孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  封鎖の緩和で増加する感染 高い抗体保有率、低い致死率をどう考えたらいいのか?

2020-07-29 23:19:26 | 南アジア(インド)

(インド・ムンバイのスラム街ダラビで、戸別訪問しながらスクリーニング検査を行う医療関係者(2020年6月24日撮影)【7月5日 AFP】 コロナはともかく、インドの暑さでは、防護服の医療関係者が熱中症で死んでしまうかも)

 

【厳しい対策の長期化に苦しむ新興・途上国

新型コロナの感染は欧米先進国から途上国へと拡大していきましたが、先進国とほぼ同時期にロックダウンに踏み切った途上国ではその後に感染拡大が続き、緩和するタイミングを失いながら、ロックダウンによる負担に耐えかねる状況になっています。

 

****途上国、長すぎるロックダウン****

新型コロナウイルス対策で新興・途上国が苦境に陥っている。

 

欧米の先進国とほとんど同時に外出規制などで厳しい措置を始めたものの、すでにピークを過ぎた欧州などに比べ、感染が後から拡大。規制の緩和に踏み切れず、経済的な困難は我慢の限界に達している。(中略)

 

 ■規制4カ月、欧州で進む緩和の裏で 耐えきれず感染拡大の国も

新型コロナウイルスの感染は、地域ごとに順を追って世界中に広がってきた。

 

ウイルスの遺伝子型の分析によれば、中国から拡散したウイルスのうち、特に欧州に渡って変異した「欧州型」が感染拡大を引き起こし、その後に南米やアフリカなど各国に広がったとされる。

 

感染者数の推移をみても、国境をまたいだ移動が盛んな欧米を中心とした先進国で先行して3~4月に感染が拡大。その後、現在は米国のほか、南米や南アジア、アフリカなどの新興・途上国を中心に感染が増え続けている。

 

一方で、各国は感染拡大に合わせて順々に規制を強めていったわけではない。英オックスフォード大ブラバトニック公共政策大学院は、各国政府の規制の厳しさを数値化して分析している。同大学院のデータによると、各国は感染状況にかかわらず、3月中旬にほぼ一斉に渡航禁止や外出制限などの対策に動いたことがわかる。

 

その結果、いま起きている問題が新興・途上国での厳しい対策の長期化だ。地域ごとに比較すると、欧州では規制の緩和が進んでいる一方、南米や南アジア、アフリカなどの新興・途上国では対策強化から4カ月たってもなお厳しい規制が続いている。

 

同大学院で研究チームを率いるトーマス・へール准教授は「早期に厳しい規制を敷いた国々では、感染拡大を遅らせることができた側面はある。しかし、ロックダウンは経済負担が大きく、長続きは難しい。耐えきれずに規制を緩めた結果、感染拡大を許してしまったケースがみられる。インドや南アフリカなどが典型例だ」と指摘する。

 

ロックダウンは万能薬ではなく、せいぜい時間稼ぎ。その間にどんな準備ができたかが重要だ。途上国の中でも、いち早く検査・追跡の態勢を整えたベトナムなどの成功例もある」と話している。【7月29日 朝日】

*********************

 

ロックダウンは経済負担が大きく、長続きは難しい。耐えきれずに規制を緩めた結果、感染拡大を許してしまったケース”とされるのが、いち早くロックダウンに踏み切ったインド。

 

****感染対策の「優等生」、苦境に インド失業1.2億人/アルゼンチン財政破綻****

新興国途上国に遅れて広がった新型コロナウイルスの流行は「経済より命」を優先し、いち早くロックダウンに踏み切った感染対策の「優等生」の国々を苦しめることになった。経済も命も救う方策はあるのか、難問を突きつけられている。

 

インド政府は、感染者が657人だった3月下旬、13億人超の全国民を対象にしたロックダウンに踏み切った。食料など必需品の買い物以外の外出を厳禁し、守らない人には禁錮刑を科す厳しい措置をとった。

 

当時、モディ首相は「コロナとの闘いに21日間(の封鎖)で勝利する」と発言していた。だが、4カ月たった今、感染者は約150万人となり、そのペースは衰えをみせない。その間、あらゆる経済指標が危機的な水準に陥った。

 

個人消費は低迷し、4月の新車販売台数は多くの企業がゼロ。民間調査機関は5月、約1億2千万人が職を失ったと推計した。

 

