春の日の色と幻と。

 

 

本日もケンズ鉄道にご乗車いただき

ありがとうございます。

 

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このところ、春の匂いのする穏やかな

日が増えてきた。

凍土のように硬かった庭の土も、指で

押すと柔らかく凹み、日向ではわずか

ながら温かさも感じられる。

一面薄茶色の芝も、近くに寄ってよー

く観察してみると、枯れた葉の奥の方

にところどころ緑色のまだ小さな新芽が

見つかった。

色に乏しい冬の景色の中で見る新鮮

な緑は、ことさら目にまぶしく映るようだ。

そしてその色味の感動を誰かに伝えた

くもなるものだ。

軒下にあるいつもの長椅子にすわって

じっとしていると、頭がぼんやりとしたまま

うつろに考えだす。

色かー・・・。 色ねー・・・。

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北米鉄道の車両たちはそのカラフルな

塗装デザインでも目を楽しませてくれる。

サンタフェ(ウォーボネット)の赤、ユニオン

パシフィックの黄、B&Oの青、サザンの

緑など、聞けばすぐにその色味まで頭に

浮かぶ。 

では、もしその色を色名を使わずに人に

伝えるとすると、さてどう説明すればよい

ものか。

カラー写真を見せられないのであれば、

おそらくは、何か他のものの色に喩えて

説明することになるのだろう。

夕焼けの赤であったり、紅葉の黄色、

晴天の青、木々の葉の緑といった具合

だ。

では、物の色に喩えずに色は言葉で説

明できるのか。

うーん、かなり難しい・・・というかできな

い気がする。

まあいい、そんなことをする必要性は全く

ないのだから、今のところは。

 

青色の血をもつことで有名なかのガミラ

ス星人だが、ガミラス星人の目には実は

赤く見えているのかもしれない。

色というものはそもそも、ある波長の電

磁波(光)を人間や動物の網膜を通

して脳が感じる認識だ。

450ナノメートルの波長の電磁波なら

人間の網膜と脳は青色を認識し、

700ナノメートルの波長なら赤色と認

識する。

だから、成り立ちの異なる種類の網膜

(映像捕捉体)や頭脳をもった異星人

がもし存在したなら、同じ波長の光を

見ても人間が感じる色とは違う色と認

識する可能性もある。

例えば、前述のガミラス星人のように、

人間には青く見えているものが、彼らの

脳の中では人間のいう赤に感じられて

いるという可能性だ。

こういった場合、人間がユニオンパシフィッ

クのディーゼルや客車を見て感動した綺

麗な黄色を、ガミラス星人にはどのように

説明すればわかってもらえるのか。

イチョウの葉や卵の黄身など人間が感じ

る黄色いものを想像させて説明するわけ

にはいかない。

なぜならその黄色は彼らには違う色に見

えているわけだから。

人間には黄色以外に見えているある色

が、ガミラス星人には黄色に見えている

可能性はあるが、それが人間の何色に

あたるのかを知るすべは多分ない。

これは、物の色に喩えずに色自体を説

明しなければならない厄介な状況だ。

はてさて、そんなことができるものなのか。

若干ピンクがかったサンタフェの赤を、そん

な異星人に興奮しながら楽しそうに説

明する機会が、遠い将来、地球のどこか

で、いや地球外で北米鉄道模型ファン

に訪れるかもしれないというのに・・・。

 

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色は脳がつくる実体のない幻影か・・・。

考えてみれば音や香り、味もそうだ・・・。

そのものを説明できない幻なのか・・・。

  

・・・などと、春の心地よいそよ風に誘わ

れた頭は、うつろいながらとめどもなく

勝手に無駄に思索をつむいでゆく。

ん? 青空のどこからかヘリコプターの

音が大きくなり小さくなりを繰り返しな

がら漂ってくる。

その音の出所を探すでもなく視線を

薄らぎはじめた青空に向けると、少し

傾いた柔らかい日差しの中に、優しく

鷹揚に微笑みながら話にうなづいて

くれる異星人の顔が見えたような気が

した。

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