孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ポーランドへのミサイル着弾 ロシアによるものとの主張を続けるウクライナ 欧米との見解に相違

2022-11-17 23:01:57 | 欧州情勢

(【11月16日 NHK】 ウクライナ・ゼレンスキー大統領は未だロシア軍のミサイルだと主張しています)

【欧米の“支援疲れ”などの難題を抱えるウクライナ】
ヘルソン市奪還など攻勢を続けるウクライナですが、このまますんなり勝利を手にする・・・というほど甘い状況でもありません。下記記事は、欧米の“支援疲れ”、ドニエプル川を渡河しての軍事的攻勢の難しさ、戦後復興に重要な南部戦線の問題を指摘しています。

****ヘルソン解放でもゼレンスキー大統領を待ち受ける3つの難題****
まるで戦争に勝利したかのような報道が相次いでいる。11月11日、ウクライナ軍は南部ヘルソン州の州都ヘルソン市を奪還した。3月にロシア軍が占領し、9月にはロシア編入を問う住民投票まで実施されたのだが、ウクライナ軍の大攻勢で退却を余儀なくされた。(中略)

小国のウクライナが大国のロシアを相手に大戦果を挙げた。だが、今後の展開は必ずしも楽観視できない。軍事ジャーナリストが「今後の難題」について以下のように指摘する。

「第1点は、『停戦交渉を開始しろ』という国際社会の圧力が高まる可能性です。ヘルソン市奪還でウクライナの面子は保たれたと見なし、アメリカやヨーロッパのNATO(北大西洋条約機構)加盟国がロシアとの停戦交渉に応じるようウクライナを強く説得するかもしれません。背景として、NATO加盟国を中心に“支援疲れ”が出てきていることが挙げられます」

特にヨーロッパの場合、冬本番となるとエネルギー需要が増加してしまう。
「NATO加盟国は今のところロシア制裁で一致団結しています。とはいえ特にヨーロッパの加盟国は、ロシアが天然ガスの供給を再開してくれるなら大助かりというのも本音でしょう。NATO加盟国が停戦を求めてウクライナに圧力をかけるという可能性もあるのです」(同・軍事ジャーナリスト)

アメリカも一枚岩でまとまっているわけではない。共和党下院議員のケビン・マッカーシー氏(57)は、次期下院議長が確実視されている有力議員だ。

マッカーシー氏は10月18日、「米国は景気後退の最中にある。ウクライナは重要だ。だが、その支援だけをしていればいいわけではない。白紙の小切手はありえない」(註)と発言し大きな注目を集めた。

「第2点の難題は、ロシア軍が退却してドニエプル川を渡ったことです。自ら橋を壊したので、ロシア軍がヘルソン市を再攻撃しないこと、そしてウクライナ軍を迎え撃つ戦術に転じたことは明らかです。一方のウクライナ軍は渡河作戦を実施しない限りロシア軍を撃滅できないわけですが、この作戦は簡単には成功しません」(同・軍事ジャーナリスト)(中略)

「第3点は、ウクライナの戦後復興という難題です。ウクライナは小麦の輸出国として知られていますが、ロシアとの関係が悪化するまでは軍事産業でも外貨を稼いできました。内陸の工場で製造された兵器をアゾフ海沿岸から貨物船に積み、黒海と地中海を経てアフリカ諸国に輸出するのです。この海路は、まさにウクライナ経済の“生命線”と言えます」(軍事ジャーナリスト)(中略)

戦後復興を成し遂げるためには、クリミア半島からロシア軍を叩き出し、ウクライナ領であることを明確にする必要がある(中略)

だがゼレンスキー大統領には、少なくとも強い追い風は吹いていないようだ。NATO諸国に“支援疲れ”があるのは先に触れたが、ウクライナ国民に“厭戦気分”が蔓延する可能性も否定できないという。

「今、ウクライナ国民の士気は最高潮に達しているでしょう。ゼレンスキー大統領はこのムードを最大限に活用し、一気にロシア軍を殲滅したいはずです。しかし、迎撃は可能でも、追撃には強い国力が求められます。また、ウクライナ軍が勝利を重ねると、『戦争はもう充分。平和こそが必要だ』という国内世論も高まるはずです。どうやって国民の戦意高揚を維持し、NATO加盟国と連携して悲願のクリミア半島奪還を実現するか、まさにゼレンスキー大統領の手腕が問われています」(同・軍事ジャーナリスト)【11月17日 デイリー新潮】
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米軍トップも短期的なウクライナの軍事的勝利には懐疑的です。ウクライナに政治的解決策を勧めるようにも。

****短期的なウクライナの軍事的勝利、確率高くない=米軍制服組トップ****
米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は16日、ロシア軍が依然ウクライナ国内でかなりの戦闘力を維持しているとし、ウクライナ軍が短期的に勝利するという考えをけん制した。

