孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

香港 打ち砕かれた「一国二制度」 米領事館、亡命申請を拒絶 国家利害優先の壁

2020-11-01 22:35:56 | 東アジア

(【10月29日 BIGLOBEニュース】 門を閉ざした香港の米総領事館)

 

【学生活動家、米総領事館前で逮捕 領事館に駆け込んだ4人の亡命希望に米は拒否】

香港国家安全維持法(国安法)による逮捕など、香港の中国支配が着実に進んでいるようです。

これまで中国支配に抵抗してきた活動家は身の置き場をなくしていますが、亡命もままならない状況。

 

****香港、19歳学生活動家を国安法違反で起訴 米総領事館前で逮捕****

香港当局は29日、6月に解散した香港独立を支持する団体「学生動源」の鍾翰林元代表を、香港国家安全維持法(国安法)に基づく「国家分裂罪」で起訴した。国安法違反で起訴された政治活動家は鍾氏が初めて。

 

鍾氏は27日朝、在香港米総領事館に面した喫茶店で私服警官に逮捕され、国家分裂、資金洗浄、扇動的な情報の発信を共謀した罪で起訴された。

 

「フレンズ・オブ・ホンコン」を名乗る組織は鍾氏の逮捕後、同氏がその日、米領事館に入って亡命を申請する手はずになっていたと発表している。

 

「学生動源」は国安法の施行直前に香港での活動ネットワークを解散したが、国際的な支部は現在も活動を継続している。

 

鍾氏は「学生動源」のメンバー3人と共に7月、ソーシャルメディア上で香港の独立や自治権拡大を提唱する政治的見解を拡散したなどとして、香港警察に新設された国家安全課の逮捕者第1号となっていた。

 

同氏は再逮捕後、29日午前に出廷するまで警察で拘束されていた。保釈は認められていない。 【10月29日 AFP】

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“米領事館に入って亡命を申請する手はずになっていた”とのことですが、どういう「手はず」だったのか?

鍾氏との関連は知りませんが、鍾氏逮捕の数時間後には、現地の米総領事館に駆け込んで政治亡命を求めた活動家4人がアメリカ側から亡命を拒否されています。

 

****米、対中関係悪化避ける=香港活動家の亡命拒否****

28日付の香港各紙は、民主活動家4人が米総領事館に駆け込んだ問題で、4人は政治亡命の受け入れを拒否されたと報じた。

 

米側はコメントしていないが、対中国関係が一段と悪化するのを避けるための判断とみられる。専門家は「(亡命を認めれば)総領事館が閉鎖に追い込まれていた可能性がある」と指摘している。

 

また、香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは消息筋の話として、「(中国の出先機関である)香港連絡弁公室と駐香港特派員公署は当日正午には状況を察知し、動きを注視していた」と伝えた。

 

中国外務省の汪文斌副報道局長は28日の記者会見で、この問題について「香港の問題は中国の内政であり、いかなる国のいかなる形式での香港への干渉も断固として反対する」と述べるにとどめた。

 

報道によると、民主活動家4人のうち少なくとも1人は反政府デモに関係して起訴されている。

 

27日には、香港独立を志向する団体の元代表・鍾翰林氏が国家安全維持法違反容疑で逮捕された。鍾氏はこの日朝、総領事館が開くのを付近の喫茶店で待っていたところを拘束された。【10月28日 時事】

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【不透明な米対応 中国との決定的対立を回避か?】

アメリカ側の対応も“揺れている”のでしょうか、一貫しないところがあるようにも。

 

****米、事前に香港4人の入館は承認 亡命申請は拒絶、退去****

香港の活動家ら4人が米総領事館に10月27日、政治亡命を求めたが拒絶された問題で、香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは31日、4人は事前に総領事館職員と協議し認められたため入館したが、その後要求を拒絶され退去していたと報じた。英国の香港人支援組織が明らかにしたという。

 

4人のうち1人は米国籍で、総領事館には米国民として保護を求め、残りの3人が亡命を求めたという。

 

この米国民は事前に総領事館の緊急ホットラインに電話して相談。仲間の3人も総領事館に連れて行くことで了解を得ていたという。

 

この米国民は米国生まれ、香港育ちの20歳の男性。【10月31日 共同】

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上記報道が真実なら、当初はアメリカ側も亡命を受け入れるつもりだった・・・ようにも見えます。

しかし、入館は認めたが、亡命受け入れは拒否して退館・・・中国側からの総領事館が閉鎖などの圧力がかかって対応を変えたのでしょうか?全くの憶測です。

 

****米国務省報道官、香港総領事館での活動家駆け込みで「コメントできない」 活動家の逮捕と拘束は非難****

米国務省報道官は28日、香港の活動家4人が現地の米総領事館に駆け込んで政治亡命を求めたものの拒絶されたとする香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストの報道に関し、「プライバシーへの配慮からコメントできない」と述べるにとどめた。

 

