2023年01月18日

ちょっと間が空きすぎたので軽く肩慣らしをする

「オラァァァァァ千紗都!!!」
「うわビックリした。…あのね菜由ち、イキナリ大声はよくないよお。この電話が誰か別の人だったらー」
「登録されてる番号に架けてんだから間違うわけないっしょ。それより!アレはどゆこと!?」
「んーアレ、と申されましてもどれのことやら」
「 ふぅぅぅぅぅん。言わなきゃわかんない…?」
「…えーえーわかりましてよ見当付いてございますよ。藤田みのり選手の移籍の件、よね?」
「話が早くて何より。で、今朝出てたあの報道はどゆことよっ、移籍は白紙、って!」
「いやいや、イングランドプレミア方面は小百合の担当でー」
「その小百合に聞いたら、あの件は門倉さんがパイプ持ってるからお任せしてますって言われたよ」
「さすが菜由ち、外堀キッチリ埋めてるねー(笑)」
「褒めてるつもりかいっ。ワケを聞かせなさい、ワケをっ」
「それがね…」

(回想シーンに入る)


 

TMリーグでのシーズンオフ、そして女子イングランドプレミアはリーグ戦真っ只中のとある週末。

そのホテルのレストランで彼らは会食をしていた。


とはいえ、主たる目的は会食ではなく移籍交渉である。
女子イングランドプレミアでも有数のクラブであるところのアーセナル、その監督とコーチ。
さらのその監督が獲得を目指した日本人選手とその代理人の計四人がその会食の出席者だ。

まず監督が口を開く。


「軽く自己紹介と行こうか。私はヨハネ•フライク、まあ誰もが知ってるんで今更ではあるけど」

その自己顕示に満ちたフレーズに座は軽く凍りついたのだが、頓着する彼女ではない(笑)

「ほら、あんたも」

フライクは傍に座っているコーチの背中をどやしつけ、絶対零度の視線を浴びた。

「…ご紹介に預かりましたライズ•ハイマー。一応コーチやってますが早く出て行きたいと思ってます」
「コイツ冗談が下手でさー!!」

フライクはさらに大笑いしてライズの背を叩き、ジロリと睨まれる。


「監督、もうお酒が廻ったので?」
「はあー?まあだ誰も何にも手ェ付けてないじゃん」
「皮肉です」

明るく大笑いするフライクと殺しかねない目付きのライズという二人を当分に眺め、呆気に取られながら対面する日本人の代理人が口を開く。

「じゃ、ま。こっちも自己紹介と行っとこうかね。あたしは代理人の門倉千紗都。フライク姐さんとはソコソコ長い知り合いで、ライズも選手時代は代理人やってた」

後半の方は隣でやや緊張気味に座っている選手へ向けたものだったろうか。要は、その選手を除く3人にはそれぞれ面識があったのだ。
どこか幼く見えるのは童顔と小柄な体格の故だったろうか。
だが、この少女は一度ピッチに立てばその印象をあっさりと覆し、身を張り声を上げ仲間を叱咤して、チームを引っ張りチームに尽くしてきた歴戦の兵(つわもの)だ。

それでもピッチを出れば未だ人生経験にも乏しい18の「小娘」であると自覚していたから、ここぞと勇を奮い声を出す。



「ふ、藤田みのり、ですっ」


彼女はその場に立ち上がるとそう言った。

steve600 at 23:07│Comments(0) 秋穂 | SSSユースの人たち

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