォーラムは国民党・馬英九政権時代の2009年から毎年開催されてきた。国民党は8日、アモイで19日から開催のフォーラムに王金平・元立法院長(国会議長)が率いる代表団の派遣を発表していた。中国は16年以来、対中強硬路線の台湾与党・民進党との交渉を拒否。民進党は「統一工作の一環だ」として、フォーラムへの党員の出席を禁止している。

台湾・中央通信社などによると、CCTVは10日の時事問題番組で、国民党代表団に関し「和解を乞いに来る」と報道。

 

多くの台湾市民が国民党を中国寄りすぎると見なす中、CCTVの論調を受けて、代表団の派遣中止を求める世論の圧力が高まり、国民党はCCTVが謝罪に応じないとして欠席を決めた。

 

同党は10日、主催の中国国務院台湾事務弁公室(国台弁)に抗議し、江啓臣党主席(党首)も11日、「受け入れられない」として中国側に謝罪を求めていた。

国民党は14日、記者会見し「両岸(中台)関係は複雑かつ敏感で、不適切な論評や行為により、善意と相互信頼の積み重ねが深いダメージを受ける」と中国側に警告。(中略)


国民党は1月の総統選で再選を目指した民進党の蔡英文氏に敗退。同時に行われた立法院(国会、定例113)選でも民進党は過半数を確保した。8月の南部の主要都市、高雄の市長選でも国民党は民進党に大敗した。

特に総統選で最大の争点になったのは本土との関係。香港問題や米中対立といった国際情勢が蔡氏の追い風になり、中国への警戒感を強めた若者を中心とした有権者の支持を広げた。国民党にとって今後、中国とどう向き合うかは「踏み絵」にもなりそうな雲行きだ。【9月18日 レコードチャイナ】

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【中台関係に影響する香港情勢】

中台関係に強く影響するのが香港情勢ですが、台湾は香港民主派を支援する立場で、香港市民の受け入れにも積極的な姿勢を見せていました。

 

そうした中でよくわからいのは下記のニュース。

 

****台湾当局、密航試みた香港市民5人を拘束=関係筋****

香港から台湾に密航しようとしていた香港市民5人を台湾の沿岸警備当局が拘束し、先月から台湾の施設に収容していることが関係筋の話で明らかになった。

関係筋がロイターに語ったところによると、5人はボートで台湾が実効支配している南シナ海の東沙諸島に到着した。

台湾当局筋は5人が高雄市にある沿岸警備当局の施設に収容されていると明らかにした。

台湾の通信社、中央社は13日夜、「(5人には)弁護士との接見など基本的な権利が認められている」と伝えた。ロイターは報道の内容を確認できていない。

台湾の蘇貞昌行政院長(首相)は14日、記者団に、香港から逃れてくる人たちを懸念していると述べた上で「香港市民への支援について、明らかにできない特定の事案がある」と語った。

中国共産党機関紙・人民日報系の新聞「環球時報」は14日、5人の拘束は台湾政府が香港市民を支援するという約束が「偽物」であることを示していると主張した。【9月14日 ロイター】

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香港活動家の台湾密航者を中国が検挙したという話は多くのメディアが報じて大きな問題にもなっていますが、上記は台湾による拘束。

 

合法的ルートならともかく、パスポートを香港政府に没収されているとか、指名手配を受けているとかいう密航者の扱いについては、台湾側の対応もまだ整っていないということでしょうか。

 

なお、一般論として言えば、香港市民が大挙台湾に押し寄せ、中国との関係が先鋭化することは、台湾にとっても憂慮すべき事態でしょう。

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