孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  モディ首相とガンジーの間の深い溝 再び問題視される州首相時代のムスリム殺害暴動関与

2023-01-31 23:24:44 | 南アジア(インド)

(インド・ニューデリーで、マハトマ・ガンジーの慰霊碑「ラージガート」を訪れガンジーを追悼するナレンドラ・モディ首相(2023年1月30日撮影)【1月30日 AFP】)

【「人口世界一」のインドが抱える問題】
インドが中国を抜いて「人口世界一」になったようだ・・・という話は多くのメディアが取り上げています。

その圧倒的市場規模を背景に、先進的なIT技術などを活用し、今後インドが世界経済において中心的な役割を担うのでは・・・という期待・予想の一方で、インド社会は世界経済をリードすると言うにはあまりにも深刻な問題を抱えています。

****中国抜き「人口世界一」のインドに難題 人口の半数が30歳以下…雇用に不安****
中国の人口が減少に転じたことで、インドが世界で最多の人口を抱える国となったもようだ。

モディ政権が国際社会でインドの存在感を高めようとする中、国内では「世界一」を歓迎する声が上がる一方、若年層の雇用対策など課題が山積している。医療インフラの整備も不十分な中、人口増には不安も漂う。

中国が今月17日に発表した昨年末の同国の総人口は14億1175万人で、61年ぶりの減少となった。インドの国勢調査は2011年以来実施されていないが、国連によると、昨年の推計人口は14億1200万人であることから、既にインドが世界一になっている可能性がある。

インドも長期的傾向として出生率は低下しているが、人口は50〜60年代まで増加するもようだ。印シンクタンク、人口調査センターは産経新聞の取材に「伝統的価値観として、大きな家族を持つこと、また子や孫が高齢者の世話をすることが重要と考えられている」と指摘している。

モディ政権は人口世界一に対して正式な反応を示していないが、米外交誌ディプロマット(電子版)は、インドが「経済的、地政学的な主要プレーヤーとしての地位を確立しつつある」中、存在感向上につながるとの見方を示した。

ただ、30歳以下が人口の約半数を占める中、国内では特に若年層の職不足が深刻化している。21年の15〜24歳の失業率は約28%というデータもある。また、国内の貧困層は約2億2890万人とされ、路上生活者は300万人に上るとの推計もある。人口増は経済や医療を圧迫するとの懸念は強い。

インドではこれまで人口抑制が話題となったことはある。ただ、特に近年はヒンズー至上主義を掲げる与党インド人民党(BJP)の一部が、出生率が高いとされたイスラム教徒の増加を抑えたいとの思惑があった。

地元紙ヒンドゥー(電子版)は「人口抑制をめぐってはこれまで宗教的な面に焦点が当たってきた」と指摘。人口世界一となることで議論の本格化を求めた。【1月26日 産経】
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インドが抱える根本的問題のひとつが絶対的貧困・格差の存在、カーストといった身分制度の残存があります。
一番楽観的に考えれば、経済的な貧困などの問題は、今後の経済成長のなかで緩和されていくと期待することもできるでしょう。

身分制度の話は部外者にはうかがい知れぬ問題ですが、インド社会が何千年も付き合ってきた問題ですから、今後も「それなりに」付き合っていくのかも・・・よくわかりませんが。

【没後75年のガンジー追悼式にモディ首相も参列 しかし・・・】
一方、モディ政権が問題を更に難しくしているのが宗教の問題。少数派イスラム教徒への対応の問題です。
かねてより、モディ政権のヒンドゥー至上主義的性格は指摘されているところで、今後この宗教対立が先鋭化すると、インドの経済における、また、民主主義における安定性は大きく揺らぐことにもなります。

上記記事にもあるように、多数派ヒンドゥー側には、人口においてもイスラム教徒の増加を不安視する見方があり、宗教的理由による人口抑制といったことが許されるなら、基本的な人権侵害、民主主義からの逸脱となります。

インド建国時に遡ると、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒の共存に最後まで拘ったのがガンジーであり、その考えに同調せず、イスラム教徒の国を建国したのがジンナーであり、結果として生まれたのがパキスタンです。(あまりに簡略化した書き方であり、本来はこの問題はもっと正確に論じるべき問題でしょう)

宗教的理由から分かれた1947年8月のインド・パキスタンの分離独立の前後の時期、インドでは宗教対立・暴動の嵐が吹き荒れ、イスラム教徒への宥和的姿勢のためヒンドゥー至上主義者から敵視されていたガンジーは1948年1月30日、ヒンドゥー至上主義者によって殺害されました。

