孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

米中の影響力競争のなかで、「グローバル・サウス」への働きかけを強めるアメリカ・バイデン政権

2022-11-26 22:42:35 | 国際情勢
(握手するフィリピンのマルコス大統領とハリス米副大統領(21日、マニラ)【11月21日 日経】 ドゥテルテ時代に比べたらずいぶん和やか)

【アメリカなど西側の懸念「グローバル・サウスが中国、ロシアに取り込まれつつある」】
国連の場で、ウクライナに侵攻するロシアを非難するいくつかの決議を行うことで明らかになった事実は、必ずしも欧米の主張に同調せず採決を棄権する国々がかなり多いということです。

いわゆる「グローバル・サウス」という、アフリカ・アジア・ラテンアメリカなどの途上国・新興国です。
今後の国際政治の流れにおいて、この「グローバル・サウス」と呼ばれる国々の動向が重要になります。

****中国・ロシアの脅威以上に懸念されるのは、「グローバル・サウス」の国々が中ロと連携すること 細谷雄一/峯村健司****

(中略)
細谷(慶應義塾大学教授・細谷雄一氏)
(中略)その一方でロシアや中国のような権威主義体制が、軍事的な威嚇と経済的なインセンティブ――中国のBRI(一帯一路)やロシアの天然資源など――を組み合わせることによって、自分たちとの提携による利益をアピールするわけです。

残念ながら、国際社会においては、価値の共有や正義感よりも軍事的な恐怖心や経済的な自己利益のほうが、国家の行動を決めるインセンティブとしては強いんですね。

峯村(米中関係に精通するジャーナリスト峯村健司氏)
たしかに、一部の途上国にとっては、中国のカネやロシアの資源のほうが魅力的でしょうね。

細谷 そこでもっとも懸念されるのは、ロシアや中国の脅威それ自体よりも、むしろ「グローバル・サウス」と呼ばれる地域の国々が中国やロシアに近づいていくことです。

峯村 アフリカ、アジア、南米など、今のところまだ欧米側にも中露側にも属していない国が、外交的圧力と経済的インセンティブによって中露と連携するわけですね。

細谷 そうやってグローバル・サウスが中国やロシアとの連携を深めていくと、欧米の民主主義諸国は、グローバルな国際社会におけるマイノリティーになります。すると、国連をはじめとする国際機関における議論でも、民主主義諸国は一部の特権的な白人中心の富裕国のように見なされ、その主張への共感が広がらないでしょう。

峯村 アメリカの政治学者、ラリー・ダイアモンド氏の統計では、2019年、冷戦後初めて世界の人口ベースで民主主義国が過半数を割っています。すでに民主主義がマイノリティーとなっており、中国やロシアなど権威主義的な国家が影響力を持つようになるわけですね。

細谷 ええ。それが、ウクライナ危機の下で欧米諸国が議論するときの最大の懸念です。グローバル・サウスが中国、ロシアに取り込まれつつあり、NATOが国際社会でマイノリティーになりつつある。マドリード・サミットでも、そのことが何度も指導者たちの口から出ていました。

それによって国際的な不正義がますます拡大し、国際社会がかつてわれわれが経験したことのないようなジャングルになってしまう。まさに19世紀的な国際秩序への回帰であり、剥き出しのパワーポリティクスですよね。
われわれはそれに対して、ウクライナでの戦争によって生じた傷以上に、深刻な懸念を抱くべきだと思います。【10月29日 幻冬舎plus】
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【アメリカも中国に対抗 太平洋島しょ国への関与強化】
そこで、アメリカも中国・ロシアに対抗して、「グローバル・サウス」取り込みに乗り出しています。

中国との安全保障協力に関する協定を調印したソロモン諸島に代表されるように、中国は太平洋島しょ国への影響力を強めており、この地域はアメリカ(その同盟国のオーストラリア)と中国の影響力競争のホットスポットになっています。

中国の攻勢に対抗するように、9月、アメリカは太平洋島しょ国の首脳との会合を開催しました。

****米と太平洋の島国のサミット閉幕 米は「中国への対抗」明記した戦略も発表****
ワシントンで行われたアメリカと太平洋島しょ国の首脳会合は、29日、閉幕しました。バイデン政権は同時に中国への対抗を明記した新たな戦略を発表しています。(中略)

