孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

新型コロナワクチン 実用化を急ぐ米中ロ 「あまりに慎重で、リスクを負おうとしない日本」

2020-09-16 22:50:33 | 疾病・保健衛生

(【9月11日 Answers News】)

 

【ワクチン開発競争と安全性論議】

現時点の新型コロナ感染状況等については、以下のとおり。

 

****新型コロナ 世界の感染者2957万人 死者93万人(16日午後3時)****

アメリカ、ジョンズ・ホプキンス大学のまとめによりますと、新型コロナウイルスの感染が確認された人は、日本時間の16日午後3時の時点で、世界全体で2957万6191人となりました。また、亡くなった人は93万5124人にのぼっています。

 

感染者の多い国

感染者が最も多いのはアメリカで660万6293人です。

次いで▽インドが502万359人 ▽ブラジルが438万2263人 ▽ロシアが106万9873人 ▽ペルーが73万8020人となっています。

 

死者の多い国

亡くなった人が最も多いのもアメリカで19万5937人です。

次いで ▽ブラジルが13万3119人 ▽インドが8万2066人 ▽メキシコが7万1678人 ▽イギリスが4万1753人となっています。

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こうしたなか、ワクチン開発が先を争う形で各国・各企業で進められていますが、安全性の観点から“前のめりの姿勢”、政治利用を懸念する声もあることは周知のところ。

 

日本も1億2千万回分の供給を受けることで基本合意している英製薬大手アストラゼネカの治験中断の際も、そうした安全性論議が話題になりました。

 

****コロナワクチンの治験中断、日本に影響?危うい開発競争****

(中略)

感染対策と経済活動の両立をめざす政府にとって、国民の安心につながるワクチンへの期待は大きい。官邸幹部は「ワクチンができれば新型コロナインフルエンザと同じ扱いの感染症になる」とみてきた。東京五輪パラリンピックを開催するためにも、ワクチンが必要との声は根強い。(中略)

 

ワクチン開発は通常10~15年かかり、過去最短とされるおたふくかぜでも実用化には4年かかっている。ワクチンは健康な人にも接種するため、薬以上に安全性を慎重に見極める必要がある。

 

3相の治験までこぎ着けても、安全性や効果が証明できず、断念するケースは珍しくない。米国研究製薬工業協会のリチャード・モーシスキー最高医務責任者は「失敗率は高い。成功する可能性はわずか5~10%。ゴールに向かって、数多くのシュートを打つ必要がある」と指摘する。(中略)

 

医薬基盤・健康・栄養研究所の保富康宏・霊長類医科学研究センター長は「(最終段階は)接種する人が大幅に増えるので、副反応が見つかる可能性は高まる。接種した人が感染してはじめて出てくる副反応もあり、それは3相でしか見つからない」と指摘する。(中略)

 

治験中断について、アストラゼネカは声明で「治験での標準的行動」と位置づけ、安全性を優先すると強調した。中断が明らかになる数時間前には、同社を含む欧米の製薬・バイオ企業9社が「バイオファーマのリーダーは団結して科学を支持する」と異例の声明を発表。「接種を受けた人の安全と健康が最優先だ」と、拙速な承認申請はしないと宣言した。

 

製薬会社の声明の背景には、各国政府がワクチン開発で前のめりになり、安全性や効果がないがしろにされているとの懸念を打ち消す意図が見える。

 

新型コロナによる感染者数・死者数が世界最悪の米国では、トランプ大統領は11月の大統領選を控え、ワクチンの早期実用化に期待をかける。選挙広告では「ワクチン競争のゴールラインは近づいている」と主張し、トランプ氏も「大統領選前に接種可能になる」と繰り返し示唆。米食品医薬品局(FDA)にはツイッターで「ワクチンや治療法を試すのを難しくしている」と圧力もかけた。

 

新型コロナの対策で不手際が続いた英国政府にとっても、ワクチン開発は「起死回生」のチャンス。これまで、アストラゼネカのワクチン開発に6550万ポンド(約90億円)を投資し、英医薬品・医療製品規制庁は、通常2カ月ほどかける治験開始の審査をわずか7営業日で許可した。

 

ロシアのプーチン大統領は8月、最終治験も始まらないうちに、ワクチンの「世界初承認」を発表。ワクチンは世界初の人工衛星にちなみ「スプートニクV」と名付けられ、国威発揚の意図がにじむ。ただ、初期の治験データは当初非公表で、米国立保健研究所(NIH)のコリンズ所長は「世界の全ての専門家が懸念の目で見ている。『(危険な賭けである)ロシアンルーレットだ』という人もいる」と批判した。

 

習近平(シーチンピン)国家主席が3月、「一日も早い臨床試験と実用化を勝ち取れ」と指示した中国では国有製薬会社「中国医薬集団」(シノファーム)が北京と湖北省武漢の2カ所にワクチン生産の拠点を建設し、失敗すれば廃棄覚悟で7月末までに400万回分を生産。劉敬楨理事長は8月、中国メディアの取材に「12月末には商品化の見通しだ」と胸を張り、今月4日から北京で始まった展示会でワクチンを初披露した。(後略)【9月9日 朝日】