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ガンディーを銃で撃ったのはナートゥーラーム・ゴードセーで、ヒンドゥー原理主義団体の民族義勇団(Rashtriya Swayamsevak Sangh,RSS)に所属していた。イスラーム地域の分離独立をはじめ、ヒンドゥー教徒を犠牲にしてでもムスリムに譲歩するガンディーは「イスラム教徒の肩を持つ裏切り者」であるとの理由から暗殺に及んだ。胸腹部に三発の銃弾を受けたガンディーはその場に倒れて死亡、78歳であった。【ウィキペディア】
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ガンジー没後75年 インド各地で追悼****
インドは30日、「独立の父」マハトマ・ガンジーの没後75年を迎え、各地で追悼式が行われた。

同日にはナレンドラ・モディ首相も、ガンジーの慰霊碑があるニューデリーの「ラージガート」を訪れた。
 
ガンジーは1948年1月、狂信的なヒンズー教徒ナトラム・ゴドセに暗殺された。ゴドセはガンジーが国内少数派のイスラム教徒に融和的な態度をとったことにいら立ち、犯行に及んだ。

ガンジーの命日は「殉教者の日」となっている。 【1月30日 AFP】
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ヒンドゥー至上主義者としても批判されるモディ首相はガンジーを暗殺したヒンドゥー原理主義団体の民族義勇団(RSS)に属しています。RSSは「ガンジーもネールもイスラム教徒に弱腰でヒンドゥー教徒を苦しめた」と非難しています。

モディ首相自身はさすがにインド最高の「偉人」たるガンジーを表だって批判することもなく、上記のように追悼式にも参列しています。ただ、ガンジーの思想をリスペクトしている訳でもないような・・・

****モディ政権の「ガンジー・テーマパーク」建設に批判****
2024年の次期総選挙にらむ与党の思惑も

インド政府は建国の父マハトマ・ガンジーが暮らし、独立運動を指導した施設「サバルマティ・アシュラム」を改築する計画だ。新たに博物館、フードコートなども建設する。

背景には2024年に想定される総選挙での勝利を目指す与党の思惑も浮上する。ガンジーを信奉する人々は「テーマパーク化」による冒涜(ぼうとく)だと反発している。

アシュラムはインド西部のグジャラート州にある。多くの信奉者が訪れ、17年には安倍晋三首相(当時)が同州出身のインドのモディ首相と共に訪問した。

1917年から30年までガンジー夫妻が暮らした。ガンジーはここで、綿糸と手紡ぎ車による布の生産を始め、英国の植民地政策に抵抗し、インドの綿製品を着用するよう呼びかけた。

改築にはインド文化省が1億6600万ドル(約180億円)を支出し、次の総選挙が見込まれる24年の完成を目指す。200台を収容できる広大な駐車場を併設する。

モディ氏とグジャラート州知事の直轄事業だ。プロジェクトはモディ氏と親しいとされる建築家の会社が主導する。この建築家は首都ニューデリーの再開発計画をはじめ、多くの政府事業に関わってきた。

インド政府が改築計画を発表したのは19年だった。8月になり、詳細が判明すると、ガンジーを信奉する100人を超える活動家や思想家が計画に反対する公開書簡をまとめた。

書簡は改築後のアシュラムが、せいぜい(崇高さを失った)「ガンジー・テーマパーク」にしかならないと指摘した。最悪の場合、ガンジーに対する(1948年に次ぐ)「2回目の暗殺」にも匹敵する冒涜になりかねないと批判する。

祖父がガンジーとともに独立運動に加わっていた歴史家は「ガンジーが最も愛した場所を軽々しく改築するのは、ガンジーへの侮辱だ」と非難する。「(モディ氏は)ガンジーの歴史的遺産を利用し、自分の名声を高めたいだけではないか」と疑う。

この歴史家は、モディ政権が改築を成功させることで、新型コロナウイルスの感染拡大による経済不振への批判を打ち消そうとしていると見立てる。

ガンジーのひ孫の一人も改築計画に嫌悪感を示している。この男性は「中央政府の悪意からサバルマティ・アシュラムを守らなければならない」とツイートした。【2021年9月14日 日経】
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【教科書で触れられぬガンジー暗殺】
モディ首相の思惑が疑われ、批判されるのは、同氏及び同氏率いるインド人民党がかねてから(ガンジーの思想とは相容れぬ)ヒンドゥー至上主義を鼓舞してきているからでもあります。

