【社説②】:スマート農業 地域特性への配慮必要
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:スマート農業 地域特性への配慮必要
気象や農地の情報をデータ化し、無人トラクターやドローンなどを駆使するスマート農業の実用化に向けた動きが加速している。
政府が、2025年にほとんどの農業者が「データを活用した農業を実践する」ことを目標にした実証事業に取り組んでいることが、背景にある。道内では空知や十勝地方など11カ所が対象だ。
狙いは深刻な担い手不足を補うことのほか、高齢化が進む中で「熟練農業者のノウハウ」を電子データとして蓄積し、引き継いでいく目的もある。
ただ課題は多い。初期費用の負担が重いうえ、大規模農地や中山間地などで、それぞれ必要な技術が異なることだ。
国は規模や栽培品目に応じた導入モデルをつくり、併せて助成など支援策も示してほしい。
今年の農林水産省の調査では、基幹となる道内農業者数は5年前から17%減少した。1経営体当たりの面積は30ヘクタールと全国平均の10倍に上る。大規模集約が進む中、スマート化のメリットは大きい。
農水省の実証事業では、稲作の中間報告で大規模、中山間地などごとに従来と効果を比較した。
無人トラクター、農薬散布ドローン、リモコン式草刈り機などを導入した結果、大規模水田では労働時間が13%削減できた。このうち農薬散布作業は89%の短縮となった。
中山間地も12%減だが、草刈り作業では斜面でエンジンが停止して逆に作業時間は増加した。
人件費は4~13%減る一方で、設備投資がかさみ、すべての事例で利益が減少したという。
農水省はさらに検証し、収支見通しが立つ経営モデルを作成する方針だ。初期投資を抑えるため、共同利用への支援も検討する。導入を促すには具体策が必要だ。
技術革新は日々進んでいる。NTTグループは岩見沢市での実証実験で、電波状態が悪い中山間地でも、無人トラクターへの通信が途切れないよう人工知能(AI)が制御することに成功した。
こうした知見も取り入れ、道や自治体もJAと連携し基地局整備などを後押ししてほしい。
一方で、機器の種類が増え、現場に戸惑いがあるのも事実だ。技術に詳しい人しか使いこなせないようでは、普及は望めない。
高齢者やアルバイトでも簡単に操作ができる仕組みが望ましい。
メーカーなどに相談し情報提供を受ける場も欠かせない。地域が技術を共有する態勢が重要だ。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2020年12月01日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。