一方で「亡命申請は米国に到着した際にのみ可能だ」と指摘し、駆け込みがあったことを示唆した。産経新聞の取材に語った。

 

報道官はまた、「香港警察による学生の民主活動家3人の逮捕と拘束を非難する」とした。報道官は逮捕や拘束の詳細に言及していないが、拘束者の一人は未成年で、喫茶店で香港治安部隊に身柄を確保されたとし、「非難に値する行動だ」と強調した。

 

同紙によると、駆け込みがあった数時間前、米国への亡命を目指していた独立派団体の元代表、鍾翰林氏が総領事館の近くで香港国家安全維持法違反の疑いで逮捕された。

 

報道官はまた、国家安全維持法について「香港の人々の安全確保ではなく、反対意見を抑圧し、個人の自由を奪うために使われ続けている」と指摘し、「この法律の導入で、中国共産党は香港の人々の人権と法的正義と基本的自由を骨抜きにした」と非難した。【10月29日 産経】

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駆け込んだ4人の現状については、“台湾で香港の民主化運動を支援する香港人活動家は産経新聞の取材に「4人はいま、香港当局に監視されていると聞いている」と述べた。”【10月28日 産経】とも。

 

【2002年には中国瀋陽の日本総領事館でも】

「亡命申請は米国に到着した際にのみ可能だ」・・・このあたりの話はよく知りません。

 

2002年には(つい数年前のような気がしていたのですが・・・)、中国・瀋陽の日本総領事館に北朝鮮人亡命者が駆け込もうとして、領事館敷地内に中国官憲が立ち入るかたちでこれを逮捕、日本側は全く抗議もせず見守る(官憲が落とした帽子を丁寧に拾ってあげる)という対応だった事件がありました。

 

****瀋陽総領事館北朝鮮人亡命者駆け込み事件****

2002年5月8日、金高哲一家など5人の亡命者は日本国総領事館に駆け込みを画策、失敗し中国人民武装警察部隊に取り押さえられた。

 

その際、総領事館の敷地内に無断で足を踏み入れていたこと、逮捕された亡命者が北朝鮮へと送還される可能性があったこと、日本国内の中華人民共和国大使館および駐中特命全権大使阿南惟茂の事件への対応(事件発生直前、亡命者が大使館に入ってきた場合は追い返すよう指示を出していた)を巡り批判、問題が発生した。

 

「拉致被害者、北朝鮮脱出者の人権と救命のための市民連帯」などを始めとするNGOによって、事件の始終がビデオカメラで撮影された。

 

日本総領事館の敷地に入った中国武装警察官に対し、応対に出た副領事の宮下謙が、亡命者の取り押さえおよび敷地立ち入りへの抗議を行わず、武装警官の帽子を拾うなど友好的な態度に出た映像が、日本のテレビ局により報道され、日本と大韓民国における批判を呼んだ。(後略)【ウィキペディア】

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このときも、国家の利害が優先する随分と情け容赦ない対応だと思ったのですが、今回のアメリカ総領事館も、亡命を認めることで総領事館が中国官憲に包囲され、引き渡しを要求される、あるいは、総領事館そのものが閉鎖に追い込まれる・・・といった「面倒な」自体を憂慮した結果でしょうか。

 

トランプ大統領は勇ましい中国批判を繰り返していますが、実際の対応はまた別物のようにも見えます。

賢明な政治判断・・・と言えば、そうなんでしょうが。

 

【打ち砕かれた「一国二制度」】

香港における中国の対応は、今までのところ「控え目」との評価もあるようですが、真綿で首を絞めるように着実に進んでいるようにも思えます。

 

****香港弾圧を「控えめ」にする中国共産党の「本音」****

10月8日付の英Economist誌が、「これまでのところ、香港の新しい国家安全法は控えめに適用されている。しかし民主化運動家は安心してはいけない」との解説記事を掲載し、国家安全法施行後の香港の情勢を報じている。

 

エコノミスト誌の解説記事は国家安全法施行後の香港の状況をよく描写している。国家安全法の適用が控えめであるということは事実そうである。

 

しかし、必要になればこの厳しい法律で広範な弾圧措置に中国共産党が出てくることは明らかであって、香港の民主活動家は安心していてはいけないとの記事の題名はその通りであろう。

 

国家安全法が「一国二制度」の香港を打ち砕いた可能性があるとこの記事は書いているが、認識が甘すぎるだろう。打ち砕いた可能性があるのではなく、打ち砕いたのである。

 

共産党はレーニンの教えに従い、1歩前進、2歩後退というように戦術的に柔軟に対応する。香港のメディア王で民主化運動の指導者であり、外国との共謀罪で告発されたJimmy Laiが言うように、北京は政治的都合にあうように彼の取り扱いも決めるということであり、法による保護はないということである。

 

