熱解析での入力要素値:熱伝達率
目次
式だけ知りたい方は最後だけで問題ないです。
熱シミュレーション(熱解析)の入力要素の中に熱伝達率(Heat transfer coefficient)という係数が存在します。
固体や流体、気体といった相や物資間での熱の伝わりやすさを示す値です。
単純な熱移動だけではなく、時間平均でも考えるため、算出するには時間を考慮に入れることが多い。
単位はW/(m2·K)。単位面積と温度差当たりの伝熱量のことで、記号としてhが使われます。
そして熱伝達率は熱伝導率(thermal conductivity)とは違います。
熱伝導率の単位はW/(m·K)。物体の熱の伝わりやすさを示す値です。
熱伝導率の方が一般的でに知られており混同されていることが多く、物体のデーターベースに記載されていると思いきや、物体の組み合わせが多いためにデータベース化されていることが少ない数値です。
また、宇宙機の設計開発では、熱の移動に関わる熱伝導、熱対流(熱伝達)、熱放射のうち、大気がない(薄い)ため、熱対流を除いた熱伝導と熱放射の要素が大きいです。
宇宙自体が氷点下を下回る空間であることから宇宙機は常に冷やされ続けています。
現時点では大きく発熱する物体による熱放射を考える必要がありますが、それよりも周囲に何もなく冷え続いている環境から、宇宙機設計において熱伝導の方がより熱を運ぶため、重要度が高くなります。
ただ、物体が大きくなればなるほど、物体自体の熱の逃げにくさを示した熱容量が大きくなります。その分、熱伝導よりも熱放射が宇宙機の熱のコントロールに寄与する割合が大きくなっていきます。
さて、熱伝導は熱の伝わりやすさを示しており、同一の物体内(熱伝導率)の熱の移動を示しています。
しかし、物体は個別に機械的に非接触で構成されておらす、ボルトやワッシャなど様々な物質の接触や固着によって成り立っています。
このときに考える要素が、熱対流の中に含まれる熱伝達のことで、接触している物体間(熱伝達率)の熱の移動のことでもあります。
通常の熱計算の場合ですと大気中であることから対流の影響が大きすぎるために、相対的に熱伝達の影響が低くなってしまい、解析の要素でも小さく、結果的に情報が少なくなってしまうのが実情です。
地球とは違い対流の影響が小さく、熱伝達の影響が大きくなることから、適当な数値ではなく、影響ある数値として、熱設計並びに熱解析を行う上で実験値やタイトルにあるニュートン冷却の法則(Newton’s Law of Cooling Derivation)による近似値で算出していきます
ニュートン冷却の法則から熱伝達率を求める
ニュートン冷却の法則の考え方は他のサイトに任せるとして、熱伝導率を求めるために必要な数値をまとめてみます。
- 物体の熱量Q [J]
- 物体の熱容量C [J/K]
- 物体の伝熱表面積S [m2]
- 熱伝達率h [W/(m·K)]
- 物体の初期の表面温度T0 [K]
- 物体の時間経過後の表面温度T [K]
- 周囲の環境温度Tm [K]
- 初期温度からの経過時間t [sec]
ニュートン冷却保存の法則は実験により算出された経験式です。
the rate at which a warm body cools is proportional to the difference between the temperature of the warm body and the temperature of its environment.
dQ/dt = - hS(T-Tm)
で表記され、微分方程式を解くことで次のように表すことができます。
T=(T0-Tm)exp(-hSt/C)+Tm
試験のコンフィギュレーションを考えてみる
ここからさらに熱試験を想定していきます。
まずは温度センサー。
熱試験で熱を温度に数値化するには温度センサーを貼り付ける必要があります。
値段は高いが、精度が高く劣化も少ない標準的に使用されることが多い、白金の温度センサーで考えます。
次に試験条件ですが、こういったものは恒温槽やチャンバー内での実施を想定しましょう。
宇宙機においては周囲に大気がないため可能な限り真空の条件で測定を行いましょう。
条件は「測定する物体の温度が安定する前」、かつ「周囲環境温度が安定した後」で考えましょう。
一つは、真空恒温槽内で温度を下げて(あるいは上げて)いきます。
恒温槽内の温度が安定した状態で、測定する物体の温度の測定を開始します。
その後、物体の温度が安定したら(温度の振れがなくなったら)測定終了です。
ただし、物体には熱容量という温度の下がり難さ上り易さを示す物理量が存在し、物体が小さすぎたり、熱容量自体が小さい場合ですと、周囲(恒温槽)の温度が安定した段階で、物体がすでに安定する可能性があります。
そのため、ヒーターを用いて物体に集中して熱を掛ける仕組みを作ることでその課題を解決させます。
さらに考えるべきは、温度センサーの固定方法ですね。
組織によって違うかもしれませんが、剥がし剤も販売されているアロンアルファといったエポキシ系接着剤などが固着方法に使われているのではないでしょうか。
接着剤は温度センサと測定する対象の物体に挟まります。
測定したい2つ以上の物体間の伝達率の間に、接着剤という物体も考慮する必要があるかを考えなければなりません。
まあ大抵は、接着剤自体に導通成分のあるものを利用するか、熱解析モデル全体を考えたときに影響する要素が小さいため、無視してしまうことがあり、多くは後者の無視を選択することが多いです。
それでは各々試験をしたということでまとめに行きましょう。
物理実験としては「Newton's law of cooling experiment」と検索するといろいろと出てきます。
データ取得後に、ニュートン冷却保存の法則を利用して算出する
さて、再び文字の定義と数式を見てみます。
- 物体の熱容量C [J/K]
- 物体の伝熱表面積S [m2]
- 熱伝達率h [W/(m·K)]
- 物体の初期の表面温度T0 [K]
- 物体の時間経過後の表面温度T [K]
- 周囲の環境温度Tm [K]
- 初期温度からの経過時間t [sec]
ニュートン冷却保存の法則
T=(T0-Tm)exp(-hSt/C)+Tm
さらに多くの場合、簡略のためS=Cと置いて、次式で計算することが多いです。
T=(T0-Tm)exp(-ht)+Tm
実際の計算ではさらに、M=exp(p) ⇔ p=ln M という対数の公式と底の変換式を利用します。
h= ーt×ln{(T-Tm)/(T0-Tm)}
Excelであれば下記式でh:熱伝達率を求めることができます。
=-t*LN*1
ニュートン冷却の法則は実験によって求められた近似式であることを念頭に活用しましょう。
参照サイト
熱伝達率
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%86%B1%E4%BC%9D%E9%81%94%E7%8E%87
熱伝導率
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%86%B1%E4%BC%9D%E5%B0%8E%E7%8E%87
Newton's law of cooling
https://en.wikipedia.org/wiki/Newton%27s_law_of_cooling
Heat transfer coefficientHeat transfer coefficient
https://en.wikipedia.org/wiki/Heat_transfer_coefficient
*1:T-Tm)/(T0-Tm