パフィー (69)

2035年1月27日は、歴史上記念せられるべき日となった。地球上で知能が高い猫の一人(一匹ではない)と考えられていたパフィーさんが、ヒトの言語を、それも日本語を意味あるものとして発した初めての日となったからである。この一見、マイナーなニュースは地方の報道機関により、さしずめ午後のお茶に付く甘味のような意味合いで取り上げられると、瞬く間にネットに媒介され、

 

ー 猫族進化における輝かしい一日 ー

ー 人類新たな同僚を得る ー

 

などの見出しとともに世界中を席巻し、人々を興奮のるつぼに叩き込んだのである。事の次第は以下のようである。

 

  メインクーンツシマヤマネコのミックスであるパフィーさんは、動物行動学および進化学の専門家であるM女史に、誕生時から研究対象として、半ば娘の愛玩動物として、飼われていたものであった。M女史は、週末になると、娘と共に、普段は完全家猫であるパフィーを連れて、近所を散策するのが習慣となっていた。

  二人と一匹が進むコースの両脇には、何軒かの住宅があったが、その内の空き家の一軒に、最近新たな住人が入居し、その住人は中型犬を飼っていた。庭に繋がれた件の犬は、新天地の状況に興奮しているのか、一行が通ると、ありったけの興味或いは敵愾心を示して、吠え絡んでくるのであった。そのような時は、道の端を通り、やり過ごしたわけである。

  そして、次の散策の時である。例の家が近づいてくると、件の犬はいつにも増してやる気満々で、早くも興奮の波動が感じ取れるほどであった。その時である。娘の後ろに付き従っていたパフィーは立ち止まると、M女史そして娘の方に顔を上げると、一言、比較的、高いキーで音声を発したのである。

「イヤー」と、

M女史と娘が、振り返った後、再び前に進もうとすると、

もう一度「イーヤー」と言い、パフィーは止まっていた。はたと思い至ったM女史は、普段は通らない、すぐ手前の左に折れる道を進んでいくと、パフィーは娘とともに足早についてきたのである。

 

  この事件以来、研究の着想を得たM女史は、自宅兼研究室で長時間に渡る試験を行い、パフィーが幾つかの短い日本語を発語できること、発語のタイミングと周囲の状況に矛盾がないことを確信し、パフィーさんが、有意の日本語を発している可能性が高いというデータをまとめ上げ、学会で発表するに至った。この発表に興味を持った報道機関の記者が、M女史に取材を申し込み、事の経緯と共に、全世界に発信されるに至ったわけである。

  この事が決起となり、専門の研究者により、世界中で人語を発し解する猫の存在が報告され、日本にもパフィーさん以外にも同様の能力を持った猫が複数存在する事が明らかとなったのは驚くべきことであった。更に研究者たちを驚かせたのは、そのような猫たちは、人間との関わりにおいて、更に多くの言葉を学ぶ事に積極的であったという事である。

  近々日本において、そのような猫を集めた研究会が開かれ、複数の人と猫を交えたコミュニケーションが成り立ちうるのか、猫たちの言語能力を加速する方法が存在するのか等について、検討がなされるという。

一方、ふって湧いたようなこの動向に対し、当たり前のように異を唱える団体が出現し、

 

ー 猫に知性は必要ない ー

ー 言葉は人類だけのものだ ー

ー 猫に言葉を与えるな ー

 

等のシュプレヒコールをあげ・・・

 

以上は、将来、猫が人語を話すようになる事件を想像して、冒頭を小説風に書いてみたものである。もちろんすべて仮想であるが、猫が将来、人語を発する事があるとして、猫が最初に発するのは、切羽詰った状況における、否定の言葉であるというのは、それほど悪くはないと思っている。他記事(猫(2)、進化(47))も一緒にお読み頂ければと思う次第である。時間があれば、この後も書く予定であるが、何処か別の所で、お目にかける機会があればと思うわけである。

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