孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州  常に「同盟国は仲間」ではないその関係 仏伊は新たな協力関係 英仏は対立を深める

2021-11-27 23:41:37 | 欧州情勢
(イタリア・ローマで、仏伊協力条約を締結したエマニュエル・マクロン仏大統領(左)とマリオ・ドラギ伊首相(2021年11月26日撮影)【11月26日 AFP】 
マクロン大統領の背後には“勝手に国民にも知らせず”コバルトブルーかネイビーブルーへと変更したとされるフランス国旗も。なお、地元メディアによると、大統領は国旗の色の濃さを変更する権限があるとのこと。)

【仏伊 一時は大使召還 協力関係を明文化する新たな条約を締結】
日本は周辺国と歴史的あるいは政治・経済的な多くの問題を抱えており、その関係に苦慮するところもありますが、価値観をほぼ同じくし、政治・経済・社会的に密接な関係を持つ欧州各国も歴史を遡れば「戦争の歴史」であり、現在も様々な利害対立を抱えています。

例えばフランスとイタリアは、移民問題、財政赤字を巡るEUルールの問題、更にリビア内戦を巡って激しく対立し、2019年2月にはフランス政府がイタリアの「内政干渉」に対して駐イタリア大使を召還する事態ともなりました。

なお、当時のイタリアのサルヴィーニ副首相は極右であり、フランス国内の反マクロンの極右ルペン氏と連携していたという政治事情もあります。

****リビア内戦めぐりフランスとイタリアが対立──NATO加盟国同士が戦う局面も?****
(中略)これら各国は表面上、国連の承認を得た(西の)統一政府を支持しながらも(東のハフタル将軍率いる)リビア国民軍に肩入れし、新政権樹立を通じてリビアを自分たちの勢力圏に収めようとしているとみられるのだが、そうした国のなかには先進国も含まれ、とりわけフランスによる不透明な関与はしばしば指摘されている。

リビアで緊張が高まっていた2017年7月、フランスのマクロン大統領は(西のリビア統一政府)シラージュ首相、(東の)ハフタル将軍と三者会談をもち、緊張緩和を演出したが、そのシラージュ首相は今月に入って(ハフタル将軍率いる)リビア国民軍が進撃を開始した直後、「フランス政府がハフタル将軍を支援している」と批判し、これをやめさせるよう各国に呼びかけている。

NATOの分裂
フランスの動向に最も神経をとがらせているのが、かつてリビアを植民地支配し、現在では統一政府の主な支援者でもあるイタリアだ。

イタリアのサルヴィーニ副首相は「フランスはリビアの安定に関心がない。それは恐らく石油のためで、これはイタリアの利益に全く反する」と名指しで批判している。

2011年から続く戦闘で生産が停滞しているものの、リビアは潜在的には世界屈指の産油国で、2015年段階の確認埋蔵量484億バレルはアフリカ大陸第1位だ(BP)。

歴史的な関係を反映してイタリアはリビアの油田開発で有利な立場にあり、IMFの統計によると2018年段階でリビアの輸出額(ほとんどが石油)に占めるイタリアの割合は19.9パーセントで第1位だった。ちなみに、フランスのそれは12.3パーセントだった。

つまり、サルヴィーニ副首相はフランスがリビアでの権益を拡大させるため、反政府勢力を支援し、政権を入れ替えようとしているというのだ。

フランスとイタリアはいずれも北大西洋条約機構(NATO)加盟国で、G7メンバーでもあり、こうした発言は異例とも映るが、両国関係はすでに第二次世界大戦後の最悪レベルといわれるほど悪化している。

2月には、イタリアのディマイオ副首相が昨年末からフランスで毎週デモを行っているイエロー・ベスト運動の指導者らと会談し、支援を約束した直後、フランス政府がこの「内政干渉」に対してイタリア大使を国外退去させる事態となった。

サルヴィーニ副首相の批判はこうした外交関係の悪化を背景に出たものだ。これに関してフランス政府から公式の声明は出ていないが、リビア内戦がこの同盟国間の外交対立に拍車をかけていることは間違いない。

