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要注意特許を見つけたら

noteで知財ノウハウを書いてある記事が増えてきたので、いつもやっている内容で役立てそうなのを何か提供しようと思います。

今日は新人さんが入社式に行ってるので、初歩的な実施に問題しそうな特許を見つけた、引いてしまった時の訴訟回避方法です。

事情があって痛い特許を引いた時の対応案をまとめたのですが、整理のため載せておきます。

順序立てて行う訳では無いですが、この「1ゴネル⇒2潰す⇒3逃げる⇒4止める⇒5貰う」の順序で上層部の承認を得ていきます。

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1【ごねる】交渉に強くなる


非侵害理由を説明したり、

非侵害の鑑定を取っておく。(3倍賠償対策)

そもそもほとんどの特許なら一義でなく不明確等な記載が有るものなので相手方に交渉し訂正審判を求める。
(この場合は通常下の潰すとセットで交渉過程でダメダメな特許を買いに来たという訳の分からない交渉を進めることになります。)

ものによってはサプライヤ様に実施状況について確認する。

知財の基本いろはのいです。


2【潰す】無効資料を使って潰す。

特許自体が無効なら問題になりません。

そこで無効資料を探しておき、社内承認を貰って先方にも出せる状態で保持しておきます。クレームチャートを作って準備しておきます。

または実際に異議申し立てや無効審判を提起します。

更にまたは相手方からライセンスを貰いに行く振りをしながら無効と説明されたこともありましたね。
喧嘩をわざわざ売りに来てました。


3【逃げる】開発と共に回避案を検討する


無効資料を探すのと同じタイミングでは遅く、少なくとも事業に影響をかけないよう技術者にプランBを依頼しておきます。

別の設変案が思いつかなかったり、無ければ、辛い状況になるのでこのタイミング最悪変更頂く状況である旨を理解してもらいます。

やることとしては対象特許の不備を突くような回避案に設計変更する。

その回避案が妥当であるのか弁護士の鑑定を取っておくのも重要です。

技術者とコミュニケーションを密に取りつつスケジュールを見定めるのも重要です。




4【止める】開発中止判断


その事業をやめる、開発中止する。

いくら特許の内容がショボくても、特許の請求の範囲であるA案は取り止めます。逃げるで検討したそれ以外の回避できたB案が同等レベルで有るならばプランBにする。

設変があまりに機能を落としてしまったり、買うまでする必要が無いような技術の場合には泣いてもらいます。

力及ばすでやけ酒しました。



5【貰う、買う】ライセンス契約


ライセンスを貰いに行くため社内承認を得ます。

クロス特許が無いか自社の特許の相手方実施技術の属否を確認し、良い交渉材料が有れば打ちに行くような雰囲気で行って落としどころでバーター取引にすることも多いです。

また、本当に小さな企業だと、会社ごと買うか!と言われたこともあります。

(その時は買いませんでしたが、、)



この内容の出典
「ゴネル⇒潰す⇒逃げる⇒止める⇒買う」

弁理士試験で勉強した論文の書き方で習いました。

10年以上前なのでうろ覚えですが正林メソッドだったのでしょうか?



今でも上から出来るかどうか検討してますね。

ただ、市場にモノが出るタイミングは予め決まっていることも多く
単純には行かず、並行して作業する、そもそも時間がないことも多いです。

「だから早めに特許調査をしましょう」と言ったでしょうというのは特許あるあるです。


仮想事例 実際の案件から個別事情を抜き去り一般的な話にしています。

特許調査をしたところ問題となりそうな要注意特許が見つかった。

現在開発中の内容に似ているため検討が必要で、ある程度特許の検討が進んだ段階です。

上司への説明会にての会話です。

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1、 ごねる

知財担当(以下、担)「〇〇開発の要注意特許報告書を見て頂きたいのですが宜しいですか?」

管理職(以下、上司)「え、開発結構進んでるはずだけどどれくらいヤバいの?」

担:とりあえず概要から、特許の構成要件はA,B,C,からなり、課題はDです。・・・

など特許の概要を説明し、特許の内容を理解してもらいます。次にイ号となる自社実施製品との当てはめをエクセルの表で説明します。そのうえで【1ごねる】

「自社製品なんですが構成要件Cを持たないので非侵害です。これでまとめたいのですが良いですか?」

上司:「え、見た目だと自社のC’は構成要件Cにも見えるけど何故非侵害まで言えるの?」

担:「課題Dを達成するためのCにはC’だと△△が無いため含まれません。よって文言上該当するようにも見えますが、明細書を参酌するとまた、クレームに下線引かれた補正されたところなのでエストッペルがいきて非侵害です。」

