明けない夜はない =弁護士 内山 美穂子 のブログ=

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ツイッターのリツイートで損害賠償請求が認められた事例

2019-09-19 | その他(裁判制度・刑事事件ほか)

2019/9/12 大阪地裁で,ツイッターのリツイートが投稿に賛同する表現行為に当たるとして,名誉棄損に基づき,33万円の損害賠償の支払いが命じられました。2019/9/12毎日新聞記事 話題になっていたので,ご存知の方も多いでしょう。

ツイートによる名誉棄損を認めた裁判例はいくつもあります。今回は,リツイートでも名誉棄損になりますよ,という裁判例です。コメントなしのリツイートだったようなので,わずか2クリックで33万円です(+裁判沙汰)。
ツイッターのリツイートに限らず,ネット上の発信はトラブルになりやすいので,ご説明しておきます。

名誉棄損とは

そもそも,名誉棄損って何,ということを,簡単に説明します。
名誉棄損は,刑事責任(名誉棄損罪)と民事責任(損害賠償・謝罪広告など)があり,成立要件が若干違います。上記事件は民事責任ですから,以下は民事責任について。

民事責任での名誉棄損は,ざっくりと言えば,公然と事実摘示や意見論評の表明をして他人の社会的評価を下げる行為です。

「公然と」は緩やかに判断される傾向があり,ネットで発信すれば,まず「公然と」は認められます。
「事実」は虚偽とは限らず,真実も含まれます。本当のことだから何を書いても良い,というわけではありません。典型的なものは,前科の暴露です。
民事責任の場合,事実摘示に限らず,意見論評の表明も含まれます。事実には言及せず意見や論評するだけならOK,ではありません。
「他人の」は,個人とは限らず,法人も含まれます。企業だったらいくら悪口を書いてもいい,ということにはなりません。
「社会的評価の低下」は,一般の読者の普通の注意と読み方を基準に客観的に判断されます。

公共性・公益性があり,重要部分が真実であることを立証できれば(あるいは相当な理由から真実と誤信した場合には),正当な言論として,不法行為にはなりません。公務員が賄賂をとっている証拠があったので,実名を挙げて暴露した,といった場合ですね。

なお,名誉棄損の不法行為にはならなくても,プライバシー権侵害など,別の不法行為が認められた例もあるので,単純ではありません。

インターネット上の発信であれば甘くなるという誤解

ネットは誰でも気軽に書けるから,許されるのでは,と思いがちですが,間違いです。

刑事事件についてですが,最高裁の判例で,インターネットの個人利用者による表現行為の場合も,個人が他の表現手段を利用した場合と同様であって,より緩やかな要件で名誉棄損罪の成立を否定すべきものではないというものがあります。

気軽だから許されるわけではないので,気を付けて発信しないといけません。

匿名ならわからないだろう,という誤解

匿名など,ネット上は氏名・住所不明でも,発信者を調べ上げる方法があります。

大量に拡散しなければ許される,という誤解

通常のネット記事はツイッターほど拡散しないから関係ない,自分はフォロワーが少ないから関係ない,というわけではありません。

公然性は,上記のとおり,緩やかに判断される傾向があります。

また,報道によると,今回の判決は,フォロワーが18万人いたことに着目し,影響力があり社会的評価を低下させたと認めたようです。これは,元大阪府知事という大物の社会的評価はそれなりの影響力によらなければ下がらないと考えられる等の固有の事情によるものと思います。

ツイッターではフォロワーが少なくても何万ものリツイートになることがあります。また,一般人の社会的評価であれば,そこまでの影響力のない発信でも名誉棄損と認められやすくなります。

判決は妥当か

判決に至る訴訟中の主張立証がわからず,判決書すら公表されていませんから,何とも言えません。
なお,上訴するかは不明ですが、上訴しないとしても,判決を認める趣旨とは限りません(面倒なので上訴しない,がよくあります)。

対策

今回の判決は地裁の判断ですから,今後はどの裁判所でも同様の判断になる,という意味にはなりません。ただ,同様の判断が出る可能性は十分にあると思います。

したがって,リツイートする際には,元のツイートを自分が書いたと思ってリツイートすることです。リツイートに限らず,誰かの書き込みを転載する場合にも,元の記述を自分が書いたと思うことです。元の記述に賛同する趣旨でなければ,その旨のコメントを付けた方が良いでしょう。

「リツイートは賛同の趣旨とは限りません」などと,プロフィール欄などに断り書きを書くケースがあります。ですが,それで許されるとは限りません。普通の読者は,フォローする際にはプロフィール欄を読むかもしれませんが,そのまま忘れてしまい,リツイート自体から賛同の趣旨かどうか判断するでしょうから,仮に裁判になったら,裁判官がどう判断するかはわかりません。

断り書きをしていても,慎重にリツイート(or 転載)しましょう。

ネット上の発信は、スクリーンショットやプリントアウトですぐに証拠になりますから,言い逃れができません。
結局,書き込みやリツイート(転載)する前に,よく考えるべし,ということになります。

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