ミリー氏は、ロシア軍をクリミアなどを含むウクライナ全土から撤退させることを意味する「ウクライナの軍事的勝利が近く起きる確率は高くない」と述べた。同時に「ロシアが撤退するという政治的解決策が存在する可能性はある」と述べた。(後略)【11月17日 ロイター】
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【ミサイルのポーランド着弾 危機の火消しに機敏に行動したバイデン米大統領】
まだまだ困難な状況が続くウクライナ・ゼレンスキー大統領にとって“命綱”は欧米の支援でしょう。
そのなかで起きたポーランドへのミサイル着弾(ウクライナ軍も使用しているロシア製ミサイルS300)。

当初は(意図したものかどうかは別にして)ロシア軍による初めてのNATO領内への攻撃・犠牲者発生か・・・ということで、ロシア対NATOという形で戦線が欧州全体に拡大する危険もあって世界に緊張が走りました。

ウクライナ・ゼレンスキー大統領はロシア軍の攻撃との前提で「(NATOの)行動が必要とされている」とNATOの対応を求めていました。

しかし、当時国ポーランドの対応は「誰が発射したか決定的な証拠ない」(ドゥダ大統領)と慎重で、ちょうどG20首脳会議で各G7首脳が集まっていたこともあって、アメリカ・バイデン大統領の火消は“いつになく”機敏なものでした。

*****G20開催のさなか…ポーランドにミサイル着弾 目立った“バイデン大統領の動き”とは****
ポーランドの国境付近での爆発は、G20=主要20か国・地域の首脳会議のため、各国首脳がインドネシアに集まるさなかに起きました。 (中略)目立ったのはバイデン大統領の動きでした。

アメリカ バイデン大統領 「何が起きたかを正確に把握する。調査を進めたうえで次の対応を決定する」
今回、バイデン大統領の対応はとても早いものでした。

現地時間の早朝にポーランドのドゥダ大統領、NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長と相次いで電話会談を行い、午前9時前にはG7とNATOの首脳らを緊急に集め、状況の説明を行いました。そして、調査が完了する前にも関わらず、「ロシアから発射されたものとは考えにくい」と公に説明したわけです。

バイデン大統領としては、不確定な情報で一方的にロシアへの非難が強まり、緊張がさらにエスカレートするのを防ぎたい考えです。

ドイツのDPA通信によると、バイデン大統領は16日のG7とNATOの緊急首脳会合で、ポーランドに着弾したのはウクライナから飛来した対空ミサイルだった兆候があると説明しました。(後略)【11月16日 TBS NEWS DIG】
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ポーランドの慎重姿勢、バイデン大統領の「ロシアから発射されたものとは考えにくい」という反応の背景にはNATO軍航空機による監視活動による情報があるようです。

****NATO、ミサイル追跡か 航空機で上空から、報道****
米CNNテレビは16日、ポーランド東部に着弾したロシア製ミサイルについて、ポーランド上空を飛行していた北大西洋条約機構(NATO)の航空機が追跡していたと報じた。複数のNATO関係者の話としている。

NATOの航空機はウクライナ周辺で監視活動を続けており、今回入手したミサイルの航跡などの情報はポーランドやNATO諸国に伝えられた。NATO関係者はミサイルがどこから、誰が発射したのかについては明らかにしなかったという。【11月16日 共同】
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【欧米とウクライナの見解が割れる現状】
その後は多くの報道のとおり、アメリカなど欧米各国はロシアのミサイルに対するウクライナによる迎撃ミサイルが誤ってポーランドに着弾した・・・という見解になっていますが、ウクライナ・ゼレンスキー大統領は依然としてロシア軍ミサイルだと主張しており、これまで(少なくとも表面上は)一丸となってロシアに対峙してきたウクライナと欧米の間の乖離が際立つ流れとなっています。

****「現場の証拠はそうではない」とバイデン氏 ウクライナ ロシアの攻撃と主張****
アメリカのバイデン大統領は17日、ロシア製のミサイルがポーランドに着弾し、ウクライナのゼレンスキー大統領が「我々のミサイルではないと」と述べたことに対し、「現場の証拠はそうではない」と否定した。(中略)

これまでにバイデン氏は、「ロシアから発射されたとは考えにくい」と述べていたほか、NATO(北大西洋条約機構)のストルテンベルグ事務総長は、ウクライナ軍の迎撃ミサイルとの見方を示していた。【11月17日 FNNプライムオンライン】
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ゼレンスキー大統領も犠牲者への「哀悼の意」は表明していますが・・・
ゼレンスキー大統領の頑なな主張の背後にはウクライナ軍の報告があるようです。

****ポーランド着弾、どこが発射? 欧米とウクライナの見解が割れる背景****
(中略)
ロシアによる侵攻に対し、欧米諸国とウクライナは協調姿勢を取ってきたが、今回は両者の見解が割れている。背景には、自軍の報告を尊重するゼレンスキー氏の立場があるようだ。対露戦で圧倒的な不利を予想されながら善戦を続けている軍との結束を崩したくない考えとみられる。

