孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾  防衛強化の取り組み 中国からの情報戦への懸念も 経済の中国依存という基本問題も

2022-12-30 22:18:51 | 東アジア
(蔡英文総統が視察に訪れた澎湖諸島馬公市の基地で演習を行う兵士たち=30日【12月30日 共同】)

【緊張が高まる台湾海峡】
この1年で国際面での最大の出来事はロシア軍のウクライナ侵攻でしたが、ウクライナ状況によって国際社会は大きく揺さぶられた1年でもありました。

ウクライナと同様な事態が台湾でも・・・・という懸念から「台湾有事」への危機感が高まり、それに伴う中国とアメリカのせめぎあいも激しさをましています。

****中国、米の台湾安保支援強化に「断固反対」 国防権限法成立で****
 中国は24日、23日に米国で成立した国防権限法(NDAA)に台湾 への軍事支援強化が盛り込まれたことに「強い不満と断固反対」を表明した。一方、台湾は安全保障の強化に寄与すると歓迎の意を示した。

バイデン大統領は23日、2023会計年度(22年10月─23年9月)の国防予算の大枠を定めた国防権限法案に署名した。国防予算は総額8580億ドル。

台湾向けには安全保障面の支援と迅速な武器調達に向けて最大100億ドルの予算を計上した。これについて、中国外務省は「台湾海峡の平和と安定に深刻な打撃を与える」条項が含まれていると指摘した。

また、中国メーカーの半導体を使用した製品を米国政府が調達するのを制限する条項が含まれていることについて「事実を無視して『中国の脅威』を誇張し、中国の内政に不当に干渉し、中国共産党を攻撃し中傷しており、深刻な政治的挑発だ」と非難した。【12月25日 ロイター】
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中国は、台湾周辺の空海域で統合軍事演習、更には過去最多の71機の中国軍機の台湾防空識別圏への侵入という形で、アメリカを牽制しています。

****台湾周辺で統合演習=米軍事支援に「対抗」―中国軍****
中国軍東部戦区の施毅報道官は25日、台湾周辺の空海域で統合軍事演習を同日行ったと発表した。「米台結託による挑発が強まっていることへの断固たる対抗策」と説明しており、米国で成立した2023会計年度国防権限法に対する反発とみられる。(中略)
 
同法は、27年までに台湾向けに最高100億ドル(約1兆3300億円)の軍事資金援助を認めるとともに、中国の武力侵攻に備えて台湾の重要物資確保を支援することも盛り込んだ。

台湾をめぐる軍事バランスが崩れる事態を警戒する中国側は24日、「台湾海峡を戦争の瀬戸際に追いやる」と米国を強く非難していた。

施報道官は「一切の必要な措置を講じ、国家主権と領土を断固守る」と強調。今回の演習の具体的な場所や内容には触れていないが、東部戦区は、台湾の山脈の空撮画像に加え、爆撃機の離陸や艦艇が航行している画像を発表文に添付した。

台湾では24年1月に総統選が行われ、中国は「台湾独立勢力」と見なす民進党政権の継続阻止を狙っている。中国が強く警戒する頼清徳副総統が民進党の最有力候補とされており、中国は向こう1年間、軍事的な威圧を強めると予想される。

中国軍は今年8月、ペロシ米下院議長の訪台に反発し、台湾を包囲する形で前例のない規模の演習を展開。日本の排他的経済水域(EEZ)内に弾道ミサイルが着弾するなどして緊張が高まった。【12月25日 時事】
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****台湾識別圏に中国機71機=米軍事支援に反発か****
台湾国防部(国防省)は26日、台湾の防空識別圏に同日午前6時(日本時間同7時)までの24時間で中国軍機延べ71機が一時進入したと発表した。米国で台湾への巨額の軍事支援を盛り込んだ2023会計年度国防権限法が成立したことへの反発とみられる。

国防部によると、71機中33機が台湾海峡の中間線を越えて台湾側を飛行。国防部は「厳密に監視、対応している」と説明した。

71機のうち多くは戦闘機だったが、早期警戒機や電子戦機、ドローンも含まれている。台湾近海で中国海軍の艦船7隻も探知したという。【12月26日 時事】 
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【防衛強化を図る台湾 住民の防衛意識は高い】
一方、こうした緊張の高まりを受けて、台湾では兵役義務延長などの防衛強化の取り組みがなされています。

