EDと火星 (59)

最近、気になったアニメのEDがある。少し前の作品であるが、一昨年放映された「CAROLE & TUESDAY」のEDである。

  火星に移住を果たした人類が築いた未来社会、その社会において、ミュージシャンを目指す2人の若き女性、その女性を取り囲む個性的な面々、それらの人々を巻き込んで物語は展開していく。歌い手の物語であるので、当然多くの曲が劇中で披露される。それら多くの曲はオーディションで選ばれた二人の実際のミュージシャンにより製作されており、EDに流れる「Hold Me Now」という曲も彼女らの作である。どこか、Daryl Hall & John Oatesの曲を感じさせるアップテンポで楽しい曲である。

  アニメーションも興味深い。二人の主人公が左右から対向して歩いてくる時、画像はモノトーンである。中央で二人が交差すると画像がカラーとなり、二人とも正面に向かって歩くようになる。これは、それぞれ別々の道を歩んで来た二人が、出会い、一緒に活動を始めることによって、新たなる価値(音楽)を生み出していく、本作の展開を示しているように思われ、先程の曲に実にフィットしているわけである。

  「CAROLE & TUESDAY」の舞台は、未来の火星である。米国の豊富な探査映像によれば、そこは大小の岩が転がる赤茶けた平原と丘陵であるが、劇中に描かれた首都アルバシティは、そのような荒地にできた未来都市の様であり、何処かラスベガスの雰囲気がある。

  しかし待てよと、火星の大気は希薄で、95%二酸化炭素であり、生身の人間は生存不能のはずだが、アルバシティは、閉鎖的なドームではなくオープンエアの都市として描かれており、登場人物も気密服などを着ていないわけである。ということは、同作品の世界は、大気がヒトの居住が可能なレベルまで改良された世界ということになる(ある意味、アニメではあたり前の設定であるが)。

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  以前、外国の民間団体が火星に移住する人員を募集していたことがある。報道では、結構の倍率であったようであるが、なかなか勇気のあるヒトたちであると感心したことを覚えている。火星に人類が降り立ち、そこに持続的な居住拠点を持ち、そのような複数の拠点からなるコロニーが都市に発展していくのは、夢物語ではないが、複数の技術的進歩を必要とすることは言うまでもないことである。

  アポロの月探査は当時の技術で片道3日程の行程であったが、火星への距離は単純に見積もってもその数百倍はある。当時のロケット技術であれば、到達するだけでも数年はかかることになる。近年のマーズ2020(USA)や日本も関係した火星探査ミッションでは、ロケット技術の進展もあり、7ヶ月弱で火星に到達している。しかし、燃料や食料等に割り当てるペイロードを減らし、放射線の影響を軽減するためにも、移動時間は短い程よいので、さらなる高速移動を可能とする推進システムの開発が必要である。一方、国際宇宙ステーション(ISS)において一年以上、健康に生活したヒトがいるので、数ヶ月ということであれば、無重力閉鎖空間における精神衛生上の問題はクリアされている可能性がある。

  アポロ計画では、月周回軌道に司令船が控えているため、緊急事態が生じたとしても、ミッションを中断し、上昇段を用いて司令船に避難し、その後数日で地球に帰還することができたわけであるが、火星への道行きはそう簡単ではない。行程を数ヶ月に短縮できたとしても、外部、内部要因による突発的事態に対応した、より安全な状況への退避行動が困難と考えられるからである。

  この行程はエベレストのような高所登山に似ているかもしれない。エベレスト登頂のためには、ベースキャンプから始まり、第2キャンプ、第3キャンプなどと人員と荷物の拠点を作り、最終的に登頂を目指すわけであるが、天候や人員の健康が悪化したり、不測の事態が生じた場合、1つ前のキャンプに戻り、体制を立て直すことも可能である。遥か遠くを行き、地球からの直接的干渉もほぼ不可能な火星行において、このキャンプのような、より噛み砕けば、避難小屋のような拠点がないとするならば、それは非常に危うい状況である。ではISSはどうかと考える人もいるかもしれない。ISSは宇宙空間にありながら、実質的には地球から直接バックアップ可能な位置、地球のお膝元であり、火星行より遥かに安全と考えることができるわけである

  以上のような状況からすると、有人ミッションのためには、あらかじめ、資材等を装備した、場合によっては与圧可能な空間を持った中継拠点を、航路上にできれば複数配置することが必要であるように思われる。このような拠点は、火星上のミッションの装備を除いた帰還船のようなもの、或いは通常は深宇宙探査用の科学観測衛星として機能しているものを併用することが想像できるが、ミッションにあたっては、地球からの管制により、本船とランデブー可能な航路近辺に配置することが想定できる(技術的には、そろそろ可能な段階に入っているのではないだろうか)。このような拠点は、当然、復路においても重要な立ち寄り先になる訳である。

  さて、幸運にも、微小隕石の衝突等、不測の事態も起こらず、火星に辿り着いたとして、乗組員の主目的は、持続的な居住拠点を作ることである。しかしそこでは多くの課題が待ち受けている。

 

次回は、今回の流れを受けて、火星移住のさきがけとなるミッションのアウトラインについて少し考えてみたい。