イタリアの抜けがけ
ただし、自国の利益のためには抜けがけも辞さないのはフランスの専売特許ではなく、この点ではイタリアも変わらない。イタリアがリビアで大きな権益を握ってきたこと自体、これを如実に物語る。(中略)

同盟国という名のライバル
国際政治に抜けがけは付き物で、その意味ではフランスやイタリアの行動は珍しいものではない。リビア情勢は「同盟国は仲間」という考え方が一種の神話に過ぎないことを改めて示している。

ただし、フランスが支援するリビア国民軍が統一政府を支援するイタリア軍と対峙すれば、間接的とはいえNATO加盟国同士が戦火を交えることになる。

NATOは冷戦時代、ソ連という共通の脅威を前に組織されたが、現代の対立の構図は複雑化しており、ロシアや中国との距離感はヨーロッパ諸国の間でも差がある。

もともと同盟関係は永久不変ではなく、冷戦期以前は定期的に組み替えが発生していた。リビア内戦は「アラブの春」第二幕の一部であると同時に、第二次世界大戦後の秩序が揺らぎつつあることの一つの象徴といえるだろう。【2019年4月19日 六辻彰二氏 Newsweek】
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その仏伊両国が“近年の緊張に区切りをつけ、協力関係を明文化する新たな条約を締結”したとのこと。

****仏伊、「歴史的」協力条約を締結****
フランスとイタリアは26日、近年の緊張に区切りをつけ、協力関係を明文化する新たな条約を締結した。
 
エマニュエル・マクロン仏大統領は同日、イタリアの首都ローマを訪問。セルジョ・マッタレッラ伊大統領のクイリナーレ宮(大統領官邸)で、マリオ・ドラギ伊首相と共に署名式に臨んだ。
 
この通称「クイリナーレ条約」には、経済、産業、文化、教育、安全保障、外交など幅広い分野における両国の協力内容が盛り込まれている。
 
ドラギ氏は記者会見で「欧州統合の前進に貢献し、加速させる」ことを目指す同条約の締結を「歴史的瞬間」と評した。
 
またマクロン氏は「深い友情を確認する」条約であり、「欧州連合創立メンバーである両国は、より強く結束し、より民主的でより独立した欧州を支持する」と述べた。
 
欧州は今、過渡期を迎えている。英国が離脱し、加盟国間の摩擦を抱えるEUは、東側の近隣諸国の動きにも神経をとがらせている。事実上の指導者だったドイツのアンゲラ・メルケル首相は、ついに引退の日を迎えようとしている。
 
マクロン氏は、仏伊には「困難な時もあった」と認めた。これは2019年、当時のイタリアのポピュリスト政権がマクロン氏を公然と批判し、外交危機に発展した時期に言及したものとみられる。ドラギ政権の発足後に、両国関係は大きく改善した。
 
北アフリカから毎年何万人もの移民が到着するイタリア国内には、問題の対応が自国のみに押し付けられているという、欧州の同盟諸国に対する不満もくすぶっている。
 
ドラギ氏は、移民・難民政策ではEU内の協調が必要だとする考えで両国が一致したと述べた。 【11月26日 AFP】
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【英仏 移民対応で対立 漁業問題も】

(【2020年6月19日 CNN】2020年6月 ロンドンを訪れ、ジョンソン英首相とともに第2次大戦を記念する式典に参加したマクロン大統領
両者が距離をとっているのは決して“不仲”のせいではなく、コロナ対応です。)

一方、フランスとイギリスの関係は、イギリスのEU離脱もあって、刺々しさを増しています。

歴史を遡ればナポレオンの時代からでしょうが、最近ではイギリスを目指す移民・難民をフランスが十分に制御していないとのイギリス側の不満、それに対するフランス側の反発がありますが、大規模な移民船遭難事故で一気に表面化しています。

