真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「発情カップル 《秘》盗撮現場」(1994/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:瀬々敬久/企画:中田新太郎/撮影:清水正二/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:田尻裕司/監督助手:徳永恵実子/撮影助手:清水一博/照明助手:広瀬寛巳/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:林由美香・井上あんり・橋本杏子・梶原恭子・扇まや・本間優作・平賀勘一・山本竜二)。さて、例によつての共倒れjmdbに引き摺られたのか、といふか“引き摺られる”の意味が判らないけれど、何れにせよnfaj共々、照明の伊和手健を井和手健に。百歩譲つて個人の手作業であるjmdbはまだしも、所蔵フィルムからの翻刻を謳ふ以上、nfajにはちやんとして欲しい。使ふなといふ訳では断じてないが、公費も使つてゐるんだぞ。
 青基調のキネコ、木々の間を巡る盗撮画像に中新からクレジット。女の背中に寄つて、スタッフ先行のクレジットが俳優部に。カメラの仕込まれたアタッシュケースを抜くところで、画面はフィルム撮影に復帰。それらしき青色にてつきり暗視でもしてゐるのかと思ひきや、思ひきり昼間で軽く拍子も抜かれる。林由美香と平賀勘一の青姦をカメラに収めてゐた山本竜二が、物音をたて二人に気づかれる。慌ててすたこら退散する様に「俺は富樫ジュン、歴史に残る名探偵と自負してゐる」と大風呂敷を広げてのける割に、中身は特にないモノローグ起動。頭に載せた中折れが外れた、山本竜二のストップモーションにタイトル・イン。公称を真に受けると封切り当時三十七歳になる平賀勘一の老け芝居が、俄かには覚えのない強度でサマになつてゐる。
 すかいらーくの看板から、ピントを手前に送つた先には井上あんり。適当なロケーションを用立てる一手間も端折つた、ビュービュー無造作に吹く風が女優部の髪を乱すのがあんまりな、そこら辺の屋上。実業家・高岡コータロー(平賀)の浮気調査を後妻(井上)から請け負つた富樫(山本)は、林中の情事をパーマネントな関係ではなく、高岡が宿なしのプータローに同情でもした、行きずりのものだらうと高を括る。富樫が恐らく兼住居の事務所でカップ焼きそばを啜つてゐると、女優部の二役アテレコではないゆゑ、もしかすると徳永恵実子が読むTVニュースがアイドル・カワイ美里(林)の失踪事件を伝へる。伝へた流れで当の美里が、逃げる際に落として行つた、名刺の住所を頼りに富樫を訪ねる。高岡と致してゐた女といふのは兎も角、富樫がその女がカワイ美里である点は器用に等閑視したまゝ、美里は「雇つて呉んない?」と助手として探偵事務所に転がり込む。
 岡持ちにCCDカメラを忍ばせ、出前持ちに扮した美里の初仕事。配役残り、井上あんりは美里が尾行するカップルの女の方。そして扇まやが男の方、といふ訳では無論なく、タチの方・ユキコ。問題がユキコが高岡の娘で、性質の悪い女に騙されてゐるぽい娘の調査を、アバンのターゲットであつた高岡が富樫に依頼してゐる相関が混濁する衝撃には、この映画序盤から爆散するのかと一旦頭を抱へかけた、ものの。高岡が後妻も富樫を雇つてゐたのを知つてゐる旨と、美里に対してはいゝ人に拾はれたとする台詞とで、辛うじて行方不明になりかけた軌道を修正する。置手紙を後妻に残し、高岡が姿を消す。富樫は高岡から届いた手紙の消印を唯一の手懸りに、高岡の生まれ故郷に。橋本杏子がそこで高岡と歩いてゐた、“モロッコのマタハリ”とか素頓狂な異名を誇るケンモチマリコ、と高岡の初恋相手・お春の二役。急な雨に降られた高岡少年とお春が、雨宿りがてら軽く手を握る程度の回想。幾ら何でも高校生なんだから、平勘に髭くらゐ剃らせろ。そして木に竹を接ぐ藪蛇キャストかに思はせて、実は案外さうでもない本間優作は、高岡とマリコを尾ける富樫と美里を、更に尾けるカシマミノル、美里ファンクラブ会員番号3445番。
 残弾数を数へるのがまだ面倒臭い程度には、ex.DMMの中に未見作が残つてゐる深町章の1994年第三作。高岡が自ら選んだ最期と、戯れに気紛れに、富樫の前を通り過ぎて行つた美里。一抹のほろ苦さも効かせたかつたか、効かせたつもりなのかも知れない物語本体は山竜にエッジと、深町章にソリッドを求むべくもなく、殊更ゼーゼー騒ぐほど面白くも別にない。後妻が大概へべれけな流れで富樫に身を任せる、梶原恭子の絡みを除けば一途に堅守する盗撮画像から、頃合を見計ひフィルムに帰還するタイミングの絶妙な濡れ場の数々が、時代の流れも酌まざるを得ないのか橋本杏子が三番手に座る無闇に豪華な五本柱にも当然彩られ、終始高いテンションを保ち続ける裸映画的な充実が寧ろ際立つ。側面から特筆すべきなのが、一昨日から現れて、明後日に蹴飛ばされて行くかに一見映るカシマミノル。最初の電話登場時にはその間に美里を寝落ちさせ、蒸発した人気アイドルが、しがない私立探偵の事務所に居座る。飛躍しかない無理気味の一幕を、どさくさ紛れに固定。津田スタ庭に於いては当て身で富樫を昏倒、上手いことその場の離脱を促す。如何にも余計な枝葉然としてゐながら、カシマミノルが何気に都合二度展開の肝要を担ふ、地味に強靭な論理性は出色。同じくカシマミノルが呼び水となる、鮮烈なハシキョンキックも素晴らしいが何より驚かされたのが、ノー弾着をものともせず、平賀勘一の名演技と切れ味鋭いカット割りのみで、見事形にしてのけたピンクでまさかのヘッドショット。無茶を承知で粗い理想論か雑な絵空事をいふと、要はこの脚本、瀬々が自分で撮つて富樫役がたとへば佐野―和宏―であつたなら、恐ろしくカッコいゝ映画になつてゐたのではあるまいか。


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