孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ポーランド・ハンガリーなどの中東欧諸国 コロナ復興でEUが求める「法の支配」を拒否

2020-11-25 23:00:33 | 欧州情勢

((メラニア夫人の故郷)スロベニア・セブニツァ近郊で披露されたメラニア・トランプ米大統領夫人の銅像【9月16日 AFP】 この銅像は2代目。初代は木造で水色の服を着ていましたが、7月に放火で焼失しました。)

 

【EUのコロナ復興基金 権威主義的傾向を強めるポーランド・ハンガリーの反対で運用が遅れる可能性も】

新型コロナが猛威をふるう欧州では、ピークを越えた国、依然厳しい状況にある国、状況は国によって異なります。

“仏英、コロナ規制緩和を発表 ロックダウンで感染に歯止め”【11月25日 AFP】

“ドイツ、1日当たりの新型コロナ死者が410人に 過去最多”【11月25日 ロイター】

 

ドイツは、感染の増加傾向には歯止めがかかったものの、依然として高止まりしているため、各州は行動制限を12月20日まで延長する見込みとされています。

 

感染状況に差異はあっても、2度目のロックダウンを余儀なくされて、各国ともに市民生活は疲弊し、政府による救済が早急に求められていることは同じです。

“欧州ロックダウン、貧困の波 非正規直撃 職探しの外出、不許可”【11月24日 朝日】

 

各国政府の救済策を資金的に支えるのがEU。

 

EU内部には、かねてより財政規律を重んじるドイツ・オランダなど北部諸国とギリシャ・イタリアなど救済を求める南部諸国の間で、財政規律をめぐる対立軸がありますが、同時に、いわゆる西欧的民主主義を重んじるドイツ・フランスなど西欧諸国と権威主義的傾向を強めるポーランド・ハンガリーなど中東欧諸国の間には、民主主義の価値観をめぐる深刻な対立があることは、これまでもしばしば取り上げてきたところです。

 

権威主義・国家主義的とされるハンガリーとポーランドの政府を巡っては、裁判所、メディア、非政府組織の独立性が損ねられているとして、EUが正式な調査手続きを進めています。

 

そのEUでは予算案には加盟27カ国による全会一致の承認が必要とされていますが、2021─27年予算と新型コロナウイルス復興基金の採択にあたり、資金へのアクセスを巡り、法の支配の尊重が条件に盛り込まれたことに反発するポーランド・ハンガリーが拒否権を行使したことで、来年1月からの予算執行が遅れる可能性が高まっています。

 

“ハンガリーのオルバン首相は18日の声明で「拒否権を行使した」と言明。隣国スロベニアのヤンシャ首相も17日、ハンガリーなどを支持する内容の書簡をミシェルEU大統領らに送った。EUの亀裂が鮮明になった。”【11月18日 共同】

 

ポーランド、ハンガリーはたびたび取り上げてきましたが、個人的にあまり馴染みがないのがスロベニア。

“トランプ氏の妻、メラニア・トランプ氏の生まれ故郷であるスロベニアでは、米大統領選を通じてヤンシャ首相がトランプ氏を称賛しており、10月にはツイッターにバイデン氏は、「歴史上、最も弱い大統領の1人となるだろう」と投稿した。”【後出WSJ】

 

16日の大使級会合、17日の欧州担当大臣級会合、そして19日の首脳会議でも東西の溝は埋まっていません。

 

****東欧2カ国「法の支配」条件に反発 EUのコロナ基金****

新型コロナウイルス禍で深刻な打撃を受けた国を支援する欧州連合(EU)の「復興基金」をめぐり、東欧のハンガリーとポーランドが承認手続きで同意を拒否している。

 

権威主義に傾斜している両国の政権は、「法の支配」順守を資金分配の条件とする基金の仕組みに反発している。基金の運用開始には加盟全27カ国の承認が必要で、来年1月とされていた予定がずれ込む可能性が出てきた。

 

基金はEUの欧州委員会が債券を発行し、金融市場で全額を調達する。規模は総額7500億ユーロ(約92兆円)でEU予算に組み込まれる。コロナ禍に伴う医療支援や景気対策などのため、返済不要の補助金として3900億ユーロ、融資の形で3600億ユーロの資金を加盟国に供給する仕組みだ。

 

EU首脳は7月、基金の設立に合意した。しかし、その後、EU議長国を務めるドイツと欧州議会の交渉担当者が、「法の支配」の原則に反する加盟国に対しては、基金からの資金拠出を差し止められるとする仕組みの導入方針を決めた。

 

ハンガリーとポーランドの政権は強権的な統治手法を強め、報道の自由や司法の独立を脅かしていると指摘される。基金運用に関する方針には、両国での「法の支配」の後退に歯止めをかける狙いがある。

 

ハンガリーやポーランドはこれに対し、「経済問題を政治的な議論に結びつけるのは誤りだ」などと反発。基金を含めたEU予算の承認手続きに拒否権を行使している。

 

EUは19日、オンラインによる首脳会議を開き、基金の問題を議論したが、両国は拒否する姿勢を変えなかった。加盟国は協議を継続することで一致しており、ミシェルEU大統領は12月の首脳会議までに解決を図る考えを示した。