****台湾、兵役義務を1年に延長 2024年から****
台湾の蔡英文総統は27日、兵役義務を4か月から1年に延長すると発表した。中国からの増大する脅威に備える必要があると説明している。

蔡氏は記者会見で「現行の4か月の兵役は、常時急変する状況に対応するのには不十分だ」として、「2024年から、1年間の兵役義務を復活させることを決定した」と述べた。

さらに同氏は、中国からの「台湾に対する威嚇と脅威はますます明白になりつつある。誰も戦争は望まないが、平和は空から降ってはこない」と訴えた。延長措置は、2005年1月1日以降生まれの男性が対象になるという。

台湾ではかつて兵役が極めて不人気で、前政権は軍を主に志願制へと移行させ、兵役義務も1年から4か月に短縮していた。

しかし最近の世論調査では、市民の4分の3以上が4か月では短過ぎると考えていることが明らかになった。また軍も、報酬の低さが原因で、志願兵の補充に苦慮していた。

蔡氏は今回の変更について、「次世代のため、民主主義的な生き方を守っていく上での苦渋の決断」だったと説明した。 【12月27日 AFP】AFPBB News
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対象となる若者を含め、台湾住民の多くは「兵役延長は仕方ない」と考えているようですが、その内容等については不満も多いようです。

****台湾で兵役延長 賛否両論渦巻く 訓練内容に不満強く****
台湾の蔡英文政権が2024年から、兵役義務期間を4カ月から1年に延長すると決定したことが台湾社会で波紋を広げている。

若者の政治参加を促進する団体、台湾青年民主協会の張育萌理事長は地元メディアに対し、「台湾を守るためなら兵役延長を支持するが、訓練の内容、実施方法などについて詳しく説明してほしい」と強調した。

台湾の若者の間では、入隊への抵抗はないが、ほふく前進、銃剣術など台湾軍が現在、行っている伝統的な訓練内容への不満が強く、「時間の無駄」として、訓練内容の改革を求める声が上がっていた。

一方、2年後に入隊する予定の16歳の長男を持つ台北市在住の主婦(50)は、「規則正しい集団生活を1年送ることは子供にとっていいことだと思っている。戦争は起きてほしくないけれど」と話す。

台湾住民の多くは、台湾海峡での軍事的緊張の高まりを受け「兵役延長は仕方ない」と考えているようだ。台湾の民間シンクタンク、台湾民意基金会が今月中旬実施した世論調査では、市民の73%が兵役延長に賛成しているという。

ただ、ある台湾の大手紙記者は「富裕層は今後、兵役から逃れるため、子供を高校から海外に留学させることが増えるだろう。社会の不公平感が高まる可能性がある」と指摘する。

台湾の最大野党、中国国民党の内部では、兵役延長について意見が割れているようだ。同党は27日、「兵役制度の改革を支持する」との声明を発表した。

しかし、同党の幹部で著名なニュースキャスター、趙少康氏は同日、フェイスブックで「兵役延長に反対する。国民党が政権を取れば、兵役を4カ月に戻す」と明言した。趙氏は同党の24年の総統選挙の有力候補の一人で、党内で一定の影響力を持っている。【12月28日 産経】
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「兵役延長は仕方ない」という意見が多いように、防衛意識自体は高いものがあるようです。

****中国武力侵攻なら「戦う」71% 台湾の世論調査****
台湾民主基金会は30日、台湾住民を対象とした世論調査の結果を発表し、中国が台湾統一のために武力侵攻した場合の対応として、71.9%が「台湾を守るために戦う」と回答した。台湾が独立宣言したことを理由に中国が武力侵攻した場合も63.8%が「戦う」と答えた。

調査時期は5月。ロシアのウクライナ侵攻を踏まえ、台湾人の高い防衛意識が反映された形だ。

台湾の民主主義の発展に関する問いには53.6%が「楽観的」とした。また、偽ニュースの拡散が台湾の民主主義に及ぼす影響については、90.5%が「害となる」と答え、中国による世論分断への警戒感の高さを示した。【12月30日 共同】
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【中国が仕掛ける“情報戦”】
上記記事にもあるように、直接の軍事的脅威のほかに、中国からは“偽ニュースの拡散”などの“情報戦”が仕掛けられています。

