一、
あした浜辺をさまよへは
昔のことぞ しのばるる。
風の音よ(※1)、雲のさまよ、
よする波も、かひの色も。
二、
ゆふべ浜辺をもとほれば
昔の人ぞ 忍ばるる。
寄する波よ、かへす波よ
月の色も、星のかげも。
三、
はやちたちまち波を吹き、
赤裳のすそぞ ぬれもせじ(※2)
やみし我は すべて いえて
浜辺の真砂 まなご いまは。
※1「風の音よ」……林古渓の原詩では「風よ音よ」
※2「ぬれもせじ」……林古渓の原詩では「ぬれもひぢし」
確かに、1番と2番は対比の歌詞になっているが、3番は…?
それによくよく考えたら、
「風で服が乾いた?」ら「私はすっかり病気が治った?」
なんじゃこりゃ?
意味がわかんない…
今まで考えたこともなかった。
結月は返答に困った。
真亜紗はなぜか勝ち誇ったような顔をしている。
どうしよう…
もう祥希の顔を見ることもできない。
ちょうどその時、チャイムが鳴った。
「ごめんなさい!次の授業までに調べておきますね」
結月はできるだけ余裕のある笑顔を作ってみせた。せめてもの反撃だ。
真亜紗は少し悔しそうな顔をしたが、そのまま授業は終わった。
その日の反省会。
結月はショックを隠しきれない。
美緒と達哉が慰めてくれる。
「あれは仕方ないよ。まさかあんな質問が来るなんて思わなかったし」
「そうだよ。僕だって絶対答えられない。無理だよ、あんなの…」
「ありがと…」
結月は向かいに座っている祥希を見ることができなかった。
「三池先生」
意外にも祥希の声は優しかった。
「遠藤先生も塩沢先生も聞いてください。
今日の高木さんの質問ですが、かなりマニアックな質問です。あの3番の歌詞は成田為三が作詞したそのままではない可能性があります。」
祥希は歌詞の不自然さについて解説した。そして
「今日のようにわからないことがあった場合、三池先生のように、次回までに調べてきます、でいいんですよ。常に堂々とした態度で接してください。」
更に祥希は
「三池先生、少し時間をいただけますか?」
「はい…」
また、居残り…
祥希と2人だけになってしまう。
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