2021-11-07

Chopin2020 - 2 芸術の秋

ブリリアントなピアニストたち

前回2015年には19才でファイナリストとなった小林愛実さんはすっかり素敵なピアニストとなって登場した。演奏は壮大で力強くなったように感じた。

3次審査の前奏曲は渾身の演奏だった。情念が込められていて、かつ音は一つひとつ無駄なくミスなく丁寧に響いていた。進むにつれてうねりが大きくなり次第に24曲全体の壮観が描かれてゆくようで感動的だった。

ビデオ:2021年10月16日 3次 小林愛実

前奏曲24番の最後のD(レ)の打鍵- CとE(ドとミ)の2鍵をそっとおさえておいて拳で弾くというか叩くピアニストもいる。

小林さんは右手3本指で強く打鍵している。こちらはガラコンサート3日め最終日の映像からのショット。

 

 


3次審査で小林さんの次に登場したポーランドのクシュゾフスキー氏(Krzyżowski)も前奏曲を演奏した。24番の最後は右手でCとEをおさえDは左手で打鍵している。







ソーシャルメディアのお陰か現代においては皆個人レベルのパブリシティ術にたけていて誰もが似た様な考え方を表明し公の場で同じ様な行動をとる。

その中で小林さんの傍若無人さはアーチストらしく見えて何故か妙な好感をもった。握手をしてもらえなかった(笑)ワルシャワフィルのコンマス、ショパン研究所のシュクレネル所長、ポポヴァ・ズィドロン審査委員長は特に焦っている様子には見えなかった。

決して若い方々が真似すべき行動という訳ではなく社会においてマナーを心得ることは大事である。しかし量産された行動というか標準化したようなアプローチをとることが習慣になるとアーチストとしての自己啓発、内面に創造性を発見する自己成長のプロセスを体現しづらくなると思う。今時アーチスト特有の傍若無人さを見ることは少ない。

準備方法か何かを尋ねられて「楽譜を見る。楽譜に全てがある」との小林さんの答えが形式にこだわらず権威に頼らず作曲家と直接向き合うことを一番大切にしてきたことを示している。

前回は心ここにあらずという印象だった小林さんは6年間で大きな進歩を遂げたと思う。これからもアーチストとして進化を続けるだろう。

反田恭平さんの演奏は7月の予備予選で初めて聞いた。繊細さと大胆さを兼ね備えこれ程洗練された音を創れるアーチストが日本にいるとは知らなかった。今回の入賞でこれから益々の活躍が期待される。

演奏は1次からファイナルまで全てライブで見た。数年前から準備した選曲、自己プレゼンテーションなど様々な面からコンクールに注力してきたらしい。

3次でのソナタ~ラルゴ~ポロネーズの流れは「しりとり」とのご本人の言の通り曲の終わりの音と次の曲の初めの音が同じという妙味が込められていて感動を倍増させた。コンクール期間中ショパン研究所が発行している日刊誌「ショパン・クーリエ」の講評でもソナタとポロネーズを遺作ラルゴでつないだのはコンクールではあまりない「treasurable and inspired」なプログラミングだったと大好評だった。

会場に居るのと違い画面だと手元が見えて面白い。フィギュアスケートの画面観戦で足元が見れるのと同じである。

反田さんの手はとてもしなやかで弾力性が高そう。猫足ならぬ猫手!?でどんな難曲でも必死に弾いている感じがしない。それ程大きく腕を振ったり身体を動かさなくてもピアノからフォルテ音まで自由自在に出てくるように見えた。

「指の第一関節を曲げる訓練をした」そうである。指先に一番近い第一関節だけを曲げようとしても普通はできない。第二関節が一緒に曲がってしまう。第二と第三は独立して曲げられる。

優勝したブルース・リゥ氏もスゴイ手をもっているが手だけ見れば反田さんが最優秀賞!と思った。

独特の風貌も話題となった。人気名は- Ninja、Samurai、Sushi-chefなど。日本語で見かけたのも面白い- ドラえもん、聖徳太子。

オフィシャルチャンネルに入賞者の1曲ごとのビデオが続々と上がっているがステージに上がる前の舞台裏の様子も見れるように反田さんの各セッションごとの頭出しリンクを作った。