 

ハンガリーのグヤーシュ首相府長官は同日、現状のままでは基金が稼働する「可能性はゼロだ」と述べ、仕組みの変更を改めて求めた。ドイツのメルケル首相は「拒否権がある以上、ハンガリーやポーランドとの協議を続けなければならない」と述べるにとどめた。

 

基金の運用開始が遅れれば、コロナ禍で低迷した欧州経済の回復が遅れる恐れもある。景気悪化が深刻なイタリアのアメンドラ欧州関係担当相は「(基金の承認を)遅らせた者は重い政治責任を負う」と警告した。【11月20日 産経】

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【トランプ退陣で守護者を失う中東欧ポピュリズム右派政権】

“強権的な統治手法を強め、報道の自由や司法の独立を脅かしていると指摘される”中東欧諸国ですが、こうした国々をこれまで強気にさせてきたのが、同様の傾向を持ち、西欧諸国と馬が合わないアメリカ・トランプ大統領でした。

 

そのトランプ大統領の退陣は、中東欧の強権支配・右派ポピュリズム国家にも大きな影響を与えることが予想されます。

 

今回、西欧諸国が「法の支配」順守を資金分配の条件とする形で中東欧諸国へ強気の姿勢を示しているのは、中東欧諸国を勢いづかせてきたトランプ大統領の退陣ということが影響しているとも指摘されています。

 

****「親トランプ」の東欧右派政権、米国の変化を警戒****

ハンガリーやポーランドなどの大衆迎合主義政府、バイデン氏の大統領就任で批判恐れる

 

11月3日の米大統領選挙の翌日、スロベニア右派政権のヤネス・ヤンシャ首相は、ドナルド・トランプ氏が大統領選で勝利したと公式に宣言した。1国のリーダーとしてトランプ氏の勝利を認めたのは、世界でヤンシャ氏だけだ。ヤンシャ氏はその後、米大統領選挙で不正があったとの根拠の薄い主張を、頻繁にリツイートしている。

 

エストニアのマルト・ヘルメ内相(その後辞任)と彼の息子のマルティン・ヘルメ財務相は、ジョー・バイデン次期米大統領を腐敗した人物だと批判し、「ディープ・ステート(国家内国家)」が米大統領選挙を盗み取ったと主張するとともに、トランプ氏が内戦によって権力を取り戻しつつあると指摘している。マルト・ヘルメ、マルティン・ヘルメ両氏は、エストニア連立政権の一角を占める極右政党の指導者だ。

 

また、ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領は、バイデン氏の「大統領選挙での成功」に祝意を述べただけで、選挙人による投票の結果を待っていると語った。ドゥダ氏は、今年7月のポーランド大統領選挙直前にホワイトハウスを公式訪問したことで勢いを得て、大統領再選を果たしていた。ポーランド公共放送のテレビ番組は、米大統領選挙で不正が行われた可能性があるとの見方を、連日のように伝えている。

 

こうした反応は、強い立場の西欧諸国と、地政学的に弱い立場の東欧諸国との間の亀裂を示している。西欧諸国はバイデン氏の勝利を歓迎しているが、東欧諸国の多くはトランプ氏を支持してきた。

 

トランプ氏はこれまで、気候変動・貿易・国防などの問題でドイツやフランスと頻繁に対立してきたが、中・東欧諸国の何人かの首脳とは友好的関係を結んできた。

 

こうした諸国では、国内で伸長していたナショナリストとポピュリスト(大衆迎合主義)の勢力がトランプ氏の政治姿勢を歓迎していた。

 

東欧のナショナリスト勢力は、2016年の米大統領選でトランプ氏が勝利するはるか以前から、基盤を拡大していた。ハンガリーのビクトル・オルバン首相は、10年前から首相を務めており、メディア・市民社会組織・司法への影響を着実に強めている。ポーランドのドゥダ大統領が最初に当選したのは2015年だ。

 

しかし彼らは、トランプ氏が米大統領となったことで、主流になりつつある世界の流れの一翼を担っているとの感触を得て勢いを増した。

 

トランプ氏は、西欧諸国が仲間外れにしようとしていたこれら諸国の正当性を認めた。トランプ氏は大統領として初の欧州訪問の際にワルシャワを訪れ、「われわれ独自の文化、信仰、伝統による結び付きの一掃」を画策する勢力に対抗する共同戦線を提唱した。

 

米大統領選でバイデン氏が勝利したことで、東欧諸国のナショナリストは守勢に回っている。今年のポーランド大統領選でドゥダ氏に挑んだ欧州議会議員で中道左派のロベルト・ビエドロン氏は「彼らは、価値観を共有し反リベラルの主張を広める親しい仲間を失った。トランプ氏が敗れたことで、もはやトランプ効果は機能しなくなった」と語った。

 

ホワイトハウスの変化は、資金援助に法の支配重視の条件を付けるという欧州連合(EU)の要求をめぐって、ポーランドとハンガリーが他のEU加盟国と対立する中で起きた。

 