****英仏海峡で簡易ボート遭難 移民ら27人死亡 過去最悪の規模****
英仏海峡で24日、フランスから英国を目指した簡易ボートが遭難し、AFP通信によると、移民ら27人が死亡した。同海峡は危険を冒して英国へ渡る人々の主要ルートとなっており、同海峡での移民・難民の遭難としては過去最悪と伝えられている。
 
同通信などによると、同日午後2時ごろ、仏北部カレーの沖合で複数の遺体が浮かんでいるのを漁師が発見した。
 
同日カレーに駆けつけたダルマナン内相は、犠牲者には5人の女性、1人の少女が含まれていると記者団に明らかにした。2人を救助したものの、1人が行方不明とみられるという。国籍はわかっていない。
 
遭難を受け、フランスのマクロン大統領は英国のジョンソン首相と電話会談。英首相官邸によると、両者は「命がけの渡航を阻止するための取り組みを強化する」ことで合意した。
 
マクロン仏大統領は欧州の内相らによる緊急会合の開催を求めた上で、「フランスは英仏海峡を墓場にすることはない」との声明を出した。ただ、英スカイニュースは10月、移民らがボートで英国へ向かうのを、仏当局が現場の沿岸で黙認する様子を報じていた。
 
カレーは中東などから英国を目指す移民や難民が最後に滞在する欧州の一大沿岸拠点。仏政府は沿岸の警備強化に必要な費用を負担するよう英国に求めてきた一方、英国は一定の支払いに応じつつも仏政府の対策が不十分だと指摘するなど、両国間の火種になっている。【11月25日 朝日】
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犠牲者については“男性17人、女性7人(うち1人は妊婦)、子ども3人が溺死”【11月26日 BBC】とも。

こうした悲劇を防がねばならないと言う点では英仏は依存はありませんが、その具体的対応となると相手方への不満があります。

****仏英、密航防止へ欧州全体の協調呼び掛け***
フランス北部沖で、イギリス海峡を渡り英国への入国を試みた移民少なくとも27人が死亡した事故を受け、英仏両国は25日、他の欧州諸国に対し、密航防止に向けた協調対応を呼び掛けた。
 
仏政府は、難民をめぐる緊急閣僚会合を今週末開くことを他の欧州諸国に提案。ただ、英国の欧州連合離脱(ブレグジット)後も英仏間の対立は解消されておらず、協調対応に影響を及ぼす恐れがある。(中略)

エマニュエル・マクロン仏大統領は事故を受け、同海峡を「墓地」にはさせないと表明。同大統領はボリス・ジョンソン英首相と電話で協議した。
 
英首相官邸によると、両首脳は、命懸けの密航を防ぐためには協調行動の強化が急務であり、密航組織の活動を阻止するため「あらゆる選択肢を排除しないことが重要」との考えで一致した。
 
しかし、ジョンソン氏は地元メディアに対し、英政府としては、状況に適した解決策を模索する中で、一部のパートナー国、特にフランスの説得に手を焼いていると漏らした。
 
一方、仏大統領府は、マクロン氏がジョンソン氏に対し、両国には「共通の責任」があると訴えるとともに、「英国が全面的に協力し、悲劇的な状況の政治利用を控えることを期待する」と伝えた、とする短い声明を出した。
 
英PA通信によると、今年これまでに2万5700人以上がイギリス海峡を小型ボートで渡っており、すでに昨年1年間の3倍に上っている。 【11月26日 AFP】
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ジョンソン英首相は対応策に関してマクロン大統領に書簡を送り、これをツイッターで全文公開。この公開書簡というやり方はマクロン大統領をいたく不快にさせたようです。

****ジョンソン英首相、移民を「連れ戻す」ようフランスに要求****
イギリスのボリス・ジョンソン首相は25日、フランスに対し、英仏海峡を渡ってイギリスに来る人たちを「連れ戻す」ことに同意するよう求めた。

ジョンソン首相はフランスのエマニュエル・マクロン大統領に書簡を送り、英仏海峡で27人が死亡した24日の悲劇が繰り返されないよう、「さらに本格的かつ迅速に動く」ための5つのステップを提示したと述べた。

