孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

コソボ  根深いセルビア系住民とコソボ政府の対立 NATO指揮下のコソボ治安維持部隊との衝突も

2023-05-30 21:52:50 | 欧州情勢

(29日、コソボ北部の町で、コソボ平和維持部隊(コソボ治安維持部隊KFOR)と衝突する住民ら=ロイター【5月30日 読売】)

【コソボ国内少数派セルビア系住民を支援するセルビアそしてロシア、コソボ政府を支援する欧米】
旧ユーゴスラビアのコソボは2008年に独立を宣言したものの、国民の90%を占めるアルバニア系に対し5%のセルビア系住民が、独立を認めず対立が続いています。

セルビア系住民を支援しているのが隣国セルビアで、コソボ独立をめぐって激しい戦争を繰り広げ、「悪者」イメージが欧米世界に拡散もしました。

そのセルビアを支援するのが、民族的・文化的・宗教的にも近いロシアです。
昨年末、コソボ内における対立が激化した際も、セルビア系住民及びセルビア支持を明らかにしています。

****ロシア、セルビア支持表明 コソボ緊張激化受け****
ロシア大統領府(クレムリン)は28日、セルビアとコソボの緊張激化を受け、友好国セルビアへの「支持」を表明した。

ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は会見で、「ロシアは、事態の進展とセルビア人の権利が確保されているのかを注視している」として、「わが国は、セルビア政府のすべての行動を支持する」と述べた。

さらに「セルビアは、近隣で困難な状況にあるセルビア系住民の権利を守ろうとしている。こうした権利が侵害された場合、厳しい対応をするのは当然だ」と述べた。一方で「セルビアは主権国家であり、ロシアの影響力を受けていると考えるのは完全に間違っている」と付け加えた。

コソボは2008年にセルビアからの独立を宣言した。しかし、セルビアは認めておらず、コソボのセルビア系住民約12万人にコソボ政府への抵抗を促してきた。

今月10日には、コソボ北部でセルビア系の元警察官がアルバニア系の警察官に暴行したとして逮捕されたことをきっかけにセルビア系住民がバリケードを築いて抗議した。

セルビアのアレクサンダル・ブチッチ大統領は26日、軍に「最高レベル」の警戒態勢を取らせるとともに、特殊部隊の強化を命じた。 【2022年12月29日 AFP】
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一方、コソボ政府を支援するのが欧米諸国で、独立をめぐる紛争中の1999年にはNATOはセルビアに激しい空爆を行っています。

*****NATOのセルビア空爆*****
NATOによるセルビア空爆は、1999年の3月24日から6月11日まで続き、最大で1千機の航空機が、主にイタリアの基地から作戦に参加し、アドリア海などに展開された。

巡航ミサイル・トマホークもまた大規模に用いられ、航空機や戦艦、潜水艦などから発射された。NATOの全ての加盟国が作戦に一定の関与をした。

10週間にわたる衝突の中で、NATOの航空機による出撃は38,000回を超えた。ドイツ空軍は、第二次世界大戦後で初めて戦闘に参加した。【ウィキペディア】
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【コソボ国内で治安維持にあたるNATO指揮下のコソボ治安維持部隊(KFOR)】
こうしたNATO支援もあって戦闘はコソボ独立派が勝利し、NATOが指揮するコソボ治安維持部隊(KFOR)が今もコソボにおいて治安維持にあたっています。

****コソボ治安維持部隊(KFOR)****
KFOR、コソボ治安維持部隊は、1999年6月10日に採択された国連安保理決議1244に基づき、北大西洋条約機構(NATO)指揮の下、当時ユーゴスラビア連邦共和国のセルビア共和国(2008年にセルビア共和国として独立)統治下にあったコソボ・メトヒヤ自治州(2008年2月17日にコソボ共和国として独立を宣言)において治安維持を担う国際安全保障部隊である。

同決議に基づき暫定行政を行う民生部門は国際連合コソボ暫定行政ミッション(UNMIK)という。(中略)

治安の現状
KFOR駐留以前はセルビア治安部隊やユーゴスラビア軍とコソボ解放軍の対立は激しく、セルビア人、アルバニア人双方に迫害の被害者を出した。

KFOR駐留以後は和平案は概ね履行され、また、スロボダン・ミロシェヴィッチ大統領も逮捕されたことから、アルバニア系住民への迫害は改善したと言われている。

しかし、その一方で非アルバニア系、特にセルビア系住民の拉致と見られる行方不明、虐待、虐殺などの迫害が続いている。そのため、現在に至るもコソボのセルビア人帰還は進んでいない。

