区役所・・その小さな社会は、まるで日本の中のどうしようもなく情けない部分を、わかりやすくさらけ出しているような場所でした。
電話のベルが鳴っています。
周りは皆、普通に仕事をしています。
5回目・・6回目・・誰も取らない。何も聞こえないかのように・・
別にそんなに忙しくもなく、普通に仕事しているだけなのに、周りの6人、7人全員無視なのです。
8回目・・10回目・・
私はだんだん焦ってきて、(私が取ってもいいものかしら)とドキドキしながら様子を見ていました。
コール13回目で、若いお兄さん(20歳くらいで一番よく仕事をやる社員)がようやく電話を取りました。
「はい、●●区役所、戸籍課です」
私は絶句してしまいました・・。
普通、お待たせして申し訳ありませんでした、って言うのでは~??(涙・涙・涙)
そんな言葉はここにはないのです。
電話は基本「聞こえないフリ」。
忙しくなくても「忙しいフリ」。
だからどんなに電話に出るのが遅くても謝らないんです。
だって忙しい(フリをしている)んだもん!
やっと電話に出られました・・ってかたちの演出なのですが、それがここの区役所の文化のようです。
意味不明・・私と同時に入った職場のバイト仲間は全員それに驚き、全員同じことを言っていました。
「なんで電話をとらないの!?」「みんな取れるのになんで取らないの!??」
そして私達は「これが噂の区役所の実態ね」と言って頷くのです。
午前中の業務が終わってようやく昼休み。
お昼は上の階に大きな「ラウンジルーム」があるので、そこの椅子と机を使って食べていいとのことでした。
ところが行ってみると、ラウンジルームは鍵がかかって閉まっています。
「コロナ感染防止のため、ラウンジルームの使用を中止します」という張り紙がガラスの扉に貼ってある。
ん???では、どこで食べたらいいの・・??
職員の人達は会議室がいくつかあってその中で食べて良いそうですが、私達派遣社員は、入ってはダメなのです。
そして私達はトイレの前の四角いソフト椅子に団子の様にくっついて座り、お弁当を食べるのです。
どうして広いラウンジルームがあるのに、コロナのために開放しないのだろう?
そういう場所で人が集まってはいけないと政府が言ったから・:なのでしょう。
でも結果的にこんな密になってしまって、余計危険になっているのは、誰もが百も承知。
だけどそんなことはどうでもいいんです。
密だって、危険だって、カンケーないんです。
上の指示に沿うことだけ。
提案もなければ、独自で何か新しい方法を考え出すことなんて絶対しません。
私達は初日からずっと、トイレ前の椅子で昼食を取らなくてはなりませんでした。