14の太平洋の島しょ国が参加した首脳会合で、バイデン大統領は経済協力支援として日本円でおよそ1200億円の拠出を表明し、こう強調しました。

アメリカ バイデン大統領 「アメリカと世界の安全保障は太平洋諸島にかかっています。私は本当にそう思っています」

首脳会合に合わせ、バイデン政権は「太平洋パートナーシップ戦略」を発表。中国を名指しして、「この地域の平和や繁栄、安全保障を損なうおそれがある」と批判し、島しょ国との関係を強化していく方針を明記しました。

具体的には、中国が安全保障協定を結んだソロモン諸島にアメリカの大使館を開設するほか、沿岸警備隊が各国で訓練を行うなど連携を深めます。

首脳会合は「領土と主権を損なう、あらゆる試みに反対する」と明記したパートナーシップ宣言にすべての国が署名し、閉幕しました。【9月30日 TBS NEWS DIG】
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「グローバル・サウス」の側からすれば、こういう米中の競合を利用して、双方からならべく多くのものを引き出そう・・・という話にもなります。

****ソロモン諸島警察に中国から放水車 豪から銃も****
南太平洋の島国ソロモン諸島は4日、中国から放水車を寄贈され、警察の装備を強化した。3日前にはオーストラリアからも銃を提供されている。

ソロモン諸島をめぐり、米豪は影響力拡大を図る中国をけん制して外交上の駆け引きを行っている。

マナセ・ソガバレ首相が4日に首都ホニアラで行った式典で、中国はソロモン諸島の警察に放水車2台、バイク30台、多目的スポーツ車20台を寄贈。李明中国大使は、ソガバレ政権の要請に応じたもので、「ソロモン諸島の法と秩序の執行に貢献」を果たすはずだと述べた。

豪連邦警察も2日、銃身の短いライフル60丁と車両13台を寄贈している。ソロモン諸島が今年4月、中国と安全保障協定を締結したためにオーストラリアとの関係は緊張。豪政府は先月、ソガバレ氏を迎えて両国の関係改善に動いていた。

今回の寄贈をめぐり、ソロモン諸島の野党党首マシュー・ウェール氏は懸念を表明。AFPに対し、「外的脅威はどう見てもないのに、なぜこうした強力な銃を導入するのか。わが国は再び軍国主義への道を歩んでいるのだろうか」と疑問を呈し、「もしそうなら、われわれは自国民に対して武装することになる」との考えを示した。 【11月5日 AFP】
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【米中のはざまでASEAN諸国はバランス重視 アメリカはフィリピンとの関係強化へ】
そして、東南アジア。
11月23日にカンボジアで開催されたASEAN拡大国防相会議も、中国の攻勢に対抗するアメリカの姿勢を示す場のひとつでした。

****ASEAN拡大国防相会議で日本とアメリカがロシアを非難した「もう1つの理由」****
ASEAN拡大国防相会議、ウクライナめぐり日本とアメリカがロシアを非難 〜東南アジアでロシアを非難する場を持ったことがポイント
(中略)
前嶋(上智大学教授で政治学者の前嶋和弘氏))
(アメリカは)今回のASEANの場で、結果はわかっていたのですが、強くロシアを非難しました。そしてロシア側は「そんなことはない。アメリカが悪いのだ。手を出しているのだ」という話になるわけです。

こうなることはわかっていて、予定調和的ではあるのですが、これをやることも重要です。ロシアは反発するのだけれど、「これだけのことをしているあなたたちが悪いでしょう」と言う機会を「東南アジアで持った」ことがポイントなのです。(中略)

アメリカ・ヨーロッパ・日本側とロシア・中国側 〜そのどちらにもつかない国をいかに西側にプラスするか
前嶋)アメリカ・ヨーロッパ・日本側と、ロシア・中国……中国は微妙な立場ですが。そのどちらにもつかない国が多いのです。冷戦時代と違うのはそこなので、1つ1つを切り崩していって、いかにアメリカ・ヨーロッパ・日本側にプラスするかが重要になります。

飯田)いかにこちら側に来させるか。
前嶋)国連もそうですが、アジア、アフリカでの会議はとても重要です。特にアフリカ辺りは「どっちつかず」でいた方が、中国も助けてくれるという感じなのです。(後略)【11月24日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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ASEAN側からすれば、米中の間でバランスをとることが重要になってきます。

ASEAN加盟国のひとつインドネシアは経済的には中国と近く、軍事・防衛の分野では米国との強い結びつきを持つ国です。米中の競争の渦中で“一方の影響力を示す「色」には敏感”になっているとも。