モディ首相のもとで、ガンジーの足跡は教育の場でも薄められているとの指摘もあります。

****ガンディー、ネルーも抹消して、モディ政権のインドはどこへ行く?****
インドでモディ首相が就任して4年。この間、私たちが慣れ親しみ仄かな尊敬さえ抱いていたインドのイメージが大きく変わりつつある。
たとえば、公立学校の社会科教科書から、なんと、初代首相ネルーの記述が消えた。建国の父、ガンディーの暗殺にさえ触れられていない。
ガンディーやネルーは、いわずとしれた、モディ氏率いる現与党インド人民党(BJP)のライバル政党・国民会議派のかつての中心人物であり、現在の会議派総裁もネルーの曾孫ラーフル・ガンディー氏だからだ。
だが、たんなるライバル関係を超えた、深い対立・断絶が両者の間にはある。

◆ 教科書書き換えの背景にあるもの
1947年、インドを独立に導いたガンディー、ネルーらの国民会議派は、「セキュラリズム(宗教的融和、政教分離)」と「少数者への配慮」を国是に掲げた。

百万人に及ぶ犠牲者を出す深刻な騒乱を経て、イスラム教徒主体のパキスタンとヒンドゥー教徒やシク教徒主体のインドに分離独立し、独立後もなお国内に約80%のヒンドゥー教徒と約15%のイスラム教徒をはじめ多様な宗教が混在し、しかもその間で対立・緊張を孕むインドにおいては、この国是こそが社会の安定と公正の基盤であった。

ところがインドには、独立前から、インドをヒンドゥー教徒の国と捉え、他宗教を排斥し、「多数派ヒンドゥーの力による強大な国家を」と唱えて、暴力的手段も用いてその実現を策してきた集団がある。それがモディ首相の出身母体RSS(民族義勇団)であり、その政治部門がモディ氏率いるインド人民党(BJP)である。

彼らにとっては、ガンディーやネルーは、イスラム教徒に妥協してヒンドゥー教徒を苦しめ、インドを弱体化した裏切り者なのである。

それゆえ、ガンディー、ネルーに替わって教科書に登場するのは、ガンディー暗殺への関与も疑われるヒンドゥー主義思想家サーヴァルカルや、RSSの愛唱歌、はては、イスラム教徒やキリスト教徒は本来のインド人ではない「外来者」と排除するトンデモ言説である。

連邦制のインドでは教科書の内容は州政府が決める。だから全国画一ではないが、BJPが政権を握る多くの州で進行中の事態である。

◆ 神話を操作して党勢を拡大
異変は学校教育だけではない。州政府発行の観光ガイドブックから、かの有名な世界遺産タージマハルが削除された。イスラム系王朝の遺跡だからという。

また、たとえば映画館に入ると、上映前に国歌斉唱のための起立が要請される。インド最高裁が一昨年、「愛国主義を醸成する」として下した判決に基づくもので、その後は、起立しない観客が与党BJPの支持者らに暴行される事件も頻発している。

国歌が流れ、スクリーンに国旗がたなびく中、観客の中の男性の誰かがヒンディー語で「インドの女神に」と叫ぶ。すると、周囲一帯が「勝利を!」と大声で唱和する。この文言は、モディ首相が演説の締めによく使う言葉で、インドは女神に象徴される多数派ヒンドゥーの文化に基づく国家だという主張の宣揚である。
イスラム教徒やキリスト教徒は恐怖を覚えるという。

じつは、RSSやBJPはヒンドゥーの神や神話の象徴性の操作にとりわけ意を用いている。
モディ氏はこう述べたことがある。「ガネーシャは、形成外科がすでに古代インドで行われていた証拠だ」。

ガネーシャは、父シヴァ神に首を切られ象の頭に付け替えられたという神話をもつ、インドで最も親しまれている象頭人身の神だが、その神話をもってヒンドゥー文化に基づくインドの優越性を誇ろうというのだ。

もちろん、神話と歴史の混同は批判される。だが、モディ政権は批判など意に介さず、一昨年、古代史を再検討する委員会を設置した。文化相いわく、「神々の話は神話ではなく史実。古典の内容と考古学の史資料との差を埋める必要がある」。

だが、じつは、この神話と歴史の混同こそが、インド人民党(BJP)の躍進のそもそもの原動力であった。

1980年にRSSの政党として創設されながらその主張の極端さから低迷していたBJPが起死回生を図ったのが、「北インドのアヨーディアという町にあるモスクは、かつてラーマ神が祀られていたヒンドゥーの神殿を毀して建てられたものだから、そのモスクを破壊してラーマ神殿を再建しよう」という運動であった。

