どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「アメリカの夜」…トリュフォー全く知らなくてもすごく楽しめた

観る映画が偏ってる&敷居が高いイメージがあって全くみたことがなかったトリュフォー
アメリカの夜」はフランス映画苦手でもとっつきやすい作品だと聞いたことはあったのですが、先日鑑賞したルチオ・フルチ監督のドキュメンタリーにてフルチが言及していたこともあって今更ながら初鑑賞。

映画制作の舞台裏を描いた人間ドラマで「カメラを止めるな!」や「ザ・プレイヤー」の先駆といった体ですが、コメディーと言っていい口当たりでテンポもよくすごく楽しい作品でした。

映画制作といえば…監督が絶対的存在となり暴力的ともいえるエゴを振りかざし突き進む世界…そんな世界を想像してしまいますが、本作でトリュフォー本人が演じているフェラン監督はサラリーマンのような佇まい。

メンヘラな俳優陣に振り回されつつ宥めて鼓舞しては何とか演技してもらう、撮影終わりには良く働いてくれた裏方のスタッフにも感謝の一言を忘れない。

(あくまでトリュフォーがそういうタイプだったということなんでしょうが)ビックリするくらい気遣い屋、監督ってこんなに如才なさが求められるものなのか…と意外な人物像でした。

「希望に溢れて撮影をはじめるが無理難問が続出、やがて完成だけを願う」

頭の中に映像はあっても大人数を動かしながら限られた時間とお金でそれを実現する難しさ。

動物を使った撮影が難儀したり入念に準備してても思ったように行くもんじゃないのね…名作の裏話なんかでトラブルから思わぬ名シーンが生まれたなんてエピソードもききますが、それだけ一筋縄ではいかない世界なんだなーとバックヤードの四苦八苦に見入ってしまいます。

ベテラン女優セヴリーヌが台詞を覚えられず「テキトーに数字数えてるから後で音だけ吹き替えてくれ」と言うと「イタリアとは違うんだ」と返す監督(笑)。

その後NGのドツボにハマって泣き崩れていくのには何ともいたたまれず、年取るのってシンドイなー、身一つで立ってやってかなきゃならない役者さんは大変だなーって短いシーンに哀愁のドラマ感じました。

ハリウッドからやって来た主演女優ジュリー(ジャクリーン・ビセット)の透明感ある美しさにはうっとり。

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彼女もまた繊細な人間で同情心から共演者とベッドイン…ってどうなんだ!?と思ったけど映画作りには真摯で優しくて、トリュフォーの夢・理想なのかなと思いました。

「俳優は私生活も含め常に裁かれる存在」と会話していたアレキサンドルの恋人は男性。結婚の代わりに養子縁組を検討しているようで、同性愛であることが特段強調もされず空港で毎日恋人待ってる姿がロマンチックでした。

主演俳優・アルフォンスは恋愛依存&不安定すぎてドン引きでしたが、なんだかんだで演技やり始めたらちゃんとやる(笑)。

繊細で現実世界には馴染めないような人だからこそ凄い演技ができたりするのかも、俳優ってこんな奴らなんです!!監督の愛ある眼差しを終始見せつけられたようでした。

映画の中の映画という構造で「今見ているドラマもニセモノ」だと頭では理解させられつつも、まるでドキュメンタリーを覗き見しているような自然さが一貫して在るのが凄かったです。

観客がなんてことなく見る一場面に工夫が凝らされていると分かるハリボテのバルコニーなど見るとワクワクしてしまう。

フルチが先のドキュメンタリーでこの作品をあげたのも何となく分かる、B級でもどんな作品でも何とかして形にしようとした努力や誠実さは観る側に伝わるものがあったりするのかもと思いました。

モノづくりの最前線や映画制作の現場を経験した人ならのめり込む位共感できる作品なんでしょうが、でもそれがなくても期日までに限られた時間や予算でやる事やり終えなきゃいけないって割と多くの人が体験していることではないかと思います。

やってるときは四苦八苦な無我夢中の瞬間、やり終えたときの安堵感・達成感、共感しやすいドラマがあると思いました。

 

冒頭の撮影シーンは「ザ・プレイヤー」のオープニングとイメージが重なりました。

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あちらの作品は毒っ気に満ちてしましたが失われていくものへの寂寞感みたいなのは双方に漂っている気がしました。

「スタジオの時代は終わった。今後の映画にはスターも脚本もない。〝パメラ〟のような映画はもう出来ない。」

雨に唄えば」とか「サンセット大通り」とかクラシックなアメリカ映画をみても思うけど、昔の映画はスタジオに力があってその分の束縛もあっただろうけど制作陣全体がファミリーのような連帯感があったんだろうなあ、登場人物たちの不思議な絆にロマンを感じました。

走り出したらもう走り続けるしかない、人生いろんな人が出入りしては別れもある…まさに映画は人生!っていうとセンチメンタルですが、ラストは年を重ねていく中で体感的に感じるものが凝縮されているようでした。

セルフオマージュも多々含まれているらしく、知っていればより深く楽しめる要素がたくさんありそうですが、何も知らなくてもすごく楽しめる作品でした。