日本語の面白い語源・由来(ろ-①)蠟梅・老婆心・狼狽・浪漫・路地・壟断・驢馬

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ロウバイ

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.蠟梅/蝋梅(ろうばい)

ロウバイ

蝋梅」とは、「中国原産のクスノキ目ロウバイ科の落葉低木」です。早春、葉より先に香りのある六弁の花が多数下向きに咲きます。

和名の「ロウバイ」は、漢名の「蝋梅」の音読みです。
蝋梅は、梅と同じ頃に花が咲き、香りも近いため、植物学的に種は異なるが「梅(バラ科)」の名がつきます。

蝋梅の「蝋」は、花びらが蝋細工(蜜蝋)のようであることに由来します。

臘月(陰暦12月の別名)に梅に似た花を咲かせることから、蝋梅(臘梅)の名がついたとする説もあります。
しかし、ロウバイの花びらが半透明の蝋質であることは見た目に分かることで、「蝋」に由来しないと考える方が不自然です。

梅に似た蝋質の花を臘月に咲かすことからとする説もありますが、二つの意味を掛け合わせた命名は考え難いものです。

「蠟梅」は冬の季語で、次のような俳句があります。

・臘梅や 枝まばらなる 時雨ぞら(芥川龍之介)

・臘梅や 水に入る巌 うつくしき(長谷川櫂)

・臘梅の 落す雫に 香りあり(川上朴史)

・臘梅を いけて無骨な 床柱(京極杞陽)

2.老婆心(ろうばしん)

老婆心

老婆心」とは、「必要以上の親切心。相手のために世話を焼こうとする気持ちをへりくだっていう語」です。「老婆心切」や「婆心」ともいいます。

老婆心は元仏教語で、師が弟子を慈しみ教え導く、その心遣いが極めて厚いことのたとえとして用いられました。

年を取った女性は人生経験が豊富なことから、細かくて深い心遣いができることをたとえた語ですが、子や孫に度を越した心配をしたり、余計な忠告したりするという、ネガティブな言葉として受け取られ、老婆心は「必要以上の親切心」の意味として用いられるようになりました。

そこから、相手に忠告したり心配したりする際に、「おせっかいかもしれませんが」の気持ちとして、「老婆心ながら」と言うようになりました。

男性の場合、「婆」を「爺」に置き換え、「老爺心(ろうやしん)」と言うこともあります。
あくまでも、これはふざけて言う際の表現であり、男女問わず「老婆心」と言うのが正しい表現です。

3.狼狽(ろうばい)

狼狽

狼狽」とは、「思いがけない出来事に慌てふためくこと。うろたえ騒ぐこと」です。

狼狽の「狼」も「狽」も、オオカミの一種といわれる伝説上の野獣を表します。
「狼」は足が長くて後足が短いが、「狽」は前足が短くて後足が長い動物です。

そのため、「狽」は「狼」の後部に乗って常に一緒に行動しますが、離れると倒れて動けなくなることから、慌てふためきうろたえることを「狼狽」と言うようになったとする説が、唐代の随筆『酉陽雑俎』にあり、長年信じられてきました。

しかし、現代では、「狼」が「乱れる」、「狽」が「よろける」を表すという説や、「狼狽」は擬態語で「狼」と「狽」に意味はないといった説の方が有力とされます。

4.浪漫/ロマン/roman(ろまん)・ロマンス/romance

ロマン

ロマン」とは、「中世ヨーロッパの恋愛や武勇談扱った空想的・伝奇的な物語。小説。特に、長編小説。冒険や一大事業など小説のような夢をかきたてるもの」です。
ロマンス」とは、「中世ヨーロッパの空想的・冒険的・伝奇的な物語。空想小説。恋愛事件。恋物語」です。

ロマンはフランス語「roman」から、ロマンスは英語「romance」からの外来語です。
中世ヨーロッパでは、文語の古典ラテン語に対し、口語に用いた俗ラテン語を「ロマンス語」といい、ロマンス語で書かれた物語を「roman」「romance」といいました。

両語は同源ですが、「男のロマン」や「大正ロマン」といったように、ロマンは夢や憧れ、冒険的の意味です。
アメリカの「ハーレクイン・ロマンス」や「二人のロマンス」というように、ロマンスは多くは甘い恋愛や恋物語の意味で使われるます。

ロマンの漢字「浪漫」は、夏目漱石による当て字です。

5.路地(ろじ)

路地

路地」とは、「建物の間の狭い通路」です。

路地は元々「露地」と書き、「露」は「あらわ」、「地」は「地面」の意味で、屋根などの覆いがなく、むき出しの土地のことを表した語でした。

草庵式の茶室に付属した庭や、門内・庭内の庭も「露地」といいました。
やがて、建物と建物の間の通路を主に意味するようになったことから、「ろ」に「路」の字が当てられ「路地」となりました。

6.壟断(ろうだん)

必求壟断

壟断」とは、「利益や権利を独占すること」です。四字熟語では「必求壟断」です。

壟断の「壟」は小高い丘のことで、壟断は丘の高く切り立ったところ(崖)の意味です。
壟断が利益や権利を独り占めする意味となったのは、欲深い男が丘に登って市場を見渡し、商売をするのに都合のよい場所や相手を見つけて、利益を独占したという『孟子(公孫丑下)』の故事に由来します。

この言葉から、中国では独占禁止法を「反壟断法」といいます。

7.驢馬(ろば)

ロバ

ロバ」とは、「奇蹄目ウマ科の哺乳類」です。体は小さいですが丈夫で、粗食でも生きられます。兎馬。ドンキー。

ロバは、漢語「驢馬」の字音に由来し、本来は「驢」の一字で「ロバ」を表します。
「馬」が加えられて「驢馬」になった理由は定かではありませんが、馬の一種であることを明確にするためか、文字を安定させるため二文字にしたものと思われます。

ロバの漢字「驢」は、「馬」に音符の「盧(リョ)」からなる形声文字です。
「盧」の字には「壺」の意味がありますが、音から当てているだけなので、「驢」の漢字の意味には一切関係ありません。