****中国、台湾に情報戦…「政権がTSMCを米国に売った」と揺さぶり*****
台湾企業が先端半導体の工場を米国に進出させることを巡り、半導体産業の「脱台湾化」といった不安をあおる主張が広がり、台湾当局は中国が仕掛けた情報戦とみて警戒を強めている。

ターゲットは、半導体受託製造の台湾積体電路製造(TSMC)だ。世界シェア(市場占有率)は5割を超え、先端半導体に限れば9割にも及び、その動向は世界的に注目される。

米アリゾナ州で建設を進める先端半導体の工場は、米台協力を象徴するプロジェクトになっているが、生産コストが高く、米国の求めに応じた政治的な背景のある進出という否定的な見方は台湾でもある。

偽情報を監視する台湾の民間団体「台湾民主実験室」によると、米メディアが10月、米国が台湾有事で優秀なエンジニアを避難させる可能性に言及した後、中国では、共産党機関紙傘下の環球時報などの官製メディアやSNSが「TSMCが米国の会社になる」「米国がTSMCをとろうとしている」との見方を広げた。11月下旬にTSMCが米工場を拡張する計画が明らかになると「民進党政権がTSMCを米国に売った」と沸騰した。

こうした主張は、台湾で中国寄りのメディアや政治家らに影響を与え、半導体産業の「脱台湾化」や米国への「懐疑論」が議論される流れをたどっている。11月26日に投開票された統一地方選前には、野党が民進党政権を批判する材料になった。

米工場が稼働しても、生産量はTSMC全体の4%にすぎない。王美花・経済部長(経済相)は今月9日、「脱台湾化」議論の広がりに「多くは中国メディアの誇張で、台米関係に影響を及ぼすのが狙いだ」と警戒感を示した。

中国メディアは当局の統制下にあり、意図的に世論を誘導しているとみられる。台湾民主実験室は、統一地方選前に域外からとみられる情報約2900件を分析した。台湾で議論になっている社会や教育問題を利用し、中国のメディアやSNSが誇張して影響を与えようとするケースが目立ったという。

情報戦を研究する沈伯洋・台北大副教授は「中国側は半年から1年をかけて台湾を分断する話題を準備し、徐々に誤った情報を信じ込ませている。当事者がどれほど釈明しても、すでに誤認している人には信じてもらえない。最大の目的は住民が政権や米国を疑うように仕向けることだ」と指摘し、巧妙化する手法に注意を呼びかけた。【12月18日 読売】
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一番のターゲットとなっているのが、SNSでのライブ配信や中国の動画投稿アプリ「ティックトック」を利用する機会が多い若者のようです。

****中国認知戦、ライブ配信が主戦場 台湾の若者標的に****
中国当局がインターネット上の偽情報によって台湾世論をコントロールする「認知戦」を仕掛けている。

最前線でフェイクニュースなどに対応する民間機関の責任者に現状を聞くと、台湾当局への不信感を増幅させて社会の分断を進めるとともに、米国や日本をおとしめて相対的に自国への評価を上げようとする中国側の思惑が浮かぶ。

中国発の偽情報を分析する研究機関「台湾民主実験室」理事長の沈伯洋(しんはくよう)・台北大副教授によると、大学内で実施したアンケートで、「海外から台湾に偽情報がもたらされている」と認識している学生は6割にとどまった。

しかも、うち2割の学生は米国や日本が偽情報を流していると認識。沈氏は「若者の間には中国に対し何の警戒感も抱かず、友好的だと感じている人たちすらいる」と指摘する。

こうした傾向に影響を与えているのがネットの情報だ。西側ソーシャルメディアは中国当局との関連が疑われるアカウントへの規制を強化しているが、〝抜け穴〟となっているのが各種交流サイト(SNS)でのライブ配信と中国の動画投稿アプリ「ティックトック」だという。

中国が利用しているのは台湾人のライブ配信者だ。配信者が台湾当局や米国、日本を批判すると視聴者数が伸び、「投げ銭」収入も増える。そのことに気付いた配信者は中国のサイトから同様の内容を探し出し、自分なりにアレンジして発信するようになるという。

沈氏は「中国の影響を受けている配信者は多く、主に人民解放軍の資金が使われているようだ。おそらく数万人おり若者への影響は非常に大きい」と危惧する。

またティックトックは中国企業のアプリであり、偽情報対策への協力は期待できない。主に15歳以下の子供が好んで使っており、その影響力は「5年後の大きな懸念材料」だ。

沈氏は中国の認知戦について「短期目標は、社会を分断して介入しやすくすること。みんなが政府やメディア、周囲の人々を信じなくなれば台湾の民主への信頼も喪失する」と語る。