モディ政権は「命も経済も」として、6月には方針を転換。レストランや工場を再開させた。ポンディシェリ大学のモハンティ教授(社会学)は「感染の抑え込みにどれだけ時間がかかるかわからず、経済をいつまでも人質にはできないと判断したのだろう」と指摘する。(後略)【7月29日 朝日】

**********************

 

【インド 規制緩和で拡大した感染】

規制に「痛み」に耐えかね、6月に規制を緩和すると感染はさらに拡大。

連日の見出しを見るだけでインドにおける感染拡大のハイペースがわかります。

 

“インド、感染者70万人超え=死者2万人、まん延続く”【7月7日 時事】

“インドの感染80万人超える=保健相「市中感染なし」―新型コロナ”【7月11日 時事】

 

そして17日には100万人越え。多数の出稼ぎ労働者の移動が、感染の拡散をまねいています。

 

****新型コロナ感染者が100万人超え 地方で感染拡大****

インドの新型コロナウイルス感染者が17日、100万人を超えた。感染者数は、米国、ブラジルに次ぐ3位。地方で感染が拡大している。

保健省によると、17日に新たに3万4956人の感染が確認され、累計で100万3832人となった。死者は2万5602人。

専門家は、人口が約13億人ということを考えると100万人は相対的に少ないと指摘するが、検査を強化するに伴い今後数カ月で感染者数が大幅に増加すると予想される。

当局は3月に感染防止のためのロックダウン(都市封鎖)を導入し、6月から封鎖を緩和していた。封鎖緩和とともに、都市にとどまっていた数百万人の出稼ぎ労働者が里帰りしたため、地方で感染が拡大。今週、出稼ぎの多い東部ビハール州や、IT(情報技術)企業が集積するベンガルールなどが封鎖措置を導入した。

野党・国民会議派のラフル・ガンジー総裁は、今のペースでいくと8月10日までに感染者は2倍の200万人になるとツイッターに投稿し、モディ首相に有効な感染対策を講じるよう求めた。【7月17日 ロイター】

*******************

 

ペースは加速し、29日には150万人を超えていますが、モディ首相はインドの新型コロナ対策は「(インドの感染爆発を恐れる)世界の予想を(いい意味で)裏切った」と、回復率の高さなどをあげて自身の政策を正当化しています。

 

これは首都圏でのピーク越えもあっての発言でしょうが、地方に拡散した感染が、労働者の移動によって再び首都圏に持ち込まれる可能性もあります。

 

****インド、新型コロナ感染者150万人超え=モディ首相「対策奏功」主張****

インド政府は29日、新型コロナウイルスの累計感染者数が153万1669人になったと発表した。150万人を超えるのは米国、ブラジルに次いで3カ国目。死者数は3万4000人を上回った。

 

24時間の新規感染者数は4万8000人以上、死者は768人。人口が13億人を超えるインドで、感染拡大が続いている。

 

モディ首相は26日のラジオ演説で、厳しい外出禁止を伴う全土封鎖といったインドの新型コロナ対策は「(インドの感染爆発を恐れる)世界の予想を(いい意味で)裏切った」と自身の政策を正当化。

 

累計感染者のうち約65%は既に回復しており、この数字も「他国を上回っている」と述べ、政府の対策は奏功していると強調した。

 

政府発表によれば、これまで感染者の多かった西部マハラシュトラ州や首都ニューデリーで新規感染者が減少傾向にある。ニューデリーでは、最大で4000人近かった24時間の新規感染者が、28日は613人にとどまった。

 

一方、感染は医療機関や検査態勢の整っていない地方に飛び火している。大都市で働いていた地方からの出稼ぎ労働者が、全土封鎖の影響で職を失い、故郷に戻った影響とみられている。

 

政府は5月に入り、大都市周辺で3月末から足止めされていた出稼ぎ労働者を帰郷させる臨時列車の運行を開始。既に600万人以上が列車を使って地元に帰ったと報じられている。

 

政府は6月上旬、経済活動への規制を大幅に緩和した。これを受け、職を求める出稼ぎ労働者が大都市周辺に戻ってくる可能性も高く、一度は感染者が減った都市部でも再び感染拡大が進む恐れがある。【7月29日 時事】 

*********************

 

【首都圏住民の4人に1人、スラム地域の57%が抗体保有 多い無症状感染 低い致死率】

ただ、新型コロナは無症状の感染者も多いことが大きな特徴でもあり、首都圏住民の4人に1人が感染履歴を示す抗体を有しているとも。

 

