徒然草枕

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クラシック音楽館「日本のオーケストラ特集3」

 先週はN響の公演を放送していたので、これでローカルオケ特集も終わりかと思っていたら、残っていたオケをまとめて総集してきたようである。在阪の大阪交響楽団及び大フィルが登場。ここに在京のオケの中でもマイナーに属する日フィルとシティフィルを加え、さらには関東ローカルの神奈川フィルを加えるというラインナップ。

 

 最初に登場したのは関東ローカルの神奈川フィル。2015年2月20日に横浜みなとみらいホールで開催されたコンサートで、川瀬賢太郎指揮でヒンデミット作曲のウェーバーの主題による交響的変容を紹介している。

 神奈川フィルは若手指揮者の川瀬賢太郎とペアを組んで長いが、その組み合わせによる演奏を紹介。川瀬が常任指揮者に就任したのは29才というという若さなので、大半の楽団員は彼よりも年配という状況。それなりの苦労もあったはずであるが、彼の音楽は楽団員にも受け入れられているという(確かにここのオケと指揮者の関係に悪い噂は聞いたことがない)。彼の音楽が明快で、その目指すところをストレートにオケに対して伝えているところが上手く言っている理由か。

 実際に演奏の方も川瀬の目指しているところは明快であり、ややグダグダしたところもあるこの曲を、キレよくスッキリとまとめている。所々爆発的な音楽が飛び出すところは、このオケが持っているエネルギー(やや雑に思えるところもあるが)と川瀬の若さの反映だろう。音楽全体を非常に上手くまとめている。

 なお神奈川フィルのコンサートについては私はまだ一回しか聞いたことがない。その時はパスカル・ロフェの指揮でサン=サーンスの交響曲第3番をかなりお祭り的な派手派手さで演奏したのが記憶に残っている。あの元気さはやはり持ち味なのか。

 

 2番手に登場するのは在京オケの一つ日本フィル。今回の番組はこの日フィルの歴史的な話でかなり時間を割いている。

 日フィルはかつて危機に瀕している。1972年に事実上の親会社だった民間放送局(番組ではこういう言い方をしているがフジテレビのことである)が財政支援を打ち切り、楽団の解散を通告した。この理由について番組では全く触れないが、財政上の問題というのは表向きの理由であって、実際にはその前年に日フィルが労働組合を結成したことが大きな理由と言われている(フジテレビの体質は言わずもがなである)。

 結局はこの時は楽団が不当解雇を訴えて法廷闘争となり、この争議は長期化する中で各地の労働組合なども支援に回る。その結果として地方とのつながりのようなものも出来たというなんか美談的取り上げ方だが、現実はもっと生臭いものであるのは考えるまでもないが、まあそんなところはどうでも良いところではある。とにかくこの頃に九州と特に強い結びつきが出来、日フィルは今でも毎年九州公演を行っているとのこと。また九州には日フィルの九州公演を支えるボランティアも立ち上がっており、彼らの支援によって日フィルの九州公演は実行されている。まあ組合云々の政治的なこと抜きにしても、九州で定期的に公演をするオケは九州交響楽団しかないので、そんな中で毎年九州公演を実施する日フィルが九州の音楽ファンにとっては貴重な存在なのは理解できる。

 さらに番組はここから熊本の話につながって、熊本出身のホルン奏者・原川翔太郎氏(顔を見ただけで熊本出身というのが納得できる人物である)に密着している。彼はあの熊本地震の時にたまたま熊本に帰省しており、そこから数ヶ月練習どころではない大変な日々を送ったという。しかしそんな中でも被災地各地を回ってのコンサートなどで音楽の力というものを感じたとのこと。日フィルはロビーコンサートを実施するが、今年2月の九州公演では彼がその企画を担当したとの話。熊本公演では彼の両親も駆けつけてと言うお約束の美談である。

 しかしこの九州遠征後に日フィルもコロナの影響でしばしの活動停止。再始動したのはつい最近、ここで5ヶ月ぶりにメンバーが顔を合わせて・・・という現況も紹介。結局は日フィルの大昔、少し昔、現在を伝えるドキュメントになっていた。今回の番組自身は明らかにこれがメインとなっていた。

 さて演奏の方だが、2009年10月18日東京芸術劇場コンサートホールでの、アレクサンドル・ラザレフ指揮によるハチャトゥリアンのバレエ音楽「スパルタクス」から。いかにもロシア的なやや荒々しさを秘めた音楽を、これまたロシアの指揮者がバリバリのエネルギー全開で振る演奏。日フィルもそれに応えてなかなかにパワー漲る演奏。なお私は日フィルのコンサートについては過去に5回聞いているが、指揮者が人気先行の西本、好き嫌いの分かれやすいコバケン(私は正直苦手)に私と相性の悪い山田和樹ということで、オケの評価は今ひとつになっているが、ラザレフとの組み合わせによる公演だけは高評価で、やはり私的にはこのオケはラザレフとの組み合わせがベストとの印象。緊張感が漲るとその時の評に書いてあるが、実際の今回の演奏もそうである(私が山田和樹と相性が悪いのも、彼の演奏にはそれがないから)。