認知戦の強度は中国の国内事情にも左右される。ネット上の噂や報道を調査し誤情報を公表する民間非営利団体(NPO)「台湾ファクトチェックセンター」の陳慧敏(ちんけいびん)編集長によると、2020年1月の総統選の直前、与党・民主進歩党の蔡英文陣営が開票作業で不正を行うとの偽情報が激増した。

選挙後も発信は続いたが、同月下旬に武漢でコロナ対策の都市封鎖が始まったとたん発信は消えたという。政権内部がコロナ対策に忙殺されたことが背景にあるとみられる。

陳氏は「不正選挙のデマは対立と憎しみを深めて民主的な社会を傷つける」と指摘。また、対外関係をめぐっては、米国が台湾有事を引き起こそうとしているとの陰謀論も発信され続けているという。

沈氏によると、今年11月の統一地方選では中国側の干渉は比較的少なかった。10月の中国共産党大会など国内で処理すべき多くの事柄があったことも影響したと分析。

ただ、24年の総統選では偽情報が必ず増加するとみる。沈氏は「中国は総統選に向けて、他国と比べても中国はそれほど悪くないという印象を台湾の若者に与えようとしている」と警鐘を鳴らしている。【12月17日 産経】
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【経済面で中国との切り離しに耐えられるのか・・・という基本問題も】
情報戦もさることながら、実際に中国との緊張が高まると“現実の問題”となるのが経済への中国の影響力です。
「中国側が台湾製品の輸入を完全に止めた場合、台湾の人々は耐えられるのか」というのは切実な問いです。

****「抗中保台」の代価は大、台湾の農産物は中国との切り離しに耐えられるのか―台湾メディア****
台湾メディアの風伝媒は12日、中国文化大学国家発展・中国大陸研究所の劉性仁(リウ・シンレン)副教授が記した「『抗中保台』の代価は大。台湾の農産物などは中国との切り離しに耐えられるのか」とする文章を掲載した。

文章はまず、台湾の蔡英文(ツァイ・インウエン)政権の「抗中保台」には一定の代価が伴っていると述べ、台湾の農産物や水産物、酒に対して中国がこれまで取った措置に言及。

「複数の食品加工工場が関連規定に違反しているとして中国はタチウオ、アジなどの輸入停止を宣言した。また、害虫がいたなどの理由でパイナップル、かんきつ類などの輸入を止めた」と伝え、近頃は中国税関総署が登録情報の問題を理由に、台湾ビール、金門コーリャン酒、炭酸飲料の黒松沙士などを輸入停止としたことを指摘した。

文章は今後さらに多くの台湾製品が禁輸となる可能性があるとの見方を示した他、蔡政権は中国当局の措置に多くの対策を打ち出してきたと説明。「中国側が台湾製品の輸入を完全に止めた場合、台湾の人々は耐えられるのか」とし、「コロナ禍で人々の苦しさが増す中、『抗中保台』の代価はあまりにも大きく、台湾の対中貿易への依存度が過小評価されている」とも訴えた。

文章は、中国税関総署が昨年4月に発表し、今年施行された「輸入食品域外生産企業登録管理規定」について台湾当局は企業をサポートすべきだとの認識を示した上で、「台湾が『抗中保台』を行うなら、願う以外に実力と代替案を備えねばならない」「両岸が基本的な問題について対話を再開させなければより多くの問題が出現しないことを保証するのは難しい。政治的操作は無益で、人々の生活はますます苦しくなる」と指摘した。【12月17日 レコードチャイナ】
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中国からすれば、このあたりの不安を更に大きく煽るというのが情報戦の“狙いどころ”でしょう。
台湾としては、まったくのフェイクとは言い切れない不安であり、不安と覚悟の間で心が揺れる問題です。

経済的に中国に依存しながら「抗中保台」というのも、虫がいい話のようにも。
台湾の独自性を主張するなら、軍事進攻をちらつかせる中国への経済依存を薄める、身を切る覚悟の改革が必要でしょう。その覚悟が台湾にあるのか、ないのか? ほふく前進、銃剣術の訓練などよりはるかに重大な問題です。
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