****都住民の4人に1人が感染の恐れ、被害急加速のインド****

 インドの国家疾病対策センターなどは25日までに、首都ニューデリーの住民4人に1人が新型コロナウイルスに感染している可能性があるとの調査報告書を公表した。

 

同センターが約2週間前、首都各地で無作為に選んだ住民を対象に実施した抗体検査に基づく。2万1387人が血液検査を受け、過去の感染歴を示唆する抗体が23.48%で見つかったという。

 

センターは今回の調査結果を踏まえ、首都内の感染は確認された症例件数よりはるかに多く広がっている事態も考えられるとした。

 

インド保健省は報道発表文で、調査結果に触れ、大半の住民は無症状にとどまっていることがうかがわれるとも指摘。新型コロナの感染拡大が始まって半年となり、人口過密な地区が複数ある首都圏内で23.48%の数字は政府の活発な感染阻止策の効果を示すとも主張した。

 

ニューデリーの首都圏で発生した感染者数は今月22日の時点で、12万5096人だった。同国の2011年の国勢調査によると、首都圏の総人口は1678万人。(後略)【7月25日 CNN】

*********************

 

首都圏住民の4人に1人が感染ということは、約400万人。とてつもない数字です。

 

無症状・軽症の者が多いということの意味合いは微妙。

 

感染のリスクをそれほど恐れることもない・・・とも言えます。

一方で、多数の無症状感染者がウイルスを拡散させることで、完全な封じ込めは極めて困難とも言えます。

 

こうした高い抗体保有率は海外ではときおり耳にしますが、日本では1%未満の非常に低い数値が報告されており、このあたりが、最近の死者数の少なさともに、よくわからないところです。

 

(本来は、感染率・死者数等の現状分析によるリスクの評価は、今後の予防対策の大前提であるべきものですが、日本の場合は、そのあたりが曖昧にされたまま、「とにかくマスク着用で、三密を避け・・・」ばかり繰り返されています。 極論すれば(あくまでも極論ですが)感染しても殆ど死なないなら、何百人、何千人感染者がでようが「それがどうした?」という対応もあり得る話になります。)

 

インドに話を戻すと、とりわけ懸念されているのが、貧困層が密集して暮らし、極度に衛生環境が悪いスラムでの感染爆発です。

 

今までのところ、「スラム地域で悲惨な死体の山が・・・巨大な墓場と化している・・・」といった類の報道は目にしません。

一方、抗体検査すると、上記のように首都圏では約23%でしたが、スラムでは57%にものぼるとのこと。

 

殆どが無症状感染で、致死率が非常に低いということでしょうか。

 

****ムンバイのスラム街住民、半数以上が新型コロナ感染か****

 インド西部の都市ムンバイのスラム街で、住民の半数以上が新型コロナウイルスに感染しているとの研究結果が明らかになった。地元当局と医療機関による共同研究の結果が28日に発表された。

 

今月前半、市内3つの区から無作為に抽出した計6900人以上を対象に抗体検査を実施したところ、スラム街では住民の57%、それ以外の地区では16%が陽性反応を示したという。

 

抗体検査では過去に感染したかどうかがが分かる。研究チームはスラム街で特に陽性率が高かった要因として、人口密度の高さやトイレなどを共用する生活環境を挙げた。

 

スラム街以外の地区でも陽性率が比較的高かったのは、清掃係や庭師、運転手としてスラム街の住民を雇っているケースが多いためと考えられる。

 

今回対象となった3地区以外でも検査が完了すれば、同様の結果が出ることが予想される。

 

ただし陽性者の多くは無症状とみられ、感染者の致死率は0.05%にとどまっている。研究チームは、症状のある患者を隔離する市当局の対策が効果を挙げているとの見方を示す。

 

米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によれば、インド全体でも新型ウイルスによる人口10万人当たりの死者は2.47人と、米国の45.24人、英国の68.95人と比べてはるかに少ない。インドの人口構成は欧米に比べ、重症化率の低い若者が多いためという見方が強い。

 

モディ首相は同国の検査件数や回復率の高さ、死亡率の低さを強調するが、今回発表された結果からは、これまでの検査で見つかっていなかった感染者も多いことが判明したといえる。

 

首都ニューデリーでの抗体検査でも先週、住民の4人に1人が感染していたとする報告書が公表された。【7月29日 CNN】

******************

 

ムンバイのスラム街は、一度走る車の中から道路わきに連なるスラムを見たことがあるだけですが、とんでもないところです。日本人の感覚からすれば、とても人間が住める環境とは思えません。

 

そういう場所ですから、57%という数字には驚きませんが、インドの異常に低い致死率はどう理解すればいいのか?