2021年10月4日 1次

2021年10月9日 2次 

2021年10月14日 3次

2021年10月18日 ファイナル

牛田智大さんは今回年齢が達して出場すると期待し昨年CDとYTでいくつか演奏を聞いてみた。フレージングが少し気になったが好みの問題と思った。

楽しみにしていた1次の演奏を聞いて- 旅の疲れか緊張感からか芳しくない。聴衆を楽しませる華やかさはある。1次は通してくれるかもしれないが強豪揃いの今回はファイナルの10人に残るのは難しいと感じた。それぞれの指の独立性が高いのか各音がカクカク、カチカチと分離して聞こえる気もした。3声や4声などは上手いのかもしれないと思ったりした。

2次は1次よりまとまっている印象だったがカクカク度が益々気になってしまった。タッチが粗い気もした。バルカローレもポロネーズも焦って弾いているように聞こえ、やはりファイナルは無理かと思っていたら2次落選となってしまった。

「ショパン・クーリエ」の講評には2次3次に残るようなピアニストは賛辞・批判に関わらず一度は名前が出てきている。牛田さんは1次も2次も一度も触れられなかった。

ショパンコンクールにこだわるなら2025年に再度挑戦すればよいし、こだわらなくてもキャリアは充分積んでいるようでこれからのアーチスト活動に影響はないと思うがどうだろうか。

ブルース・リゥ氏は手こそ反田さんに負ける(笑)が技術、パフォーマンス、完成度、熟練度は高い。解釈は反田、ガジエフ両氏の方が良いと感じた部分もあったがそれ以外は素晴らしかった。抜群の安定感で鮮やかな美音を響き渡らせていた。その上どのステージでも心から演奏を楽しんでいる様子で見ている側にもそれが伝わり高揚感があった。

充実の秋

11月に入り1次から3次までの審査スコアが公となった。

1次では87人、2次は44人、3次23人、ファイナル12人と10月の総演奏時間は100時間近くになるか。7月の128人による予備予選の65時間ほどと共に全てアーカイブで見ることができる。これからスコアを参考に見逃した演奏など少しづつ見てゆきたいと思っている。

バックステージの様子を捉えた動画や入賞者によるリサイタルも新たにリリースされている。これ程コンテンツが濃く多いイベントもない。コンクール終了後も当分の間十分に楽しめる。最高水準の文化に触れ満喫できて大満足の秋である。

ここまで徹底してイベントに力を注げるほど自国の英雄を誇りに思い称えることができるポーランドの国と人々は幸せと思う。

世界トップレベルの内容を世界中の一般市民に向けて無料開放してくれて本当に有難い限りである。放映権、ジオブロック、パス等と流通を複雑化せずYT、ウエッブサイト、アプリケーションのみでしかも無料提供するようなイベントは他にあまりないと思う。

今や五輪でさえ自国開催でなければ全編無料開放は稀ではないだろうか。仮にハリウッドあたりでこのレベルのコンテンツでエンタメをプロデュースできたとしても世界への無料開放はまずできないだろう。国の後援があるからと言えばそれまでだがショパンへの尊敬とショパン音楽の最高峰の研究が核として揺るがず決して打算や利潤追求に流されないゆえに可能なことと想像している 。

今回更に世界の注目を集めて喜ばしいが、どうかハリウッド化しないようにと願ってもいる。商業主義に乗らずショパン音楽を啓蒙する精神を純粋に貫き通せるようにと思う。 

先月GPSが始まり体操&新体操の世界選手権は既に終了。さすがに全部は見れずやむなく体操観戦を諦めた。

2記事連続でフィギュアスケート以外の話題となり読んでくださった皆様に感謝したい。次回はGPSについて綴りたいと思っている。

 

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ご訪問ありがとうございます。

皆さま安全に過ごされご健康であられますように。




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