そして、英仏海峡を渡る人を対象とした返還協定について、「直ちに多大な効果」を発揮するだろうと話した。
これに先立ち政府関係者は、英仏両国の首脳が「前向きな」会談をしたと述べた。

5つのステップを提示
(中略)
ジョンソン氏は、以下の5つのステップを提示したとツイートした。
・フランス沿岸からボートが出発するのを防ぐため、共同パトロールを実施する
・センサーやレーダーなど、より進んだ技術を活用する
・双方の領海を相互にパトロールし、上空からも監視する
・両国の情報当局の共同チームが機能を深める
・フランスと返還協定について直ちに協議するとともに、欧州連合(EU)との間でも返還協定について話し合う
(後略)【11月26日 BBC】
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****英首相は「真剣でない」 仏大統領が批判、移民問題で対立激化****
エマニュエル・マクロン仏大統領は26日、英仏間のイギリス海峡を横断中に移民27人が水死した事故を受け記した書簡をツイッターに投稿したボリス・ジョンソン英首相を、「真剣でない」と批判した。

ジョンソン氏は25日夜、移民密航阻止策を五つ提案する書簡をマクロン氏に送付した上で、その全文を自身のツイッターで公開。フランスの怒りを買った。

ジョンソン氏は書簡で、英治安部隊をフランスに派遣して共同パトロールを行うという、マクロン氏にとって微妙な問題となっている案を再度提示。さらにフランスに対し、英国に到着した移民全員の受け入れを直ちに開始するよう要請した。

マクロン氏は訪問先のイタリア・ローマで開いた記者会見で、「真剣でないやり方には驚かされる。首脳はこのような問題について、ツイッターや公開書簡で他国の首脳と意思疎通をしないものだ」と苦言を呈した。

両国の関係は、英国の欧州連合離脱(ブレグジット)をめぐる一連のあつれきにより、過去数十年で最も緊迫しているが、マクロン氏によるジョンソン氏個人に対する批判によって対立はさらに激化した。

26日には、イギリス海峡での英国の新規漁業権付与に抗議するフランスの漁師が、フェリーと列車の同海峡通行を一時妨害する事態も起きている。

専門家は、両国間の信頼と友好関係の欠如により、英仏海峡を横断する移民の増加への対処における協調がより困難になると指摘している。

フランスのジェラルド・ダルマナン内相はジョンソン氏の書簡への抗議として、プリティ・パテル英内相に対し、28日に仏カレーで欧州諸国が開く会合への招待を取り消すと伝えた。 【11月27日 AFP】
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上記記事にもあるように、両国は移民対応以外にも、ブレグジットでも問題になった漁業問題を抱えています。

****フランス漁業者、英仏海峡トンネル封鎖を計画 英との漁業権問題で****
英国とフランスの漁業権を巡る対立が長期化する中、フランスの漁業団体は英国の欧州連合(EU)離脱後に英国領海での漁船操業が一部認められなかったことに抗議するため、両国間の鉄道貨物輸送に使われる英仏海峡トンネルと仏北部カレー港の封鎖を計画している。

仏漁業養殖業委員会が25日にオンラインで記者会見を開き、計画を明らかにした。英仏海峡トンネルには多数の車両を結集させるとした。

英領海での仏漁船の操業についてフランス側は、英国がこれまでに交付を認めた免許の数が十分ではないと反発しているが、英国はブレグジット(EU離脱)後の取り決めを尊重した結果だと主張している。

仏漁業養殖業委の幹部は、仏漁業者に対する英国の「挑発的で見下したような態度」に対して団結できることを示すと述べた。

ジョンソン英首相の報道官は同日、「抗議の脅しに失望している」とコメント。フランス政府は違法な活動や貿易への悪影響がないよう図る責任があると述べた。【11月26日 ロイター】
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ブレグジットを主導したジョンソン英首相、「ポスト・メルケル」のEU盟主を目指すマクロン仏大統領ともに「協調・調整型」というよりは、強く自己主張するタイプの政治リーダーですので、最近の英仏関係の緊張はそうしたリーダーの性格を反映したもののようにも見えます。
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