共産党には三権分立が良いものだという考えはない。三権分立の考え方は、フランスの哲学者モンテスキューなどが提起したが、要するに人間性悪説というかキリスト教の原罪論に基づくというか、権力者は悪いことをしかねないから、チェック・アンド・バランスを統治機構の中に組み込んでおくべしという考えである。アクトン卿の「権力は腐敗する。絶対的権力は絶対的に腐敗する」との考えも同じ系譜にある。

 

他方、共産党は人民のために良いことをする権力であり、これに制約を加えるなど、とんでもないという考えが共産主義者にはある。

 

エコノミスト誌の記事の最後に、司法の独立が保たれれば少しは希望がある、というような記述があるが、共産党が主導する限り、そういうことにはならないだろう。それに、法律が悪ければ、司法判断は法の適用であるから、悪いものにならざるを得ない。

 

今のところ国家安全法の適用が思ったよりも穏健だということで、物事の本質を見損なうことは避けるべきであると考える。

 

香港のケースは、中国が国際法をあからさまに無視する国であることを示したものであり、それを踏まえてしっかり対応しないといけない。今回の香港は、ヒトラーのラインランド進駐と同じようなものとみられている。【10月30日 WEDGE】

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中国もバカではないので、いたずらに国際社会の目が集まるようなことはしませんが、ジワジワと・・・・、必要があると認めるときは断固として・・・といった対応でしょう。

 

****香港、民主派議員ら7人逮捕=議事妨害で****

香港警察は1日、立法会(議会)の民主派議員ら少なくとも7人を逮捕した。逮捕者のフェイスブックなどによると、5月の立法会での議事妨害に関係し、立法会条例違反の疑いが持たれている。

 

7人は民主党の胡志偉主席ら現職議員4人のほか、元議員の朱凱迪氏ら。

 

問題とされた5月8日の立法会では、中国国歌への侮辱行為を禁じる「国歌条例」成立へ向け審議を加速させようとした親中派に反発した民主派が、委員長席に詰め寄り妨害。複数の議員が強制退場させられ、衝突で転倒する議員も出た。【11月1日 時事】 

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【習近平主席 香港と中国本土の経済一体化を推進する考えを強調】

政治的な対応もさることながら、香港経済をさらに中国の奥深くに取り込んで、中国からの分離独立、あるいは「一国二制度」の「幻想」を抱かないようにするというのが基本路線でしょう。

 

****香港と中国本土の一体化推進 習近平主席が強調 香港行政長官とも会談か****

中国南部の広東省深●(=土へんに川)市で14日、深●(=土へんに川)経済特区成立40年の記念式典が開かれ、習近平国家主席が演説し「『一国二制度』の基本方針を全面的かつ確実に実行し、中国本土と香港、マカオの融合と発展を促進しなければならない」と述べた。人的往来などの垣根を下げることを通じ、香港と中国本土の経済一体化を推進する考えを強調した。

 

習氏は、広東省沿岸部と香港、マカオの一体化を進める経済圏構想「ビッグベイエリア(大湾区)」について「国家の重大発展戦略だ」と強調。大湾区の都市間で鉄道建設を加速することなどを通じ「市場の一体化レベルを引き上げる」との方針を示した。香港では経済や人の往来が容易になって中国本土と融合が進むことに警戒感もある。

 

習氏は、香港とマカオの若者の中国本土での就学や就職が増えて現地での交流が促進されることで、「祖国への求心力を強める必要がある」とも述べた。

 

式典には、香港の林鄭月娥(りんてい・げつが)行政長官も出席した。式典の前後に習氏と林鄭氏が会談し、6月末の香港国家安全維持法(国安法)施行後の香港情勢について意見交換をしたかは明らかになっていない。

 

また、習氏は「現在、世界は百年来の大変動を経験しており、新型コロナウイルスの世界的な大流行はこれを加速している」と指摘した。その上で「保護主義や一国主義が高まっている」とも言及した。米国を念頭に置いた発言とみられる。

 

深●(=土へんに川)は1980年に経済特区に指定された。かつては人口3万人程度の貧しい漁村だったが、改革開放政策を追い風に成長を続けた。現在では1300万人を超える巨大都市に姿を変え、市内には通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)やIT大手の騰訊控股(テンセント)など中国を代表するハイテク企業が拠点を置いている。

 

習氏は演説で「深●(=土へんに川)は改革開放後に党と人民が自ら築いた新たな都市だ」と成果を誇示した。

深●(=土へんに川)は、2018年には域内総生産の規模で隣接する香港を追い抜いている。深●(=土へんに川)の急成長とは対照的に、香港経済の地盤沈下が指摘されるようになっている。【10月14日 産経】

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(どうでもいいですが、「深セン」のセンの字、どうにかならないものか・・・面倒で仕方ないですね)

 

2003年にSARSが香港で流行った際に、深刻な経済的ダメージを受けた香港は中国市場に依拠することで息を吹き返したものの、以来、中国への依存が飛躍的に高まった経緯もあります。

 

今後、新型コロナで香港が再び経済的に困窮すれば、今度は完全な中国経済との一体化へと進むことにもなるでしょう。

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