認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

発達障害ともの忘れ(24)

前回は、発達障害の気質は「弱さ」であると同時に「強さ」にもなり得るものであり、発達障害の気質を強く持つ人ほど、自分の興味があることに特化して没頭したり、エネルギッシュに取り組んでいける傾向があり、それで脳を深くまで耕すことができたりするので、その点においては発達障害の気質が有利に働くこともあるというお話をしました。

今回はその続きになります。

 

発達障害の気質を強く持つ人ほど認知症になりやすいため「予防」が大事

今までも何度かお話ししてきたように、当院を受診される認知症患者さんの多くが、もともと発達障害的な気質を色濃く持っています。

その気質が何らかのストレスによって急激に前景化したり、加齢とともに徐々に強まってきたりすることによって、認知症様の症状を呈するようになったり、あるいは本当の認知症に移行してしまったという患者さんが非常に多くいらっしゃいます。

そうするとやはり、発達障害の気質が強い人ほど認知症を発症しやすいのではないかと考えざるを得ません。

そしてこれは、発達障害の気質が強い人ほど脳の器質的な特性として「脳神経細胞の脆弱(ぜいじゃく)性」を有していたり、「前頭葉が未発達」であったりすることが大きく関与しているからではないかと考えられるのです。

「脳神経細胞脆弱性」があると、日常的に心身が受けるさまざまなストレスによって脳細胞がダメージを受けて変性しやすくなりますし、そもそも「前頭葉が未発達」なことで生じる前頭葉症状の多くは認知症の症状と共通しているからです。

ただ発達障害の気質を強く持つ人ほど、「脳神経細胞脆弱性」があったり、「前頭葉が未発達」であるという「弱さ」を有している一方、自分の興味があることに特化して没頭したり、エネルギッシュに取り組んだりして脳を深くまで耕すことができるといった「強さ」も確かに有しています。

この「強さ」を活かすことができれば、人一倍深くまで脳を耕していくことができるようになり、特定の脳領域の脳細胞を増やしたり、脳神経の枝をたくさん出させることになって、脳神経ネットワークをますます発達させていくことができます。

そうすると、結果的に特定の領域における脳のパフォーマンスが非常に高まり、得意な分野において社会に大きく貢献するような仕事をなすことも十分可能になるのです。

そしてこのことは「多くの偉人や成功者たちはどうも発達障害の気質を強く持ち合わせていたようだ」という事実によってすでに証明されているのではないか、ということは前回お話しした通りです。

しかしそうはいっても、やはり「発達障害の気質を強く持つ人ほど認知症になりやすい傾向がある」ことは、これまで長年当院の認知症外来で培ってきた経験に則っていえば「まぎれもない事実」だと言えます。

そうすると、やはり発達障害の気質を強く持つ人ほど、しっかり「認知症の予防」に取り組んでいった方が良いだろうと思うのです。

 

認知症疾患は「発病」してから「ある一定以上」に脳細胞が減少して初めて「発症」する

認知症」は、脳出血脳梗塞、薬剤性、ビタミン欠乏症、腫瘍、その他内科疾患によるものを除けば、数年から数十年前に「発病」してゆっくり進行し、それでようやく「発症」に至る神経変性疾患が原因になっていることがほとんどです。

例えば、認知症疾患の中で一番多く、全体の6割以上を占めると言われる「アルツハイマー認知症」は、進行とともに側頭葉内側面にある記憶中枢の海馬が委縮したり、後部帯状回、楔前部、頭頂葉の機能が低下していくことを特徴とする病気ですが、実は「発症」する20年前から始まっていることがあるとも言われています。

つまり、「アルツハイマー認知症」は少なくとも「発症」する数年前には「発病」しているということです。

そして「発病」してから何年もかけて徐々に側頭葉や頭頂葉などにある脳細胞が変性して脱落していくのですが、この脱落する脳細胞の量が「ある一定以上に」なると認知症の症状が出現し、「発症」に至ると考えられています。

この時、脳の形態的には、脳細胞が脱落していくにつれ、脳細胞は脳の表層に集まっているため、脳の表層からだんだん委縮していくことになります。

そもそも脳は必要な脳細胞を確保するために表層を折り畳んだような構造になって表面積を増やし、それで外見上脳には脳溝というシワができているのですが、病気の進行によって脳の表層が委縮していけば、当然ながらそれに伴って脳溝が拡がり、シワが開いていくのです。

そのため、ある程度進行したアルツハイマー認知症の人の脳は(もちろん他の認知症疾患でも進行してくれば同様に)、表層の萎縮によって脳溝が大きく拡がった形態になっています。

さらにアルツハイマー認知症では、側頭葉内側面にある海馬の萎縮も伴うため、海馬の周りに健常者にはない隙間ができてくることも特徴的な所見になります。

どちらかというと海馬の萎縮が先行し、その後病気の進行に伴って徐々に、脳の表層の萎縮も進行していく傾向があるようです。

そのため脳溝が大きく拡がっているような場合には、病気が大分進行していることになります。

ただ、繰り返しになりますが、形態的にどんなに脳の萎縮があって脳溝が拡がっていたとしても、それがすなわち認知症の「発症」を意味しているわけではありません。

そのような場合には、確かに病理学的には病気を「発病」しており、しかもある程度進行しているのかもしれませんが、ただそれでも臨床的に病気を「発症」しているとは言いきれないのです。

あくまでも、「ある一定以上に」脳細胞が減少したことによって、実際に何らかの症状が出現して初めて病気が「発症」した判断され、診断されるからです。

そしてこの「ある一定以上に」というのが、実は「認知症の予防」について考えるうえで、とても大事な点になると考えています。

なぜなら、「ある一定」という「程度」には「個人差」があり、その人の「生活習慣」によっても大きく左右されるということが分かってきたからです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

【これまでの「認知症診療あれこれ見聞録」記事一覧】

 

にほんブログ村 介護ブログ 認知症へ
にほんブログ村

↑↑ 応援クリックお願いいたします

f:id:kotobukireha:20190702092414j:plain