“インドネシアは中国の融資を受け、首都ジャカルタと近隣都市バンドンの郊外を結ぶ約142キロの高速鉄道を建設。9月時点での総事業費は約72億ドル(約1兆円)を超える一大インフラ建設プロジェクトだ。合弁会社「インドネシア中国高速鉄道(KCIC)」によると、車両は中国製だが、インドネシア風に変えたところもある。車体にはインドネシア固有種「コモドドラゴン」をモチーフにしたうろこ状のデザインを施した。「インドネシアのものに見えるようにしなければならない」。関係者は強調する。”【日系メディア】

アメリカが働きかけを強めている国のひとつがフィリピン。
フィリピン・マルコス大統領は中国とも波風たてず、アメリカとも関係を強化する「2方面」外交を基本としています。

****比、ロシア製戦闘ヘリ購入中止は対米関係重視? マルコス新大統領のしたたか外交****
<国際情勢が緊迫するなかで、東南アジアのリーダーが決断した選択は──>
フィリピンがロシア製の戦闘ヘリコプター16機の導入を断念したことが明らかになった。
フィリピンの国防相を務めたデルフィン・ロレンザーナ氏は26日夜、ロシア製戦闘ヘリMi―17(ミル17)16機の購入契約が取り消されたことを明らかにしたという。AP通信が7月27日に伝えた。

16機のMI―17導入はドゥテルテ前大統領が政権末期に決裁したもので、導入総額は127億フィリピンペソ(約308億6500万円)で、2019年のドゥテルテ前大統領とロシアのプーチン大統領との会談で大筋合意に達していたという。

導入断念の背景には2月のロシアによるウクライナへの軍事侵攻という要素が大きく占め、この今の時期にロシア製軍装備を導入することは国際社会の反発、特に同盟国である米政府によるフィリピンへの制裁発動を懸念した結果であるとの見方が有力だ。

曖昧戦術の2方面政策
フィリピンは6月30日に就任したフェルディナンド・マルコス・ジュニア(愛称ボンボン)新大統領による新政権がスタートしたばかりで、7月25日にマルコス新大統領は初めての施政方針演説を行った。(中略)

わずかに言及された外交・安全保障問題では中国との間で島嶼や環礁の領有権問題が存在する南シナ海(フィリピン名・西フィリピン海)に触れて「フィリピンの領土を1平方ミリメートルといえども譲らない」としたうえで「領土保全と国家主権に関する現在、将来の安全保障上の脅威に備えるため国軍の構造を変える必要がある」として1935年に制定された国防法の改正を求めた。

フィリピンは安保では米の同盟国として中国には強い姿勢で臨んでいるが、中国海警局の船舶による度重なる南シナ海でのフィリピン船舶への航路妨害、放水などの挑発には乗らず、対抗措置も中国への抗議に留まるという「曖昧戦術」に終始している。

その一方で経済面では中国が一方的に唱えている「一帯一路」構想の一環として続ける経済支援、インフラ整備、投資の促進などに依存している。

こうした「曖昧戦術」による「2方面」外交の舵取りがフィリピンのしたたかな姿勢へとつながっている。ただ、これはドゥテルテ前大統領時代の政治を踏襲したもので、マルコス新大統領の政権としての新鮮味には欠けているといわざるを得ない状態だ。(後略)【7月28日 大塚智彦氏 Newsweek】
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そうした中で、最近はややアメリカとの関係強化の側面が目立ちます。
中国からの経済支援に期待したドゥテルテ前大統領は在任中、一度も訪米せず、激しい言葉での対米批判も間だちましたが、マルコス大統領は9月22日、国連総会に出席するため訪問中のニューヨークで会談し、南シナ海の自由な航行と上空飛行に対する支持を表明し、両国関係改善の姿勢をみせました。

****米・フィリピン大統領が初会談、南シナ海の自由航行・飛行を支持****
バイデン米大統領とフィリピンのマルコス大統領は(9月)22日、国連総会に出席するため訪問中のニューヨークで会談し、南シナ海の自由な航行と上空飛行に対する支持を表明した。同海域での影響力拡大を図る中国に対抗する狙い。両首脳が対面で会談するのは今回が初めてとなる。

ホワイトハウスは会談後の声明で「両首脳は南シナ海の領有権問題を巡って協議し、航行および上空飛行の自由、紛争の平和的解決への支持を表明した」と述べている。

また両首脳は、二国間同盟の重要性も改めて確認。ホワイトハウスは「バイデン大統領は、フィリピンの防衛に対する米国の確固たるコミットメントを再確認した」とした。【9月23日 ロイター】
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一方、中国との間では中国のロケットの一部とみられる残骸をめぐるトラブルが発生。