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【最終段階に入った米中の状況】

安全性の議論はありますが、これだけ国民の生命・安全にかかわるものとして、また、経済を再生していくうえでも不可欠なものとして早期実用化が国民からも求められている状況で、記事後半にもあるように、特にロシア、中国、アメリカは実用化に向けてすでに最終段階に入っています。

 

****一般市民のコロナワクチン接種、11月にも準備完了予定 中国****

中国が開発する新型コロナウイルスワクチンの一般市民への投与は、早ければ11月にも準備が整うことが、関係者の話で分かった。各社がワクチン臨床試験の最終段階に入っており、開発競争は世界で過熱している。

 

ワクチン開発を進める中国のシノバック・バイオテックと中国医薬集団総公司(シノファーム)の担当者らは共に、第3相臨床試験の終了後、年末にも自社ワクチンが承認される予定だとAFPに話していた。

 

そして14日夜、中国疾病対策予防センターのバイオセーフティー首席専門家は国営中国中央テレビ局の取材に対し、「11月か12月ごろ」には一般市民のワクチン接種が可能になる予定だと述べた。

 

この専門家は「第3相臨床試験の結果を踏まえると、現在の進展状況は非常に順調」だと述べ、自身も4月にワクチンを接種したがこれまでのところ体調は良好だと話した。

 

中国で開発中のワクチン候補のうち一部は、緊急措置として社会の機能維持に必要不可欠な仕事に従事する人にすでに投与されている。 【9月16日 AFP】

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“必要不可欠な仕事に従事する人にすでに投与されている”ということについては、数十万人規模に及んでいるようで、ある意味、第3相臨床試験がこの過程で実施されているとも言えます。

 

****コロナワクチン“既に数十万人に”中国大手****

中国の製薬大手「シノファーム」の担当者は、開発中の新型コロナウイルスのワクチンについて、すでに数十万人に接種したことを明らかにした上で、これまでのところ副反応などは報告されていないと強調しました。

これはワクチンを開発しているシノファーム傘下の「中国生物」の担当者が、中国メディアの取材に答えたものです。シノファームは現在、最終段階の臨床試験と並行して、医療関係者らを対象にした「緊急投与」も行っていますが、担当者によると、合わせて、すでに数十万人に投与が行われたということです。

また、これまでのところワクチンを接種した人が新たに感染した例や、明らかな副反応は報告されていないということです。

シノファームでは年内に開発を終えて販売を始めたいとしていて、要望があれば「日本にも提供したい」と話しています。【9月11日 NEWS24】

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今現在は世界中でも最も新型コロナウイルスを封じ込めているともいえる中国が、そこまで“前のめり”になっているのは、やはり“世界に先駆けて”という国威発揚、初期対応について国内外にある批判を払拭したい思い、世界各国への“ワクチン外交”展開の思惑・・・もあってのことでしょう。

 

それを“政治利用”と言えばそうでしょうが、“走りながら考える”中国流の対応と言えばそうとも。

 

なお「世界で第3相臨床試験段階にある9種のワクチン候補のうち5種を中国が占めている。」(中国政府の感染症対策の専門家、武桂珍氏)【9月16日 レコードチャイナ】とも。

 

中国国内ネットの反応としては、接種費用に関するもののほか、“「さすが『中国のスピード』」「すごいぞわが国」”【同上】といった声も。このあたりが習近平政権が期待する反応でしょう。

 

アメリカ・トランプ大統領は、もっと露骨に“大統領選挙に間に合わせて、自身の再選戦略に役立てたい”という思いを隠そうとしていません。このあたりは、いかにも“トランプ流”です。

 

****トランプ氏「ワクチン、4週間以内に準備できる可能性」****

ドナルド・トランプ米大統領は15日、新型コロナウイルスのワクチンが4週間以内に準備できるかもしれないと発言した。

 

ペンシルベニア州で行われた有権者との質疑応答で、トランプ氏は「ワクチンを入手できるまでもうすぐだ」「数週間で手に入る。3週間か、4週間かもしれない」と発言。この様子は米ABCで放送された。

 

また、この数時間前にトランプ氏はFOXニュースの番組に出演し、ワクチンが準備できるまでに「4週間か、8週間かかるかもしれない」と述べていた。

 

野党・民主党は、トランプ氏が11月の大統領選で民主党候補のジョー・バイデン前副大統領よりも優位に立つため、ワクチンを急いで承認するよう政府の医薬品規制当局や科学者らに政治的な圧力をかけていると懸念を示している。

 

米国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長など専門家は、ワクチンが承認されるのは年末になるとの見解を示している。 【9月16日 AFP】

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「3週間か、4週間かもしれない」と「4週間か、8週間かかるかもしれない」・・・・適当な発言ですが、要するに大統領選挙に間に合わせたいということでしょう。