90年、RSSやBJPは数万人の支持者を動員してモスク破壊を企てるが治安部隊に阻まれて果たせず、92年に再び挑戦してついに破壊した。その両回とも、ヒンドゥー教徒対イスラム教徒の宗教暴動が起こり、数万人の死傷者が出た。

この事件を通じてイスラム教徒への敵意を煽り広げることによってヒンドゥー教徒を結束させ、それを選挙に結びつけて、党勢の飛躍的な拡大を達成したのである。

モディ氏自身が政治家として名を高めたのも、州首相時代、グジャラート州で2002年に起きた、アヨーディア関連で3,000人近くのイスラム教徒が殺害された宗教暴動を通じてであった。【荒木重雄氏 オルタ広場】
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【くすぶり続けるグジャラート州首相時代のイスラム教徒大量殺害暴動との関係】
モディ氏がグジャラート州の州首相時代に起きた宗教暴動に関与していたのではないかとの指摘は常々なされています。司法的にはモディ氏を罪に問うべきものはないとされていますが、同氏がイスラム教徒殺害の暴動を止めようとしなかった・・・と多くの者は考えています。

この問題は、モディ首相の否定にもかかわらず、未だにくすぶり続けています。

****インド政府、モディ氏巡るBBC番組批判 国内の視聴阻止****
インド政府は、2002年に西部グジャラート州で発生した暴動を巡る英BBCのドキュメンタリー番組を国内で視聴できなくするよう交流サイトの運営会社に指示した。番組は当時州首相を務めていたモディ首相の対応に疑問を投げかける内容。

インド国内で番組は放送されていないが、政府高官によるとユーチューブの複数のチャンネルに投稿されていたという。

政府はツイッターに対して、番組の動画にリンクしている50以上の投稿をブロックするよう指示。ユーチューブにはビデオの投稿を阻止するよう命じた。ユーチューブとツイッターは政府の指示に従っているという。

グジャラート州で発生した暴動では、政府発表によると1000人以上が死亡した。その大半はイスラム教徒だった。

暴動は、ヒンドゥー教徒の巡礼者たちを乗せた列車が炎上して59人が死亡したことをきっかけに起きた。モディ氏に対しては暴動を止められなかったと批判が出ているが、同氏はこれを否定している。

インド外務省の報道官は先週、BBCの番組について「信用できない物語」を押し付けるために作られた「プロパガンダ作品」と批判した。【1月23日 ロイター】
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“止められなかった”というのは、モディ首相に寛容な表現のようにも。一般的には“止めようとしなかった”と表現されます。

****首相批判への弾圧強化=英BBC映像に反発、学生を拘束―インド****
インドで過去に起きた宗教暴動の背景に迫ったドキュメンタリー映像を巡り、インド政府が言論弾圧を強化している。

映像は暴動に関するモディ首相の対応を批判する内容で、英BBC放送が制作した。政府は「偏見に満ちたプロパガンダだ」と反発。上映会を企画した大学生を拘束するなど統制に躍起となっている。

「警官は学生を殴り、弾圧した」。首都ニューデリーの大学2年で、大学構内で映像の上映会を企画したディビヤジョーティ・トリパティさん(20)は時事通信の取材に、取り締まりの様子をこう証言した。トリパティさんは上映会当日の25日、他の学生12人と共に拘束され、翌日解放された。

映像は未公開の文書や関係者の証言を基に、西部グジャラート州で2002年に起きた宗教暴動を検証。当時州首相だったモディ氏が混乱を止めようとしなかったことを疑問視する内容だ。

暴動は、ヒンズー教の巡礼者が乗った列車をイスラム過激派が放火したことが発端。ヒンズー教徒が報復としてイスラム教徒を襲撃し、イスラム教徒を中心に1000人以上の犠牲者が出た。

モディ氏はヒンズー至上主義を掲げる「民族奉仕団」(RSS)出身。RSSを支持母体とする与党インド人民党(BJP)は、少数派のイスラム教徒に対し敵対的な政策を打ち出してきた。最高裁は、モディ氏が暴動に関与したことを示す証拠はないと結論付けたが、疑念はくすぶり続けている。

インドではネット上での映像視聴が規制されているが、トリパティさんは仮想プライベートネットワーク(VPN)を使って見たという。「中立的な内容で、一人ひとりに見てほしい。政府の検閲に人々は疑問を持つべきだ」と語った。

当局の締め付けにもかかわらず、上映会開催の動きは大学を中心に全土で広がっている。【1月30日 時事】
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グジャラート暴動の問題は以前から言われている話ですが、それでもモディ氏が首相になれた・・・(モディ氏個人の問題と言うより)それを可能にしたインド社会の問題のように思えます。
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