ヒトT細胞受容体の遺伝子座と構造【2つの染色体上に分かれている】
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ヒトのT細胞受容体(TcR)α-βとγ-δは、2つの染色体上にある4遺伝子の産物です。T細胞受容体α(TRA)とδ(TRD)は14番染色体 (14q11.2)、T細胞受容体β(TRB)とγ(TRG)遺伝子は7番染色体 (それぞれ7q35と7p15-p14)の第14染色体上に存在します。

TRA

ヒトのT細胞受容体α鎖をコードするTRA遺伝子は14q11.2にあり、1000 kbにも及びます。この遺伝子は、54のV領域 (TRAV遺伝子)、71kbにもわたる61個のJ領域 (TRAJ)、そして1つのC領域 (TRAC遺伝子) からなります。

このようにJ領域が広い領域に渡っていることは非常に珍しく、他の免疫グロブリンやT細胞受容体遺伝子座では観察されていません。

TRD遺伝子座はTRAのV領域とJ領域遺伝子座の間にあるため、TRA遺伝子座においてV-J rearrangementが起こるとその染色体上のTRD遺伝子は欠失することになります。

潜在的なレパトアは、45から47の機能的なTRAV遺伝子、50の機能的なTRAJ遺伝子、および1つのTRAC遺伝子から構成されます。

ヒトのTRA遺伝子は、ハプロイドゲノムあたり116個ありますが、偽遺伝子もあるためそのうち96〜98個が機能的であるとされています。TRACから3′側に4.5kbのところにエンハンサーがあります。

TRB

ヒトのT細胞受容体α鎖をコードするTRB遺伝子座は7q35にあり、620 kbに及びます。

64から67のV領域 (TRBV遺伝子)から構成されています。TRBVの潜在的なレパトアは、40〜48の機能的なV領域、2つのD領域、13のJ領域、および2つのC領域から構成されます。ハプロイドゲノムあたりのヒトTRB遺伝子の総数は82〜85個ですが、偽遺伝子があるため、機能的なのは57〜65個程度です。エンハンサー配列はTRBC2から3′方向へ5.5kb離れたところにあります。

TRG

7p15-p14にあるヒトTRG遺伝子座は160 kbにわたります。

これは12〜15のV領域の遺伝子 (TRGV遺伝子)からなり、J-Cクラスターの前半は3つのTRGJ遺伝子とTRGC1遺伝子、後半は2つのTRGJ遺伝子とTRGC2遺伝子からなっています。ハプロイドゲノムあたりのヒトTRG遺伝子の総数は19〜22個で、そのうち11〜13個が機能的であると考えられています。TRGC2遺伝子の6.5kb 下流にはエンハンサーとサイレンサーが存在します。

TRD

14q11.2のヒトTRD遺伝子座は、1つのC領域遺伝子 (TRDC遺伝子)の上流にV領域遺伝子 (TRDV2)が1つ、3つのTRDD遺伝子、4つのTRDJ遺伝子からなるクラスターになっていて、なぜかTRDC遺伝子の下流には、逆向きに転写される別のTRDV遺伝子(TRDV3)があります。この遺伝子座はTRAV遺伝子とTRAJ遺伝子の間に位置しています。
ハプロイドゲノムあたりのヒトTRD遺伝子の総数は11個で、すべてのTRD遺伝子は機能的です。

免疫の遺伝子名を調べるには

この記事で紹介したTCRも含め、免疫関係の遺伝子名はIMGT (the international ImMunoGeneTics information system) のサイトを見るのが一番確実です。遺伝子名だけでなくさまざまなリソースも提供されています。

まとめに代えて

この記事では、ヒトT細胞受容体遺伝子座の構造について紹介しました。

免疫系は複雑ですが、たくさんのイラストを使ってわかりやすく解説しているのがこちらの本です。

より専門的なトピックスについては、免疫学において世界的ベストセラーになっているJaneway's Immunobiologyがとても勉強になります。

免疫研究については、このような関連記事があるので合わせてご覧ください。

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