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カテゴリ:ライトノベル
小説 「scene clipper」 Episode 2
上妻(こうづま)の顔が見たくなった。 (なら、Roy に変更だな) シッティングブルなら桜上水だが、『Roy』なら上妻の棲家のある 下北沢だ。「scene clipper」 は上妻に優しい。 高2の時、のちに卒業出来なくなった3年のワルに高2の女子が拉致 された。上妻が好きだった女だ。 上妻は俺に助けを求めた。初めての事だった。 「滝田が素子を拉致した。返して欲しけりゃ野球部の部室に来いと」 「分かった、行くぜよ」(坂本龍馬のまねだ、こんな時に・・・) 結果は意外だった。俺と上妻がいざとなれば腹を括れる男と見抜いたのか、滝田は満更でもなさそうに右の口角を上げて見せた。 そしてこう言った。 「俺が卒業した後、この学校お前ら二人で守れるか?」 校内でも校外でも暴力の嵐が吹き荒れた時代だった。 「分かった、約束する」 「その約束破ったら承知しねえからな・・・良し連れて帰れ」 先輩、短気なだけじゃなかったんだねえ・・・。 あれから俺と上妻はどこへ行くのも一緒で、「あいつらホモ達?」 など陰口たたく奴もいたらしい 『Roy』の分厚い2重のドアが微妙な間を置いて開いては閉じを繰り返したあと、上妻が片手をあげて入って来た。 「バランタイン12年、ダブルで」とカウンターのオーナーに告げて 俺の前のイスを引いて腰を落としテーブルにひじをつけるところまで引き戻す。 「笹塚の人はどうだったんだ?」 「うん、今日初めて声をかけてみたんだが・・・」 「セリフを言ってみろ」 「いつもここに居るんだね、スマホとタバコが必需品らしい、と」 「で、だめだったと・・・」 「ああ、お察しの通りだ」 「clip のしがいがありそうじゃないか」 「ん、お前もそう思うか・・・」 「思うも何も、お前が諦めてないだろ」 上妻はそう言うと、丁度その時オーナーがぶっきら棒に置いてったグラスを手に取ってひとくち口に含むと、その味を確かめるように喉の奥へ転がした。 「安くて美味い、スコッチはこれで上等」 上妻は翻訳を正業にしている。1ページ1万円だそうだ。 それだけでも食べていけるのだが、奴にはコネクションが有って 父親が出版関係のお偉いさん、で奴が翻訳業に就いていて、母親は放送の業界にコネクションがあった。 そこで、俺がclipした映像を文章に起こし上妻に渡して奴のネームで出版し、そこそこ売れていて印税も入る。 仮に出版物として売れなくても、母親のコネで放送作家の目に留まるとテレビ・ラジオの番組制作に携わることもあるそうで、やはり俺じゃなく奴の作品としておいて正解だった。 ギャランティはその時々で決めるが揉めたりはしない。高校の時以来上手くいってるコンビなのだ。 応援頂けましたら励みになります。(^^♪ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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