私がクラシック音楽を聴き始めた最初のレコードがジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団の「運命/未完成」でしたし、その後もジョージ・セルは一番好きな指揮者の一人でずっと聴き続けていましたから、セル/クリーヴランド管弦楽団の演奏した録音は、もちろん全部聴いているなどと言うことは絶対に言えはしませんが、比較的良く聴いていると思っていました。
最近ネットを色々見て回っている内に、あるサイトのこんなページにたどり着きました。
ジョージ・セルの愛好家の人たちが投票し合って、まあ勝手に決めた(笑)ベスト10、ですから、それほど気にするほどの物でも無い(?)のですが、へえ~、なんて思いつつ眺めている内に・・・。あっ、これそう言えば聴いていなかった、と。
第3位にランキングされている1969年に録音されたブルックナーの交響曲第8番。そして、これはセルのコロムビアへの最後の公式録音だったのです。
セルのブルックナーは交響曲第3番は随分昔から聴いていて、同曲の色々な演奏の中でも好きな物の1枚です。第8番も、こちらはデーターをダウンロードした物があるのですが、たしかアムステルダム・コンセルトヘボウとのモノラル録音盤(たしかLiveだったと思います。)でした。
ジョージ・セルが好きで、しかも私にとって一番好き作曲家であるブルックナーの代表作の正式録音盤を聴いていなかった。・・・なんだか悔しいような気がしました(笑)
(言い訳をすると、私がブルックナーを聴き始めたのは宇野功芳氏の影響でしたし、またそれからかなり長い間ブルックナーに関しては宇野氏の影響を受け続けていたと思います。そして、その宇野功芳氏はジョージ・セルが大嫌いだったのです(笑))
と言うわけで今日はそのジョージ・セル/クリーヴランド管弦楽団のブルックナー交響曲第8番を聴きました。(2、3日前にBOOK OFFに行くと、なんともタイミング良く、このCDが置いてあったのです。ほらっ、これだろ、と店の商品棚がこちらにウインクしているようでした(笑))
演奏は大満足。
ブルックナーの作品の中では私にとって一番取っつきが良くなかったこの大曲が隅々まで納得のいく演奏。この録音を最初に聴いていれば・・・。そんな気が強くしました。
このCDを聴きながら思ったのは、昨日聴いたブーレーズのマーラーとかなり共通点の多い演奏なのではないか、と言う事です。徹底的に鍛えあげられたアンサンブル、磨き上げられた響きで実に明晰な音楽が奏でられていく。しかし、決して無味乾燥な所など一点もなくすべてが音楽的としか言えない程抽象化され心に染みこんでくるのです。ピアニシモは美しく、クレッシェンドからフォルティシモに達しても決してうるさくならない。ダイナミックレンジが狭いわけではありません。強烈なクレッシェンド、凄まじいフォルティシモに圧倒されながらも、すべてが音楽的な美しさ、佇まいを失うことがないのです。ブーレーズとセルがお互い認め合っていたというのが実に納得できる演奏でした。
美音に包まれたカラヤンのブルックナーにも一種独特の魅力を感じましたが、このセルの録音はそれともまたひと味ふた味違った魅力に満ちた演奏でした。クナッパーツブッシュやシューリヒトとは全然違いますし朝比奈ともヴァントともチェリビダッケともマタチッチとも共通点はあまりないかも知れません。しかしそう言った私が大事にしている名演・名盤の中に絶対に入れておかなければならない録音がまた一つ増えてしまったようです。
■ジョージ・セルがクリーヴランド管弦楽団と成し遂げた「究極のオーケストラ演奏」としてあげるべき名演奏。セルの厳しい造形力とオーケストラの精緻なコントロール力によって、作品の音符の一つ一つに至るまで吟味され尽くされながらも、その表現はあくまでもしなやかで、ゆるぎない緊張感の中に素晴らしい生命力を内包しています。特に対位法的な書法での完璧なバランスは、まさにこのコンビの独壇場ともいうべき見事さで、遅めのテンポの中で緻密に響きが積み重ねられ、ブルックナーの音楽の持つ巨大な相貌が姿を現す様は圧巻の一言に尽きるといえましょう。アナログ完成期ならではの充実したサウンドです。
■セルがクリーヴランド管と演奏会で取り上げたブルックナーは第3、7、8、9の4曲のみ。当盤の2曲はそれぞれその最後の機会に演奏会と並行してセッションが持たれ、第3番は2日間、第8番は何と4日間をかけて収録されました。第8番は文字通りコロンビアへの最後の録音で、セル唯一の録音。第3番は他オケとのライヴ盤も残されているセルの愛奏曲の一つ。
ブルックナー
1.交響曲第3番ニ短調[1889年第3稿(ノーヴァク版)]
2.交響曲第8番ハ短調[1890年第2稿(ノーヴァク版)]
クリーヴランド管弦楽団
指揮:ジョージ・セル