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The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『徴兵制』大江志乃夫 その2  ――徴兵制の歴史をたどる

 3 外征軍としての徴兵軍隊

 日本軍は国民軍の皮をかぶった外征軍隊だった。

 日露戦争の動員数100万人のうち8割以上が召集兵だった。

 日露戦争により、安上がりな徴兵を前提とした兵力消耗戦が出現した。なお、日清戦争では死者1万5千人のうち1万2千人がコレラマラリア、凍傷による病死である。

 

 所詮は「赤紙一枚」で調達された生命として、取り扱われたのであった。

 

 日本の植民地支配の特性:

 日本政府は、本国人のみから徴集された徴兵軍隊を支配のための軍事力として運用した。また、植民地を経済のためでなく、軍事基地として利用した。

 シベリア出兵は大義のない戦争であり、日本陸軍は4年間の損耗と浪費によって世界の趨勢から取り残され、第1次大戦で他国が経験した軍の変革を得ることができなかった。

 

 徴兵忌避、暴力が支配する営内での自殺、脱柵は絶えなかった。また沖縄県人(独自の師団を持てなかった)、被差別民は営内でも差別された。

 「徴兵除け(よけ)信仰」は、戦時には「弾丸避け信仰」となった。千人針や武運長久の祈願が国民の間に定着した。各地の権現、山神が徴兵よけの神仏として祈願の対象とされた。

 

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 4 十五年戦争下の兵役

 1927年兵役法改正:

 期間の短縮、在日外国人・満蒙開拓団らの免除等。

 青年団……徴兵検査にそなえての壮丁予備教育の場。

 在郷軍人会……軍隊教育経験者が最良の国民であり、地域社会の指導的地位にたつべきであるという目標。

 在郷軍人会は、兵隊たちの地域社会における悪評を打破するために設立された。

 

……軍隊教育の目的は戦闘技術の教育にあり、本質的に非生産的であった。非生産的労働は労働意欲だけでなく、生活意欲をも減退させた。軍人勅諭をもじって「1つ、軍人は要領をもって本分とすべし」という言葉が兵士の間で公然と唱えられた。軍隊は惰民の養成所と化し、地域社会から「兵隊上がり」とよばれて嫌われた。

 

 1943年、在学生に対する徴集延期制が廃止され、学徒出陣が始まった(理工学系、医科、農科、教員養成課程をのぞく)。

 

 BC級戦犯について:

 天皇の軍隊は天皇の命令によって動くが、天皇の命令は無謬であるため、結果責任はすべて行為者の責任である。それが至誠尽忠の精神である。よって、現場の行為者がBC級戦犯とされ大量に処刑された。

 

 日中戦争以来、日本には具体的な戦争目的がなく、政治目的を失った戦争国家となった。目的のない戦争は軍紀の崩壊につながった。

 

・ナポレオン時代の現地調達方式の失敗……明治以来、兵站を理解せず、人口稠密地帯でのみ通用する食糧調達方式を南方や中国でやろうとし、大量餓死や戦争犯罪を招いた。

 

義勇兵役法

 

義勇兵役はあくまで義勇であるから、金銭を超越した奉仕活動であるというのが、この……規定の理由とされた。しかし、一方では忌避に対して刑事罰を課するという強制兵役法の性格が歴然と示されていた。強制兵役をボランティアのようによそおって全国民の義務として課したことに、日本の軍隊の徴兵制をめぐる論理矛盾が明白に露呈されている。

 

 日本の軍隊は国民的軍隊ではなかった。人格を奪われた道具として集められた徴兵軍隊は、命令によって犯罪行為を行うこともでき、また解体したのも一瞬だった。

 

もし、兵士たちが、家族を、郷土を、国土を防衛するために主体的に武器をとっているという意識を持っていたならば、たとえ誰の命令であろうと、そう簡単に武器を捨てたであろうか。

 

 

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 5 現代軍隊と徴兵制

 軍の編成はその軍の目的と不可分である。徴兵軍隊は外征軍を成立させるための要素だった。

 著者によれば、太平洋戦争は国家目的のない戦争だった。軍事目的が政治目的よりも先にあったあため、開戦を決定した後その名目を閣議決定しなければならなかった。

 明確な政治目標がなく、ただ単に軍事力を強化すればいい、というのは、マジノ線を建設した挙句短期間でドイツに敗北したフランスと同じ轍を踏むことになる。

 

 現在の自衛隊は、本土防衛を目的としたものではない。人員構成は幹部・下士官過多であり、大規模動員により戦時態勢を整える意図がある。

 一方、敵の侵略・侵攻がおきた場合に必然的に発生する非正規戦・ゲリラ戦の準備はまったくされていない。

 

 徴兵制の政策的意義:

 

いずれにせよ、良心の自由を基本的人権のひとつとしてかかげる国家で、良心的兵役忌避をまったく認めないということは許されないし、しかも良心を審査すること自体にも憲法上の疑義があるので、たんなる兵役忌避者が良心的兵役忌避者を名乗ることを完全に防止することは不可能である。

 

・高学歴者は増大したが、軍隊の業務の大部分は初等教育以上を必要としないものである。

・直接戦闘人員の比重の低下

・1970年代オランダ軍の問題……「徴集兵の大部分は、軍隊生活を「ムダな時間つぶし」と考えている」。

 

現代の徴兵制とは、国家の強制力によって、軍務の名のもとに雑多な雑役に使役される強制労働従事者を安上がりに徴集する制度にほかならない。

 

 民主主義と軍隊との関係:

 しばしば将校団はファシズム、右翼的傾向と結びつきやすい。

 

コーリーによれば、職業軍隊にせよ徴兵軍隊にせよ、軍隊の政治的態度を決定するのは将校団であり……。

 

 著者の結論は、民主主義にとっては職業軍隊も徴兵軍隊も有害になり得るということである。また、自衛隊の方針についても以下のように主張する。

 

・単に量的拡大するだけの防衛力増強という考え方を見直すべきである。

・徴兵制がもたらく政治的・軍事的効果を再検討すること。

・軍備の形態は軍備の目的に規定される。不適切で有効性を欠く形態でないか検討すべきである。

・軍隊と民主主義は対立するものである。