《社説①》:韓国の「群衆雪崩」 防ぐ手だてなかったのか
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①》:韓国の「群衆雪崩」 防ぐ手だてなかったのか
大勢が集まり、押し合うほど混雑する。誰もが一度は経験したことがあるだろう。
それが度を越した場合に何が起こるか。韓国で、想像を超えた惨劇が現実のものとなった。
ソウルの繁華街・梨泰院(イテウォン)の路地で29日夜、ハロウィーンを前に集まっていた若者らが折り重なるように倒れ、150人以上が亡くなった。多くが圧死とみられる。
狭い場所に密集した人々が何かの拍子で倒れ込み、転倒者が雪崩のように広がる「群衆雪崩」が発生したとの見方が有力だ。
なぜこれほど大きな被害になったのか。防ぐ手だてはなかったのか。現地では、当局の警備に欠陥があったとの指摘が出ている。
同じような事故は日本でも起こり得る。東京・渋谷を中心に、ハロウィーンで多数の若者が繁華街に詰めかけて仮装などを楽しむ文化は近年、広く定着した。
群衆雪崩は2001年、兵庫県明石市の花火大会の際に発生した事例が思い出される。会場と最寄り駅を結ぶ歩道橋が密集状態となり、11人が死亡した。1956年にさかのぼると、新潟県弥彦村の神社で餅まきに人々が殺到し124人が死亡した例もある。
韓国で起きた事故を、対岸の火事で済ませてはならない。日本でもいつ起きてもおかしくないと受け止め、繰り返さないための対策を見直していく必要がある。
現場は、幅3メートル長さ40メートルほどの狭い坂道だった。片側は大型ホテルの壁で、もう片方はクラブやバーが並ぶ。路地に入ってしまうと逃げ場はないに等しかった。
新型コロナ対策の規制が解除され、初めて迎えたハロウィーン前の週末だ。その夜は特に多くの若者が訪れていた。一帯には十数万人が集まっていたとの推計もある。日本人は10代と20代の女性2人の死亡が確認された。
群衆雪崩は、1平方メートルに10人以上が詰め込まれた状態で起きやすい。1人がしゃがむなどわずかな動きをきっかけに、隙間に人が倒れて広がる。いったん始まれば転倒の連鎖を止めるのは困難だ。
有効な対策は、密集しないよう人の流れを調整する警備や現地の環境整備だろう。道の中央に歩行者の進行方向を分ける線を引くだけでも被害軽減に寄与したのではないか、との声もある。
今回のように主催者不在で起きる市街地の混雑の場合、警察と自治体の対応が鍵を握る。人出を見積もり、現地の状況に合った計画を立てる。地道な取り組みの積み重ねが重要になる。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 ニュースセレクト 社説・解説・コラム 【社説】 2022年11月01日 09:31:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。