また、KFOR及びUNMIKの支配下でこのような行方不明や殺人が起きていることから、セルビア系の元住民らにはKFORやUNMIK、NATOに対する根強い不信感があるという指摘もある。(後略)
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世界約110カ国がコソボの独立を認めているものの、セルビアのほか、ロシアや中国、EU加盟国ではスペイン、ギリシャ、ルーマニア、スロバキア、キプロスが独立を認めていません。また、コソボは国連にも加盟していません。(スペイン等がコソボ独立を認めないのは、国内に同様の分離独立運動を抱えているため)

【EU加盟を求めるコソボ、セルビア 加盟のためには両国関係正常化が条件】
コソボ、セルビア両国ともにEU加盟を求めていますが、加盟のためには両国関係正常化が条件とされています。
そのため、関係改善も模索はされていますが、対立の根は深いのが現実です。

****係正常化へEU計画履行に合意 対立続くセルビアとコソボ****
欧州連合(EU)の外相に当たるボレル外交安全保障上級代表は18日、対立が続くセルビアとコソボの関係正常化に向けたEUの計画をどのように履行するかについて、両国が暫定合意したと発表した。AP通信が伝えた。

北マケドニア(旧マケドニア)のオフリドで、セルビアのブチッチ大統領、コソボのクルティ首相と協議したボレル氏が、記者会見して明らかにした。セルビアの自治州だったコソボは、紛争を経て2008年に独立を宣言。セルビアは認めておらず、両国の対立は続いている。

ロイター通信によると、ブチッチ氏は「いくつかの点で合意したが、全てではない。最終合意ではない」と述べた。【3月19日 共同】
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【根深い対立 セルビア系住民とコソボ治安維持部隊(KFOR)の衝突も】
昨年末、コソボ北部でセルビア系の元警察官がアルバニア系の警察官に暴行したとして逮捕されたことをきっかけにセルビア系住民がバリケードを築いて抗議していた件は、年末に一応の収束がはかられましたが、対立の根本が改善した訳でもありませんので、いつでも新たな形で噴出します。

前出のように、セルビア系住民にはNATO指揮下の平和維持部隊であるコソボ治安維持部隊(KFOR)への不満が強くあります。

****コソボでNATO軍兵士負傷、セルビア系デモ隊と衝突****
コソボでセルビア系住民らのデモ隊と警察の衝突が起き、鎮圧に乗り出した北大西洋条約機構(NATO)平和維持部隊の兵士約25人が負傷した。

デモ隊と衝突したNATO軍兵士らはコソボ北部の3市庁舎周辺に非常線を張り、警戒に当たっていた。

NATOのコソボ治安維持部隊(KFOR)は暴力を非難。声明の中で、「群衆の最も活発な一角に対抗していたイタリアとハンガリーのKFOR兵士数人がいわれのない攻撃を受け、発火装置の爆発により負傷した」とした。

ハンガリーのクリストフ・サライ・ボブロブニツキー国防相は、同国兵士7人が重傷を負い、治療のためにハンガリーに搬送されると述べた。また兵士20人が負傷したという。

コソボ全体ではアルバニア系住民が人口の90%以上を占めるが、北部のセルビア系が多数派の地域でセルビア系住民が市長選をボイコットし、アルバニア系の市長が誕生したことから、緊迫した状況が続いている。

隣国セルビアのブチッチ大統領は同国軍に最高度の警戒態勢を取るよう指示している。

ブチッチ氏はセルビア系の52人が負傷し、このうち3人が重傷を負ったと述べた。

コソボのオスマニ大統領は、ブチッチ氏がコソボを不安定化させていると非難。「セルビア系の非合法組織が犯罪組織となり、コソボの警察、KFOR、ジャーナリストを攻撃している。コソボ北部を不安定化させるというブチッチの命令を実行する者は正義に直面しなければならない」とツイッターに投稿した。

ブチッチ氏は、コソボのクルティ首相が緊張を作り出していると非難。コソボのセルビア系住民に対し、NATO軍兵士との衝突を避けるよう呼びかけた。【5月30日 ロイター】
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群衆が治安部隊に激しく殴りかかり、辺りでは催涙弾や閃光弾が飛び交っている状況とか。
単にコソボ国内の問題でなく、コソボとセルビア、更にはロシアと欧米という対立を背景にした構図です。

この対立が解消してコソボ・セルビア関係が改善し、両国がEU加盟を実現する日が来る・・・・のでしょうか?
あまり楽観的には考えられません。

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