絵本とむかしばなし

小学校で絵本の読み聞かせや昔話のストーリーテリングをしています。楽しいお話、心温まるお話をいろいろご紹介していこうと思います。

イチョウの大冒険

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世界でいちばん古い木のお話

とても神秘的で非凡なイチョウの木のお話です。

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読み聞かせ目安  高学年  15分

あらすじ

2億7000万年前。地球に生命が生まれたばかりのころ、イチョウの祖先も生まれました。

 

地球上の生物は、ゆっくり何千年もかけて、進化していきます。

2億3000万年前には、恐竜も現れましたが、隕石の落下、火山爆発、氷河期など、続く大異変で恐竜は絶滅。その他の多くの動植物も消えましたが、イチョウは残りました。

 

やがて人類が登場。

夏には柔らかい緑色。秋には金色に輝くイチョウ「ギンキョウ ビロバ」に、人々は夢中になります。

その実を食べたり、葉を煎じて飲んだり、薬を作ったり。

驚くほど長い寿命を持つイチョウの力を、中国や韓国、日本の人々は、古くから活用してきました。治療だけでなく、寺社を守ったり。その木陰では、たくさんの物語も生まれてきました。

 

1690年。日本にやってきたオランダ東インド会社の医師ケンペルは、そのころまだヨーロッパになかったイチョウに魅せられ、オランダに連れ帰ります。

差し木だけで増えるイチョウは、それから次々と、世界中に増えていきます。

オランダからイギリスへ、フランスへ。

今、フランスにあるイチョウのほとんどが、もとは遠い日本から、大海原を超えてきたイチョウの子孫です。

 

イチョウは丈夫で、公害にも強く、日本では、広島に落とされた原爆にも耐えました。

イチョウの木の力や寿命には、まだ多くの謎があります。

 

イチョウの盆栽は、自然の偉大さを教え、芸術家たちはいつの時代でも、デッサンや彫刻、文章などで、イチョウへの感謝を表します。

 

「銀杏踏みて静かに児の下山哉」(与謝蕪村)

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読んでみて・・・

「非凡な木」。

私たちの身近にあって、ごく平凡にみえるイチョウの木が、実はとっても非凡な木であるということを、はじめて知りました。

 

その誕生は、なんと2億7000万年前!

地球に生命が生まれ始めたばかりのころ、もうイチョウの祖先が生まれていたのです。まだ植物は少なくて、鳥も哺乳類もいない頃のお話です。

魚類が現れ、両生類が現れ、そして恐竜が現れては消えていったその時代も、ずっとイチョウは生き抜いてきました。

地球に隕石が落ちてきたり、火山の爆発や大陸の移動、氷河期など、さまざまな苛酷な状況も乗り越えて。

イチョウの中には、何千年も生きる木もあるのだそうです。

 

やがて人類が現れると、イチョウはその生活に寄り添い、見守り、人々は銀杏の実を食べたり、葉から薬を作ったり、鮮やかな葉の美しさを愛でたり、寺社などの守りとしたり、さまざまに活用していきます。

 

イチョウの木陰では、たくさんの物語も生まれ、葉の中に竜が隠れていたり、恋人たちの運命にイチョウが涙や血を流したり・・・。はたまた犬の命を救ったり・・・。

幾歳月を経て、物語が国境を越えて伝播するように、イチョウの木そのものも、世界中に広まっていき、それがもとは日本のイチョウの木だったと知ると、なんだか誇らしくなってしまいます。

 

この絵本は科学絵本で、客観的に淡々と、イチョウの特徴を教えてくれるのですが、単なる科学的事実の羅列ではなく、とても詩情が深く、客観的事実を述べていながらも、まるで物語を語っているかのような、豊かな印象を受けます。

絵も墨絵のようなタッチで、ちょっとオリエンタリズムを感じさせる趣。

イチョウのエキゾチックな美しさが、際立つものになっています。

 

この絵本の巻末には、”非凡な木”と題して、詳しい解説もついています。

1795年に植えられたというフランスのモンペリエイチョウや、樹齢3500年以上といわれる中国山東省のイチョウの写真もあって、ただただ驚くばかりです。

 

長い歴史の中、人々の移動や交易と共に、アジアからヨーロッパへ伝わったイチョウは、人々の生活に寄り添いながら、人類の歴史を見守ってきているよう。

進化論を唱えたダーウィンは、イチョウに敬意を表して、「生きた化石」と呼んでいたそうです。

恐竜が死に絶えても生き残り、あの原爆にも耐えたイチョウは、いつか我々人類が滅亡したとしても、ずっとこの地球に、生き続けるのではないでしょうか。

イチョウの木は、どこにでも当たり前にある平凡な木と思っていましたが、この絵本を読み終わると、イチョウの木に、何か神性のような、侵すべからざる尊さを感じてしまいました。寺社仏閣などで、御神木とされることが多いのも、何だか納得です。

 

まもなく、イチョウの葉が金色に輝く季節がやってきます。

近所の神社や公園で、街の中で、金色に輝くイチョウの葉を見上げたり、また金色の落ち葉の絨毯を歩くとき、イチョウの長い歴史と生命力と、そしてその神秘に思いを馳せ、しみじみと味わいたいなと思いました。心まで浄化されそうな期待も・・・。

 

とても美しくエレガントな科学の絵本です。

子どもも大人もぜひ一度、手に取っていただきたい素敵な1冊です。

 

 

今回ご紹介した絵本は『イチョウの大冒険』

アラン・セール作 ザウ絵 松島京子訳

2012.11.15  冨山房インターナショナル  でした。

イチョウの大冒険

アラン・セール/ザウ 冨山房インターナショナル 2012年11月
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