上司:「ちょっと、弱いなぁ、無効資料とか無いの?」

実際には二件で潰す進歩性だとか、自明、実質同一などなどロジック考えなきゃ行けません。先行技術次第なのでリサーチの腕も重要です。

2、 潰す

担:「無効資料調査を行って上の図で示す△の公知例1を抽出していますから、対象特許は無効主張可能です。」とこれもエクセルの2列を無効資料となる公知例との当てはめを見せて説明します。

上司:「ん?無効可能ってことはどういうこと」

担:「構成要件Cについて、自社の実施内容CX"は含むはずなのですが、明確に構成要件Cと言えるか微妙で、、、」

上司:「って補正で入ったところだからそれだと厳しいなぁ、拡大無効調査しよ。とりあえず外注費まだあるはずだから、至急調査会社さんに依頼して」

3、 逃げる

担:「現在開発中のメンバーに回避案の検討を行ってもらっていて、具体期には構成要件Bが無いバージョンが出来ないか検討して貰っています。」

上司:「まあBが無いなら大丈夫だけど、性能的に行けるの?販売日時に間に合うようにプランBも検討しておいてね」

というのがだいたい初期段階での検討です。でも今回はどうやら旗色が悪そうなので、

特許事務所に簡易鑑定を取って貰います。結果はまさかのNG。

あわせてプランBで考えていてもらった回避案はコスト面で折り合いが付かず暗礁に乗り上げています。そこでさらに上司を交えての中間段階の検討です。

この場合4or5というのが選択肢になります。

4、 止める・中止

担:「弁護士先生の見解は非侵害主張は可能であるが、回避案があるならば推奨する。調査会社の結果や、拡大無効調査しても新規性違反や20年公知の明らかな無効理由は無しでした。打つ手なしです。」

上司:「うーーん、だとそのまま実施はリスクが高いけど、開発の管理職はどういっている?」

担:「どうしてもという機能では無いので機能ドロップも止む無しとの見解を頂きました」

上司:「じゃあ、向こうの役員に話をしに行きましょう。」

ということで開発は終了。メンバーからは特許担当のせいで開発が止まったと恨み言です。飲みに行かして貰うのはこんなときです。

5、 貰う・買う

担:「・・・打つ手なしです。ただ、重要開発なのでなんとしても実施したいそうです」

上司:「ライセンスを貰うとなると幾らぐらいだとはじいているの?」

担:「商品の原価の〇%の寄与率△%・・・年間〇台でるので先ほどの特殊事情込みで■円です。」

上司:「結構行くね。開発の管理職はそれを聞いても実施したいと言っているんだね」

担:「訴求技術でもあるので開発を継続したいそうです。あとこの特許の権利者は実施していないので出来れば権利を購入し周りに特許網を構築したいです。」

上司:「皮算用はおいておいて、役員の印鑑を貰って交渉に行きますか。」

無事、社内承認が下りると晴れて?交渉に行きます。今回の回避のネタとは別ですが交渉ターンも知財特有の話が色々ありますので、ビューやいいねが稼げれば書いてみます。

6、 交渉

担:「本日はお忙しい中、ライセンス交渉の場を設けて頂きありがとうございます。」

権利者乙「弊社の権利に興味を持っていただきありがとうございます。」

なごやかに行きますが、そこは金が関わるので、ライセンスを貰いに来たのに

・構成要件Cの限定が課題を参酌すると更に小さく特許には瑕疵がある【ごねる】

・公知資料1が有って無効である【潰す】

・構成要件Bは本来いらなかったので権利は迂回できるが時間が無いのでライセンス【逃げる】

・高ければ要らない。やってないならクレ【やめる・中止】

書いていると本当に買いに来たのか疑問になる言いぐさです。

もう一度載せます。再掲ですが良くベン図で説明するのですが特許あるあるかもしれません。

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その他



今だとこの後に、回避案を「取得する」が追加されるのでしょうか?

また、買った技術の周辺特許をガリガリ取ってから交渉に行き

ゆくゆくはバーターで無償にするなど頑張ってた記憶もあります。

こういうことがやりたい方は是非、特許業界の門を叩いてください。



USを想定して3倍賠償を言っていましたが、

今、中国では5倍賠償が改正法の俎上に上がっています。

故意侵害のダメージは大きくなってきているので、まじめな対応を心がけています。

前に類似の内容を一度書いたのですが、書いていたブログメディアが撤退し、本日から運営会社が変更になるそうでお引越しの一環です。

まあ色々追加しすぎて新しく書いた量の方が多いのですが。



いやいや、このやり方はまどろっこしい、等々有りましたらコメント欄にでも記載いただけると

勉強になりますのでよろしくお願いします。

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