こうした条件を課されることで、ハンガリーとポーランドは道路・鉄道・学校向けにEUから資金を得るため、裁判所や政府系メディアの力を排除する動きを抑制せざるを得なくなる可能性がある。

 

ハンガリー生まれでオランダ選出の欧州議会議員のカティ・ピリ氏は、EU主要国によるこうした強硬なアプローチについて、トランプ氏敗北の直接的な結果の1つだと話す。

 

同氏は、「本当に変わったのは、リベラルの力に公的な資格が与えられたように感じることだ。ここ何年かにわたって、欧州の指導者の多くはこうした独裁者に立ち向かわなかった。今後そのようなことは二度と起こらないだろうと感じている」と話した。

 

副大統領時代のバイデン氏と働いた米国の元当局者および顧問らは、バイデン政権が米国の政策を急旋回させ、同地域に対してより積極的なアプローチを取るとみていると話す。

 

ディック・ダービン上院議員(民主、イリノイ州)は、「私はバイデン次期大統領が民主主義的な規範や人権に関して、われわれが共有する価値観を改めて主張すると確信している」と述べる。

 

バラク・オバマ前大統領時代に北大西洋条約機構(NATO)の米国大使を務め、現在シカゴ・グローバル評議会会長を務めるイボ・ダルダー氏は、「とても大きな変化になるだろう」と述べ、「民主主義的価値観と法の支配へのコミットメントは、ワシントンと良好な関係を築く上でかなり重要になるだろう」と付け加えた。

 

バイデン氏の政権移行チームの広報担当者は、次期大統領のコミットメントについては、今年出された記事の中で、「民主主義の強化を世界的な政策目標に戻すこと」と述べていると指摘した。(後略)【11月24日 WSJ】

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【トランプ後も残るポピュリズム】

中東欧諸国とはいっても、事情はそれぞれ(例えばロシアの脅威の度合い、それはアメリカを必要とする度合いにもなります)ですから、今後の対応もそれぞれでしょう。

 

ただ、中東欧諸国にしても、アメリカのトランプ支持勢力にしても、トランプ退場で消えてなくなるものでもないでしょう。

 

****経済格差とエリートへの不満でポピュリズムは残る****

今回の米国の大統領選挙は、再びポピュリズムに焦点を当てることとなったが、米国のポピュリズムはトランプ以前からあり、トランプ後も何らかの形のポピュリズムが続くと思われる。

 

ポピュリズムの原動力は経済的不平等とエリートへの怒りである。

 

経済的不平等については、米国で過去40年間経済は顕著に発展したが、その間実質賃金は上がっておらず、特に教育程度の高くない者の実質収入は減ったという。

 

米国経済はグローバル化とデジタル技術、オートメーション技術に支えられて発展したが、教育程度の高くない者はこの経済発展に参加できず、その恩恵を受けることができなかった。

 

このようにして経済発展に取り残された形のグループが社会、政治体制に幻滅を感じ、ポピュリズムを支持するようになったと考えられる。

 

それはエリート、つまりエスタブリッシュメントに対する怒りと裏腹である。取り残された人々は、エスタブリッシュメントは経済発展に参画しその恩恵を受けたのに自分たちは疎外されたと感じ、エスタブリッシュメントに対する怒りが生じたのである。

 

このような経済的不平等とエリートに対する怒りは、トランプが去っても消えるものではなく、米国のポピュリズムはトランプ後も続くと考えられる。

 

バイデンは大統領選挙の勝利演説で国民の和解を呼び掛けた。トランプは対立や分裂を煽るような発言を繰り返していたが、バイデンが大統領になればそのような発言はなくなるだろう。

 

しかし、上記のような経済的不平等とエリートに対する怒りが続く限り、和解は困難である。バイデンが真に米国民の和解を図ろうとするのであれば、対立の原因である経済的不平等の軽減に取り組まなければならない。しかし、経済的不平等は構造的な性格のものであり、その軽減は容易でないだろう。

 

ポピュリズムは米国だけの現象ではない。欧州では以前よりポピュリズムの動きが見られたが、2011年の国家レベルの債務危機をきっかけにポピュリズムへの支持が急拡大した。

 

現在ではイタリアでポピュリスト党の「五つ星運動」が連立政権を組んでおり、ハンガリーではポピュリストのオルバンが首相を務めているほか、フランスではマリーヌ・ル・ペンがポピュリスト党の「国民連合」(前「国民戦線」)の党首を務めている。欧州以外ではブラジル、インド、フィリピン、ポーランド、トルコでポピュリズムが活発である。

 

このようにポピュリズムは世界的現象であり、今後とも先進地域、開発地域を問わず、国民の不満のはけ口、それにつけ込む政治家の動きとして広まりを見せると思われる。【11月25日 WEDGE Infinity】

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中東欧諸国が怒り・不満を向けるエリート・エスタブリッシュメントが西欧諸国、それに主導されるEUです。

 

だったらEUを抜ければいいのに・・・とも思うのですが、そのEUから補助金などで最も大きな便益を得ているのがほかならぬ中東欧諸国です。

 

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