ロケットの打上げ延期の時の宇宙機(人工衛星など)の対応とは
いくつかの場合分けになるとは思いますが、打上げ直前のカウントダウンフェーズの場合、次のようになります。
宇宙機由来のトラブルでなければ、基本、衛星分離機構から外すことはありません。
可能性として、ロケット側の致命的なトラブルで、打上げが絶望的となったら外すかもしれません。
そして、これらはリスク回避を基準に判断されます。
フェアリングに搭載されたままのリスクとしては、巨大な燃料を搭載しているロケットが誤動作したときに、連動して宇宙機にも影響を受けてしまうこと。主に、爆発や高所による不安定があります。
高所であることから、メンテナンス性が悪く、メンテナンス要員に危険が及ぶ可能性があるため、ロケットに接続されたままということはありません。
宇宙機はロケットの先端部分にある曲線状のフェアリングの中に搭載されています。
このフェアリングごと取り外して保管されます。
フェアリングの保管によるリスクは、フェアリングの種類、ロケットの構造、設計に関わってきます。
最新で高価なロケットの場合、フェアリング内は空調が利いていており、ある程度の清浄度を保たせることができます。この場合は、下手にフェアリングを開けるよりもそのまま保管していた方が安全です。
宇宙機とフェアリングは強固に強固に結合されており、フェアリング保管設備の方が、安全に施設に固定することができるためです。
この時、フェアリングはある程度密封になっているために、温度差や気圧差に十分気を付けなければ、フェアリングか宇宙機にダメージを受けることになります。
様々な形状の宇宙機に対してフェアリングはある程度形が決まっているため、施設内の作業者にとって、よくわからない人工衛星よりもフェアリングごと固定した方が作業の熟練度からも容易だからです。
もちろん清浄度に指定がある場合は、フェアリングをロケット打ち上げ場(射場施設)の近くにある施設内の清浄度の管理された区画に保管されることになります。
色々注意すべきではありますが、何とか人工衛星を移動させた後に問題になるのはスケジュールです。
人工衛星には、いくルカのリスク要素がありますが、大きなものの一つに電池と推進剤があります。
電池はそれ自体がエネルギーを持つことから、発熱や暴発、漏電の危険性がありますが、制御方法が確立されており、ちゃんとしていれば問題はないのですが、自己放電があることから、電池容量が減り続ける可能性があります。
宇宙機の生存率を上げるために、スケジュールが長引けば充電しなければいけません。
ロケットとの契約によっては、一度分離機構まで取り付けられたなら、充電禁止となることもあります。
ロケットの打上げが長引けば長引くほど、ロケットの生存確率が下がってしまいます。
ロケットのフェアリングの設計次第ですが、アンビリカルケーブルと人工衛星が接続されている場合は、フェアリングを開けることなく充電することも可能です。
フェアリングの構造上、充電ができなければ、フェアリングを開ける(衛星分離機構と結合した状態である)必要が出てきます。
フェアリング内での次の危険性は推進剤の存在です。
今でこそ推進装置に水やイオンが使われますが、昔からヒドラジンが使われていました。
今でも大型から中型の宇宙機は、水やイオンでは推進力が出ないためヒドラジンが使用されることが多いです。
小型衛星以下のサイズの場合、コンポーネントとして搭載する隙間を確保するのが難しく、ほとんどヒドラジンを搭載した宇宙機はありません。
ヒドラジンは法律で危険物第5類自己反応性物質です。
引火性があり、爆発の危険性もあり、人体が吸引するとめまいや、意識喪失、皮膚傷、内臓にもダメージを受ける有毒性のある物質です。
このヒドラジンに対して、どのようなリスクを負うかの判断によって、フェアリングまで開けるか否かを判断することになります。
これは宇宙機側とロケット側、その他の関係者との調整となります。
多くの場合、ヒドラジンが危険であるため、ある程度の期間(おそらく数週間)を超える場合は、ヒドラジンを人工衛星から抜く判断になると思います。
充電作業とヒドラジンの保管は爆発のリスクがあり、充電しているケーブルやリレーからの火花や熱が印加する可能性をどこまで許容するかによります。