 

 後半に突入しての3番手は在阪オケの大阪交響楽団。紹介するのは2010年6月13日のザ・シンフォニーホールでの児玉宏指揮でのバーバーの管弦楽のためのエッセイ第1番作品12である。

 大阪交響楽団は1980年に音大出身の若手演奏家が結成した大阪シンフォニカーが、市民と共に成長しつつ今日に至ったという。だからファンの中には「このオケを成長をずっと見守ってきた」という類いの年季の入ったファンも多い。ドイツの劇場で活躍していた児玉宏が主席指揮者に就任してからは、日本では知名度の低い曲をレパートリーに加えるなど、独自の展開をしてきた(大阪交響楽団の珍曲路線として有名)。

 という辺りが大阪交響楽団に対する紹介。ただこのオケは最近は日本センチュリーの危機の影でやや隠れているが、それ以前から常に苦しい運営状況が伝えられているオケで、今回のコロナ騒動でさらにその危機が進行しているのが否定できないところ。なお私も在阪オケとして大阪交響楽団のコンサートは何回か足を運んでいるが、残念ながら他の在阪オケと比較した時に技倆的に一段劣るのは否定できず、私の評価も厳しいものとなっている。

 今回のバーバーについては、私が曲自体をよく知らないのと、さらに言うと曲自体があまり面白く感じられないことから評価のしようがないと言うところ。


 4番手は在京のシティフィル。2007年7月26日東京オペラシティコンサートホールでの飯守泰次郎指揮によるホルストの「惑星」から水星と木星。

 1975年に創立した東京では比較的新参者のオケ。そのオケを飯守泰次郎が長年引っ張ってきたとしている。本演奏でも飯守との関係性の強さは演奏に反映しているが、それよりも私が驚いたのは、今から10年以上前の演奏だけに、飯守の指揮がかなり若々しいというか躍動感があること。残念ながらこの頃に比べると現在の飯守はかなり老け込んだという印象を受けざるを得ない。躍動的にオケをコントロールして自らの意志を的確にオケに飛ばしているという両者の良好な関係を感じさせる演奏。

 なおシティについては私は過去に2回しか生演奏を聞いたことがない。一度は高関指揮による第九(サマーミューザのプログラム)、もう一回は下野指揮でのスッペ序曲集。いずれも技術云々なんてことよりも、ノリの良いオケという印象が残っている。

 

 最後は関西の雄・我らが大阪フィルの登場である。2016年7月22日のフェスティバルホールでの井上道義指揮によるベートーヴェン交響曲第3番「英雄」から第4楽章を紹介している。

 大フィルは言うまでもなくまさに朝比奈隆のオケとして、その元で長年に渡って「大フィルサウンド」と言われる独特の迫力あるサウンドを築いてきたオケである。しかしその大フィルも朝比奈の死去によって変革を迫られているのが現状。その間、様々な指揮者によって率いられ、井上道義もその一時代を担った指揮者である。現状は尾高忠明の元でアンサンブルなどのレベル向上を図っている。

 さて井上道義による英雄であるが、私の過去の記録を精査してみると、たまたまこのコンサートだけは行っていないようである。この頃は大フィル会員でなく、その都度ごとにチケットを入手していたことから、「英雄」という曲目にあまり興味を惹かれずにパスしたのだろう。どうやらこの日は私は熊本に飛んでいたようである。

 で、演奏の方であるが、やはり井上道義らしいいかにもロマンティックな「英雄」である。メリハリが強く振幅が大きい。演奏者によって古典派流れをひく交響曲としても、ロマン派の最初を飾る交響曲としてもいかような鳴りようをするのがこの曲であるが、井上のアプローチは明らかに後者。大フィルもその井上の指揮にメリハリの効いた演奏で答えている。寸分の狂いもない精緻な演奏と言うよりも、少々グダグダがあってもノリとパワーで突き進むのは大フィルらしいところ。

 なお大フィルというのはとにかく指揮者によって非常に表情を変えやすいオケなので(フェドセーエフが振った時は見事にロシアオケになった)、これは井上指揮の大フィルの鳴らし方というところ。私が今まで度肝を抜かれたのは昨年のデュトワ指揮での大フィルの演奏だった。今年もそれが聴けるはずだったのだが、今回のコロナ騒動でぶっ飛んでしまった。そのことが返す返すも痛恨の極み。来年はまだ無理な可能性が高いが、その次の年辺りには実現してもらいたい。なお私はポリャンスキー指揮の大フィルというのも聴いてみたいと思う(ポリャンスキーのパワーと大フィルのパワーが高次元でマッチできればとてつもない名演の期待がある)。


 先々週の2でローカルオケ特集は終わりかと思っていたら、まだ第3弾があったのがうれしい驚き。結局最後まで無視されたのはPACとセントラル愛知だけか(笑)。両者ともにさすがのNHKも放送素材を有していなかったと推測される。まさか第4弾はなかろう。無理矢理するとすると、先の両者に東京交響楽団、東京ニューシティ、新日フィル辺りか。うん、放送素材なさそう(笑)。