****海上に中国ロケットの残骸?フィリピン海軍“回収しようとしたら妨害されて奪われた”中国側は否定***
フィリピン海軍は、中国のロケットの一部とみられる残骸を南シナ海で回収しようとしたところ、中国海警局の船に妨害され、奪われたと発表しました。

フィリピン海軍によりますと、南シナ海のパグアサ島の周辺海域で20日、不審な金属片の浮遊物が発見されました。軍が浮遊物をロープでえい航して回収しようとしていたところ、中国海警局の船が進路を妨害した上、ロープを切って浮遊物を強奪したということです。

一方、これについて中国政府は先ほど、「双方が現場で友好的な協議をした結果、フィリピン側はその場で中国側に浮遊物を返還した。中国側はフィリピン側に謝意を示し、強奪などの状況はなかった」と反論しています。

フィリピン近海では、今月に入って中国が先月打ち上げた大型ロケット「長征5号B」の一部とみられる残骸が相次いで見つかっています。【11月21日 TBS NEWS DIG】
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同時期フィリピンを訪問したアメリカ・ハリス副大統領は中国漁船の進出が著しいパラワン島を訪問し、フィリピンへの協力姿勢をアピールしています。

****「違法漁業が脅威に」 米副大統領がフィリピンの島訪問、中国けん制****
東南アジアを歴訪中のハリス米副大統領は22日、南シナ海に面するフィリピン西部・パラワン島を訪問した。「違法な漁業などが地域の生態系や経済の直接的な脅威となっている」と演説し、同海域で覇権的な動きを強める中国を念頭に、けん制する姿勢を示した。

ハリス氏は、同島を訪問した米政府当局者としては最高位。演説の前に同島中部の漁村などを訪れ、村長らと面会した。約1500世帯が暮らす村では中国漁船による違法操業などの影響で漁獲量が減少し、深刻な問題となっているという。

ハリス氏はフィリピン海上警備隊らの前で演説し、「地域の人たちは、フィリピンが管轄する水域に外国船が侵入し、違法に魚を激減させ、海の生態系を破壊するその影響を目の当たりにしてきた」と指摘。「地域の経済や生態系、人々の生活を守るために、私たちは国際法と規範を維持しなければならない」と訴えた。

フィリピンは今年6月、同島付近の自国の排他的経済水域(EEZ)に100隻を超える中国の漁船が長期にわたって違法に集結したと批判している。ハリス氏は特定の国名をあげなかったが、「主権や領土保全の尊重、インド太平洋と南シナ海での自由な航行や飛行といった原則を守らなければならない」と述べた。

米国は22日、違法漁業を取り締まるフィリピンの海洋法執行機関の装備充実などに750万ドル(約10億6300万円)の支援をすることも発表した。【11月22日 毎日】
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****南シナ海でわが物顔の中国を警戒、米比が防衛協力拡大で合意****
(中略)
相互防衛条約の下での協力を改めて確認
こうしたなか、ハリス米副大統領が(11月)20日夜にフィリピンに到着した。ハリスはジョー・バイデン米政権の一員としてフィリピンを訪問した最高レベルの米政府高官となり、このことは、6月末にフィリピン大統領に就任したばかりのフェルディナンド・マルコスJr.新大統領が、前任者のロドリゴ・ドゥテルテ前大統領よりもアメリカとの同盟関係を重視していることを示している。

マルコスは、17日にAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議に出席するため訪問していたタイのバンコクで、中国の習近平国家主席と初会談。21日にはハリスと会談を行い、「アメリカを含まないフィリピンの未来はないと思う」と述べた。

この会談に先立ち、ハリスはフィリピンに対して、1951年に締結された米比相互防衛条約の下での協力を改めて確認した。ドナルド・トランプ米政権以降、南シナ海でのフィリピンに対する攻撃も、米比相互防衛条約の適用対象となっている。

ハリスは「南シナ海に関する国際ルールと規範を守るため、我々はフィリピンと共にある」と述べた。「南シナ海において、フィリピン軍や公用船舶、航空機が武力攻撃を受けた場合、アメリカの相互防衛の約束が発動されることになる。これがアメリカの揺るぎない決意だ」(後略)【11月22日 Newsweek】
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2014年に結ばれた米フィリピンの防衛協力強化協定に基づき、米軍はフィリピンの5カ所で一時的な駐留が認められていますが、マルコス・ハリス両氏は今後、この拠点を増やすことで合意しました。

ただ、マルコス大統領は同時に「全ての友人であり、誰の敵でもない」と、独自外交を続ける方針を繰り返し強調しています。17日には訪問先のバンコクで中国の習近平国家主席とも会談、。来年1月には訪中する方針です。

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