正直、主観ですが危険性が高いため、長期間そのままにはしたくありませんので、ヒドラジンを抜くというのも、近くで作業する作業員のストレスを考えたものとも言えます。定期的にヒドラジンの状態をチェックする作業も増えますからね。
まあ、ヒドラジンの排出作業も供給作業も危険なので、スケジュールによるところが大きいとは思います。
もしヒドラジンをフェアリングに搭載したまま、排出、並びに(再度打ち上げ準備のため)供給できるのであればそのままでフェアリングに搭載可能となるでしょう。
フェアリングに搭載したままであるかの要素としては、次の通りです。
- ロケットとの契約内容
- ロケット施設の空き状況
- ロケット施設内での安全状態のし易さ(フェアリングが固定しやすければそのままだが、固定しにくい場合は取り出す)
- 清浄度の管理
- 電池の充電
- ヒドラジンの安全性の判断
その後の衛星分離機構と接続したまま保管するか、衛星分離機構から外して保管するかは、主に7つの判断基準に行われます。
現在、ベンチャー企業を含めて、様々なロケットが開発されており、ロケットと宇宙機は、今までできなかったことができたり、できたことができなかったりしています。
通例でやっていたことでも、技術や仕組み、構造を更新することで対処可能になることから、上記7つを上げさせてもらいました。
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フェアリング内の宇宙機の状態
ロケットの機能に応じて、フェアリングの中で人工衛星が起動したままの状態(ホット・ローンチ)と停止したままの状態(コールド・ローンチ)の2つに分かれます。
mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com
小型衛星や超小型衛星、複数の人工衛星を打ち上げる場合は、コールド・ローンチの形式であることが多いです。
コールド・ローンチは、ホット・ローンチに比べてロケット側で対応することが少なく、インタフェースも減ることから多く用いられています。
ホット・ローンチは、ロケット側で対応することが多いのですが、その代わり人工衛星自体の生存確率を上げています。
ホット・ローンチの場合は、人工衛星の電源がされた状態で打ち上げることになります。
利点は、ロケット打上げ中も、人工衛星の信号をアンビリカルケーブルを介してロケット内で受け取り、ロケットと地上との通信である程度知ることができます。
ちなみに、電波法とか国際的な取り決めの関係で、ロケットから放出されないと宇宙機のテレメトリの発信ができません、確か。
アンビリカルケーブルは、設計次第ですが、最終的な人工衛星の起動スイッチになることもあれば、常時電力を供給することもあります。
フェアリングとは
人工衛星はロケットに搭載される時は、フェアリング(機構)に搭載されています。
フェアリング(fairing)は、ロケットの先端に取り付けられている半球状の覆いです。
役割としては、新幹線の先端の形状と同じで、滑らかで曲線を描く形状をしており、空気抵抗を低減させ、空力加熱から保護するための形状をしています。
ロケット以外にも、自動車やオートバイク、自転車、航空機、ボートにも取り付けられ、業界により名称が変わり、航空機ではカウル(cowl)とも呼ばれます。
フェアリングは最終的に、大気の影響が大きい大気圏を脱出するまでは取り付けられ、ロケットの場合、目標の高度に到達したときロケットの本体と分離して中の人工衛星が露出して、最終的に分離します。
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参考サイト
https://answers.khi.co.jp/ja/mobility/20210806j-01/
フェアリング空調移動車運用
https://www.rocket.jaxa.jp/rocket/h3/pickupPhoto/detail_20210310-1.html
JAXA共通技術文書
JERG-1-007F 射場運用安全技術基準
https://sma.jaxa.jp/TechDoc/Docs/JAXA-JERG-1-007F_N1.pdf
JERG-2-026 軌道上サービスミッションに係る安全基準
https://sma.jaxa.jp/TechDoc/Docs/JAXA-JERG-2-026.pdf
JERG-2-025 公募小型副衛星 ハザード解析ハンドブック