 

一応、トランプ大統領はFOXニュースに対し15日、「政治的な理由でやっているわけではない。私は早くワクチンが欲しい」と語ったとのこと。【9月15日 ロイター】

 

なお、世界に先駆けて承認されたロシアのワクチンについては“ロシア製ワクチン試験データの正確性に疑問、科学者らが異議”【9月15日 ロイター】という報道も。実態はよくわかりません。

 

【開発レースを断念したようにも見える日本の開発状況】

上記のように、国をあげてワクチン開発に取り組んでいる中国からすれば、自国開発がほとんど進んでいない日本の状況はむしろ「どうして?」と言うか、開発レースを断念したように映るようです。

 

WHOが9月9日時点でまとめたところによれば、日本国内では、大阪大とアンジェスが共同開発するDNAワクチン「AG0301-COVID19」が、6月30日からP1/2試験を行っていますが、その他の日本企業のワクチン開発は前臨床段階で、世界のワクチン開発レースでは最後尾の位置にあります。

 

****ワクチン開発、日本はなぜ白旗を挙げたのか―中国紙****

2020年9月16日、環球時報は、医学研究分野の先進国である日本が新型コロナウイルスのワクチン開発に「白旗」を掲げた理由について論じた評論記事を掲載した。

記事は「一部の国がワクチン開発で1分1秒を争う中、医学の基礎研究や技術開発分野で世界トップクラスの日本の姿は見えない」とし、現在日本国内で新型コロナワクチンの研究開発に携わっているグループが五つに満たず、第1相の臨床試験に入ったワクチン候補が1種類あるのみであると伝えた。

そして、日本が新型コロナワクチンの開発で大きく出遅れた理由について「日本国内のコロナ発生時期は比較的早かったものの、政府が専門家を含む医療資源をほぼ全て感染抑止に投じたことで、ワクチン開発を含むその他の事柄を顧みる余地がなかった」と分析。

 

「日本にもワクチン開発を希望する中小企業はあったものの、国から政策面での大きな助成が得られず、病原に関する情報を収集することもできなかったほか、データの扱いに対して慎重な日本人の性格により他国からの『信頼できないデータ』の購入に踏み切れず、結果としてウイルス開発の絶好機を逃す形になった」と論じている。

また、日本政府が新型コロナ期間に各種の補助金支給に力を注いだことでウイルス開発にお金が回らなくなったことについて、「実際、コロナ期のみならず、日本政府による著名大学や研究機関への研究経費予算は年々減少していた」と指摘した。

さらに、「あまりに慎重で、リスクを負おうとしない日本社会の性格」もワクチン開発の足を引っ張ったとし、「万一ワクチンで事故が起きれば責任問題が生じると多くの人が考えている。意思決定者の強い後押しがなければワクチン開発はおのずと出遅れ、大きく出遅れればもはや放棄せざるを得ない」と論じている。【9月16日 レコードチャイナ】

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日本政府の対応の問題、「あまりに慎重で、リスクを負おうとしない日本社会の性格」という近年の日本社会全般に共通する基本的問題が指摘されています。

 

もちろん中国の“走りながら考える”やり方に安全性の疑問を感じる向きも多いでしょうし、実際今日も日本だったら一企業ではなく国家的な大問題になる事故も報じられています。

 

****ブルセラ菌、3000人超感染=ワクチン工場から漏えい―中国****

中国内陸部の甘粛省蘭州市で昨年7〜8月、動物用のブルセラ症ワクチン工場から菌が漏えいし、周辺住民ら3000人以上が感染したことが分かった。中国誌・財新週刊が16日までに伝えた。使用期限切れの消毒剤を使用し、滅菌が不十分な排気が工場周辺に流出した。

 

地元の衛生当局は昨年12月、「風向きなどから大量の感染者は発生しない」という分析結果を発表。その後に実施した住民への検査結果を公表してこなかったが、同誌の報道を受けて、検査した2万人余りのうち3245人が感染したことを認めた。

 

工場のずさんな管理に加え、地方政府の隠蔽(いんぺい)体質が浮き彫りになった。

 

ブルセラ症は、牛や豚など家畜に多い感染症だが、人にも感染。発熱や関節痛などの症状が出て、未治療時の致死率は5%程度だという。【9月16日 時事】

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どこに力点を置いて評価するか・・・ということにもなりますが、個人的には新型コロナワクチンに限らず、「あまりに慎重で、リスクを負おうとしない日本社会の性格」を非常に懸念しています。

 

やれ、三密だ、マスクだ、ソーシャルディスタンスだといった話も結構ですが、これだけ国民的必要性が高いワクチン開発に十分に対応しきれていない日本の現状は、どこか問題があると認識すべきでしょう。

 

「中国は安全性に留意していないから・・・」といいた過去の栄光にすがったような根拠なき上から目線ではなく、ワクチン開発レースで先陣を切る中国のアグレッシブな姿勢、それを裏付ける技術力は正当に評価すべきものでしょう。

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