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美の傑作ものがたり「法隆寺金堂壁画写真ガラス原板」

2020年01月04日 | 美の傑作ものがたり

幕を開けたばかりの2020年、奈良と東京の国立博物館で展覧会が開かれる「法隆寺金堂壁画」に注目が集まっています。
不慮の火災によって大きく損傷した古代仏教美術の世界的な至宝が驚くなかれ、精巧な写真ガラス原板を通じてほぼ完全にその姿を今に伝えてるのです。

目次

  • 法隆寺の金堂壁画をご存じですか?
  • 便利堂をご存じですか?
  • 法隆寺金堂壁画写真ガラス原板はなぜすごいか?
  • 写真や映画の重要文化財が増えてきた


2020年は、
1935(昭和10)年に便利堂(べんりどう)が法隆寺金堂壁画を写真撮影してから85年
1949(昭和24)年の法隆寺金堂壁画焼損に衝撃を受け、翌年に制定された文化財保護法から70年
の節目の年にあたります。

また来年2021年は法隆寺を開いた聖徳太子遠忌1,400年の大々的な法要が、法隆寺などゆかりの寺で行われます。
法隆寺金堂壁画をキーワードに、文化財保護の意義や価値への関心がますます高まっていくでしょう。
「法隆寺金堂壁画写真ガラス原板」にどのような価値や魅力があるか、探ってみたくなりました。



奈良博の展覧会、外壁看板


法隆寺の金堂壁画をご存じですか?

世界遺産・法隆寺の伽藍で五重塔と並んで中心をなす「金堂」には、ほとんどの人が訪れたことがあるでしょう。
世界最古の木造建築を目の前にして、ワクワクしながら扉を開け暗い堂内に入ると、幻想的な微笑をたたえた飛鳥仏の最高傑作「釈迦三尊像」が、訪れる者の目をくぎ付けにします。

【法隆寺 公式サイトの画像】 釈迦三尊像


現在は釈迦三尊像にはスポットライトがあてられているため、お顔はよく見えるようになりました。
一方、釈迦三尊像を取り囲む外陣の内側の壁は暗くてよく見えません。
この暗くてよく見えない部分に目を細めると、仏様の描かれた壁画をかすかに見ます。
焼損した「金堂壁画」を、写真ガラス原板の記録をもとに1968(昭和43)年に模写したものです。

法隆寺は、金堂壁画の存在や焼損事故を積極的にPRしていないこともあって、拝観に訪れた多くの人は気付きません。もし焼損事故がなく、世界的な至宝として現存していたら「金堂壁画」の知名度も随分違っていたことでしょう。



法隆寺 金堂


法隆寺の歩みは、以前このブログでも詳しくご紹介しています。
【美の五色】 法隆寺ものがたり ~なぜこれだけの文化財が守り続けられてきたのか

金堂壁画は7c末の金堂再建時に製作されたと考えられています。
当時は天武・持統と二代続く平和な時代で、中国大陸から流入した仏教美術が本格的に花を開いた白鳳文化の全盛期でした。
薬師寺の薬師三尊像に代表されるようにエキゾチックな香りが漂う造形や表現は、日本国内にそれを可能にする仏師や絵師がいたことを意味します。

【文化庁・文化遺産オンライン】 「法隆寺金堂壁画写真ガラス原板」法隆寺蔵


法隆寺金堂外陣に描かれた壁画は12面もあり、仏像よりはるかに多い多様な仏の姿が表現されています。
悟りを開いた如来として何事にも動じない落ち着きの表情から、苦行に耐える弟子たちの一瞬の表情まで、その表現には言葉が出ないほどの感銘を受けます。
本当に仏の世界に迷い込んだような錯覚すら感じるほどです。

こんな圧巻の芸術作品が1,300年以上前に日本で描かれていたのです。
国宝中の国宝であることはもちろん、インドのアジャンター遺跡や敦煌の莫高窟(ばっこうくつ)と共に、世界トップクラスの仏教壁画の至宝”だった”ことだけは、間違いありません。


便利堂をご存じですか?

法隆寺金堂壁画の世界レベルの価値は、外国人からの評価が刺激になって、明治の初めから認識されるようになりました。
昭和になってようやく国主導で保存が検討されるようになり、まずは記録のために行われたのが、京都の美術出版社・便利堂(べんりどう)による精巧な写真撮影です。
便利堂は明治に土産物として人気が出た絵ハガキの製造販売で知られるようになり、寺社の古美術品の撮影実績が豊富にありました。

近年でも高末塚古墳壁画の精巧な記録写真を撮影したことで知られています。
カビの問題で古墳壁画を再び確認することが難しくなった今、かけがえのない記録となっていることは言うまでもありません。
便利堂の活動がいかに価値あるものか、本当によくわかります。

便利堂は現在も、美術品の絵ハガキや美術出版、ミュージアムグッズの製造販売など美術を楽しむ事業を行っています。
京都・富小路三条と東京・神保町に直営店があり、京都国立博物館や三井記念美術館のミュージアムショップも運営しています。
美術ファンなら、ほとんどの人が便利堂の商品を無意識に購入していることでしょう。


法隆寺金堂壁画写真ガラス原板はなぜすごいか?

法隆寺金堂外陣壁画の写真撮影は、6人の撮影チームによって75日もかけて行われました。フィルムではなくガラス原板に記録され、今も大切に保存されています。

  • 全12面を分割して原寸大でモノクロ撮影363枚(法隆寺蔵)
  • 全12面の全体モノクロ写真12枚(便利堂蔵)
  • 全12面の四色分解写真48枚(便利堂蔵)
  • 不鮮明になっていた部分の赤外線写真23枚(便利堂蔵)

焼損前の外陣壁画の姿を、その彩色も含めて完璧に記録していたことがわかる分厚い撮影です。

【便利堂 公式ブログ】 法隆寺金堂壁画撮影時の様子が紹介されています

美術品の模写は古今東西行われてきました。
しかし記録ではなく複製や芸術表現の鍛錬を目的としたもので、模写した人の個性が加わるという「芸術としての魅力」があります。
一方記録を目的として撮影された写真は、撮影時点の姿を最大限客観的に記録した「科学的な価値」があります。

今後絶対にあってはならないですが、美術品の消失を未来永劫100%防止することはできません。
記録し、伝えていくことの価値に、便利堂は日本で最も早くから気付いて集団の一つなのです。


写真や映画の重要文化財が増えてきた

写真や映画という近代の科学技術に基づき制作された「芸術や記録」に、重要文化財に指定されたものがあることに、驚きを隠せません。
法隆寺と便利堂が所蔵する「法隆寺金堂壁画写真ガラス原板」も2015年に重要文化財に指定されています。

写真が初めて重要文化財に指定されたのは1999年で、以来2019年までに15点を数えます。
幕末の島津斉彬や江戸城の姿など、「よくぞのこっていた」と思える作品ばかりです。
映画フィルムも3点が指定されています。

ハードディスクやメモリに記録されたTV番組やアニメ作品も、いずれは重要文化財に指定される日がやって来るでしょう。
写真や映画でも国宝になる作品も現れるかもしれません。
重要文化財や国宝にいつどんな文化財が指定されたか。
時代の鏡を映し出しているようで、とても興味深いものです。



便利堂の集大成がこの一冊に


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法隆寺【公式サイト】http://www.horyuji.or.jp/
便利堂【公式サイト】http://www.kyotobenrido.com/

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