神社の魔除けの狛犬の一対が、1匹は「あ」と言う形で口を開け、もう1匹は「うん」と口をつぐむ、その親密さを表す形からきた言葉だと言います。
向田邦子の『あ-うん』は戦前から戦中にかけての東京の街を舞台にした昭和の家族の物語です。
戦中派の向田邦子の親に対する口に出せない愛情がそこかしこに見えます。
昔ながらの日本人の夫婦や友人、仕事仲間の間を称して、言いましたが、明確な言葉が要求される今日、使われる事が少なくなりました。
向田邦子の『あ-うん』は戦前から戦中にかけての東京の街を舞台にした昭和の家族の物語です。
男性的魅力に満ちた金持ちの門倉、実直が取り柄のサラリーマンの水田、対照的な二人の男は一人の女を同時に愛しています。
その女とは水田の妻、一見平凡で慎ましい女性です。
ただ、よくあるラブストーリーではなく、それぞれの思いはあれど、大切な想いは絶対に口外しない、日本人独特の美学を懐かしく思い起こす、心和むホームドラマと言っていい、と思います。
戦中派の向田邦子の親に対する口に出せない愛情がそこかしこに見えます。
戦後昭和の庶民生活を懐かしく見せるのが「寅さん」だとすれば、戦前サラリーマンの日常生活を細やかにリアルに描いたのが、向田邦子のドラマでありましょう。
もはや失くしてしまった、路地を歩くと夕餉の匂いがする家々のオレンジ色の灯りを思い出します。
「一番大切な事を大人は口にしない」
若い娘がもどかしく感じる、人間関係の微妙さを描いて、相当リアリティがあります。
どんなに努力しても思うようにならない人生、それを納得した上での行き場の無い恋。
そして、一歩お互いの心の中に入り込むと、脆くも壊れてしまう人間関係のバランスのとりかた。
それをさらりと描く向田邦子は本当にお話の名手だと思います。