“症状のある患者を隔離する市当局の対策が効果を挙げている”というのは当局の手前みそでしょうし、“インドの人口構成は欧米に比べ、重症化率の低い若者が多いため”とうのも・・・。

 

多少は影響するでしょうが、インドにだって高齢者はいますので、それだけでこんない大きな欧米との差がでるとも思えませんが・・・・。医療環境を考えれば、インドははるかに不利な状況にあるはずです。

 

インドの死者の少なさは、(高齢者も多い)日本の死者数の少なさにも共通するもので、やはりこのあたりの解明が今後の対策には不可欠です。

 

【一部スラム地域での積極的な取り組みも】

よくわからないことが多いなかで、ムンバイのスラム地域における積極的な取り組みに関する記事を紹介しておきます。

 

****インドの巨大スラム街に希望の光、積極策でコロナへの勝利目前に****

インド・ムンバイにあるアジア最大規模のスラム街ダラビでは、新型コロナウイルスによる初の犠牲者が確認された際、対人距離の確保や接触者の追跡がほぼ不可能だとして、狭く密集した通りが墓場と化すのではないかと多くの人々が懸念した。

 

だがそれから3か月を経て、ダラビには珍しく、希望の光が差し込んでいる。市当局者のキラン・ディガブカール氏によると、「災難を待ち構えるのではなく、ウイルスを追いかける」ことに焦点を当てた積極的な戦略が功を奏し、新規感染者が減少しているという。

 

無秩序に広がるこのスラム街は、インド経済の中心都市ムンバイにおける厳しい所得格差の象徴する。推計100万人の住民たちは、工場で働いたり、裕福な市民の下でメイドや運転手として働いたりしながら辛うじて生計を立てている。

 

十数人が一つの部屋で眠るのが当たり前で、数百人が同じ公衆トイレを使う現状の中、標準的な感染対策がほとんど役に立たないことに当局は早々に気付いた。

 

「対人距離の確保は実現不可能で、自宅隔離は選択肢になり得ない。しかも、大勢が同じトイレを使う現状では、接触者の追跡はとてつもなく大きな問題だった」と、ディガブカール氏はAFPの取材でそう振り返った。

 

戸別訪問でスクリーニング検査を行うという当初の計画は、ムンバイの焼けつくような暑さと湿気の中、防護服を何枚も重ね着し、感染者を探して狭い路地を歩き回る医療関係者が息苦しさを訴えたことから取りやめになった。

 

だが感染者が急速に増え、検査を受けた人が5万人に満たない現状を踏まえ、当局は迅速かつ独創的な対応をする必要に迫られた。

 

彼らが編み出した方法は、その名も「ミッション・ダラビ」。医療関係者は毎日、スラム街の異なる場所に簡易検査施設を設置し、住民らがスクリーニング検査や、必要ならばウイルス検査を受けられるようにした。

 

学校や結婚式場、スポーツ施設は隔離施設として代用され、無料の食事やビタミン剤が提供された他、「ラフターヨガ(笑いヨガ)」のクラスも開催された。

 

12万5000人が暮らすウイルスのホットスポット(局地的流行地)では、ドローンも駆使して人々の移動を監視し警察に通報するなど、厳格な封鎖措置が取られた。その一方、住民らが空腹とならないよう、大勢のボランティアが食料を配給するなど、迅速な対応に当たった。

 

また、ボリウッドスターや経済界の大物らが医療装備の購入用に資金を提供し、建設作業員らはダラビ内の公園に病床数200の野外病院をあっという間に建設した。

 

こうして6月下旬までに、スラム街の人口の半数超がスクリーニング検査を受け、約1万2000人がウイルス検査を受けた。

 

ダラビでこれまでに報告された死者数はわずか82人で、4500人超を数えるムンバイ全体の死者数のほんの一部を占めるにすぎない。

 

コロナ危機のピーク時に自身の小さな診療所で毎日約100人の患者を診察していたアブヘイ・タワレ医師は、「われわれは勝利を目の前にしている。私はとても誇りに思う」と話した。(後略)【7月5日 AFP】

************************

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« マレーシア  1MDB疑惑... | トップ | サウジアラビア  大巡礼、... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

南アジア(インド)」カテゴリの最新記事