ただし、調査が進んでもウクライナが今後もかたくなに自国の関与と責任を認めない場合、欧米諸国が反発する事態も起こりえる。

北大西洋条約機構(NATO)加盟国の外交官は「誰もウクライナを非難していないのに、彼らは堂々とうそをついている。このような事態はミサイルよりも破壊的だ」と英紙フィナンシャル・タイムズに述べた。(後略)【11月17日 毎日】
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“ウクライナのゼレンスキー大統領は同日(16日)、落下したミサイルは露軍が発射したものだとウクライナ軍が報告したとし、「私は露軍のミサイルであることを疑わない。一緒に戦う軍を信じない理由はない」と強調。”【11月17日 産経】

【このままウクライナが主張を曲げない場合、風向きの変化が起きる可能性も】
しかし“ウクライナが今後もかたくなに自国の関与と責任を認めない場合、欧米諸国が反発する事態も起こりえる”ということが懸念されます。

すでにハンガリーはウクライナを「無責任」と批判しています。

****ハンガリー、ゼレンスキー氏の主張批判 ポーランド着弾で****
ハンガリーは16日、ポーランドに着弾したミサイルがロシアによって発射されたものだとするウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の主張を、無責任だと批判した。(中略)

ハンガリーのグヤーシュ・ゲルゲイ首相府長官は記者会見で、「このような状況では、世界の指導者は責任ある発言をすべきだ」と指摘。「ウクライナの大統領が即座にロシアを非難したのは間違いであり、悪い手本だ」と批判し、ポーランドと米国の慎重な姿勢を称賛した。 【11月17日 AFP】AFPBB News
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もともとハンガリー・オルバン首相はロシア・プーチン大統領と親しい関係にありますので、上記発言に意外性はありませんが、今の状況が長引けば同様反応が他の欧米諸国にも拡散し、冒頭にも論じた“支援疲れ”の状態を加速させることも考えられます。

現段階では欧米側は、直接的にはウクライナ軍のミサイルであっても、ロシアの仕掛ける戦争が招いたことだとして、責任はロシア側にあるとの姿勢ではありますが・・・。

また、これまではロシアの主張のフェイク・プロパガンダが大きく扱われてきましたが、今回の欧米とウクライナの不協和音が長引くと、ウクライナの主張の信ぴょう性にも疑念が持たれることにもなりかねません。

ロシアとしては「ウクライナが嘘でロシアを悪者に仕立てている、戦争を煽っている」と、恰好の“つっこみどころ”ともなるでしょう。

ポーランド国内の反応を報じたものはまだ目にしていませんが、今回事件以前から、ウクライナ難民を大量に受け入れてきたポーランド国内には難民への厳しい視線も出始めていました。

****ポーランドのウクライナ難民への態度に微妙な変化―中国メディア****
2022年11月17日、中国メディアの中国青年報は、ポーランドにおけるウクライナ難民への態度に微妙な変化が生じ始めていると報じた。

記事は、ロシアがウクライナを侵攻して戦闘状態に入ってからすでに9カ月が経過する中、ウクライナの隣国であるとともに北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるポーランドはウクライナからの難民を積極的に受け入れ、各種支援を提供してきたと紹介。

侵攻が始まった2月24日から現在までに772万人を超えるウクライナ難民が国境を越えてポーランドに渡り、そのうち590万人がすでにウクライナに戻る一方で、なおも100万人以上がポーランドにとどまることを選択し、40万人がポーランドで働き口を探していると伝えた。

そして、ポーランドはこれまでに難民の就業支援を行ったり、1人1日当たり最大40ズウォティ(約1200円)の資金援助を当初の60日以内から高齢者などを対象に120日以上へと拡大したりといった一連の支援を提供してきたとする一方で、「ウクライナ難民に対する一連の援助が、近頃徐々に縮小し始めた」と指摘。

ポーランドメディアの報道として、ポーランド政府が来年2月以降滞在期間が一定日数を超えるウクライナ難民に対して限度額を設けた上で一定の自己負担を求めることなどを盛り込んだ改正支援法案を提出する計画だと伝えた。

その上で、ポーランド政府がウクライナ難民への援助縮小を検討している理由はさまざまであり、ポーランドの政府や学術界では「難民への援助は長過ぎると、難民が再び働き始めて自活を実現ことを難しくしてしまう」とう認識を持っていること、そしてポーランドの資源や経済力に限りがあることなどがあるとしている。

記事はまた、ポーランド社会でもウクライナ難民への態度にも微妙な変化が生じていると紹介。ポーランド市民による同情の態度は今なお存在し、多くの非政府組織がさまざまな形で人道的支援を続けている一方で、「ウクライナ難民が現地の雇用市場や社会秩序に影響を与えるのではないかという不安を募らせている市民が多い」とし、近頃行われた世論調査では26歳以下の若い回答者の約半数が「自分の仕事がウクライナ人に奪われることを心配している」と答えたことが明らかになったと伝えた。【11月17日 レコードチャイナ】
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多くの難民を受け入れた際の予想される反応ではありますが、今回のミサイル着弾、そしてその後のウクライナの対応で、ポーランド国内の空気が変わるのかどうか・・・。

欧米の支援が“命綱”のウクライナとしては、自らの責任を認め、誠意ある対応で隙間が広がらないようにするのが賢明だとは思いますが、大国ロシアとの命がけの戦争でアドレナリン全開状態のウクライナには難しいことなのかも。

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