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カラヴァッジョ展 巡回のフィナーレを大阪で見て思うこと

2020年01月03日 | 美術館・展覧会

札幌・名古屋と巡回してきたカラヴァッジョ展。
 フィナーレをかざる大阪展があべのハルカス美術館で始まっています。
 出展予定作品のドタキャンで注目を集めた展覧会ですが、ルネサンスに幕を下ろしたスーパースター・カラヴァッジョの本物の名品の迫力はやはりケタ違いでした。
 展覧会を見終わった後に、私が思いを強めたこともあわせてお読みいただければ幸いです。




 目次

  •  カラヴァッジョはなぜ光と闇を強烈に表現できたのか?
  •  カラヴァッジョのDNAを最も感じたのはリベラ
  •  斬新な企画とドタキャンへの思い



 


 カラヴァッジョはなぜ光と闇を強烈に表現できたのか?

 ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(Michelangelo Merisi da Caravaggio)は、1571年にミラノで生を受けました。
 ミラノ近郊にあるカラヴァッジョ村で少年時代を過ごしたことから、カラヴァッジョという”あだ名”の方が本名より有名です。
 イタリアの人名ではよくあり、レオナルド・ダ・ヴィンチもヴィンチ村出身であることにちなんでいます。

 彼は若い頃からとても激しい気性の持ち主だったようです。
 ミラノからローマに出てきたきっかけ、ローマからナポリに逃避行した理由、ともに喧嘩や殺人といったトラブルや犯罪でした。

 【展覧会公式サイト】 カラヴァッジョ「リュート弾き」個人蔵

 「リュート弾き」個人蔵は、当時のローマの美術界で大きな影響力を持っていたデル・モンテ枢機卿がカラヴァッジョのパトロンとなった頃の作品です。
 デル・モンテ枢機卿に気に入られるという幸運で、カラヴァッジョは出世の階段を駆け上がります。

 枢機卿の館にいたスペイン人の歌手をモデルに描いた作品です。

  •  人物を理想化せずにモデルの表情そのままに描く
  •  画題のドラスティックな瞬間の演出に光と影を極限にまで駆使する

 動画を日常的に目にする私たち現代人が見ても、劇的な瞬間にピタリとポーズ・ボタンを押したかのように、圧巻のドラスティックな迫力が伝わってきます。
 若き日のカラヴァッジョの激しい気性がキャンバスに向かうと、このようなとても若々しく力強い表現に生まれ変わるのです。
 「リュート弾き」は同様の構図の作品が複数存在しますが、この作品は日本初公開です。

 【展覧会公式サイト】 カラヴァッジョ「執筆する聖ヒエロニムス」ボルゲーゼ美術館

 カラヴァッジョによるキアロスクーロ(明暗法)と呼ばれる光と闇の強烈なコントラストは、ルネサンス後のマニエリスムの冗長な表現に飽きていたローマの人々を驚愕させます。
 「執筆する聖ヒエロニムス」ボルゲーゼ美術館は、カラヴァッジョに最も脂がのっていた頃の作品です。

 若さ溢れる「リュート弾き」とは対照的に、齢を重ねてこそ得ることができる「静寂」が表現されています。
 しかし聖ヒエロニムスの横にはさりげなく死の象徴・ドクロが。
 静寂の中にも、ドラスティックな劇場感の表現を忘れてはいません。
 大阪展だけの展示です。



 ハルカス16F展望台


 カラヴァッジョは織田信長のような、強烈な気性と劇的な運命を持ち合わせていたような人物に思えてなりません。
 普通の人では理解できないような考え方があったからこそ、賛否両論あってもとにかく人を惹きつける表現ができた「天才」だったのです。



2019年の年の瀬、ハルカスに設置された「誰でも弾けるピアノ」が大注目


 カラヴァッジョのDNAを最も感じたのはリベラ

 カラヴァッジョのキアロスクーロ(明暗法)は、ルーベンスやレンブラントら、17cのバロック画家の多くが取り入れました。
 カラヴァッジェスキとは、その中でも特に影響を強く受けた画家のことです。
 17cのヨーロッパの美術界はまだイタリアが中心で、多くの画家が訪れていました。

 スペインのジュゼペ・デ・リベーラはその代表格で、この展覧会にも名品が登場しています。
 「洗礼者聖ヨハネの首」ナポリ市立フィランジェリ美術館蔵は、皿の上に置いた生首を描くという、なんとも衝撃的な構図です。
 聖なる殉教というシーンの表現を極限まで追求すると、こんな構図になるのでしょう。
 カラヴァッジョも顔負けの発想です。



 ハルカス美術館の「展示不能」のお知らせ


 斬新な企画とドタキャンへの思い

 今回の展覧会は、カラヴッジョ日本初公開作品を多く含む展示構成もさることながら、「首都圏をとばす」という会場選定が大いに話題になりました。
 国内外の知名度の高い画家の展覧会で、「首都圏をとばす」という話はまず聞いたことがありません。

 「首都圏をとばす」と、見込み入場者数の関係から作品のレンタル予算は抑え気味にせざるをえないでしょう。
 出展リストを見ても、個人蔵はさておき、イタリアにある美術館からしかレンタルしておらず、予算の制約を感じざるをえません。

 今回の展覧会では、リベラ以外のカラヴァッジェスキの作品の充実に、正直物足りなさを感じました。
 展示構成と予算のバランスが取れなかった苦肉の策という印象が残りました。
 展覧会の総合評価は見る人によって印象は異なるため、みなさんなりにご判断いただければと思います。

 展覧会の主役となるカラヴァッジョの名品の出展がドタキャンされるという、悲劇にもあいました。
 日経などの新聞報道では「イタリアの文化財行政機関による出展許可の調整不調」が憶測されていますが、レンタル契約を結ぶ段階で通常はクリアされている問題です。

 この展覧会の主催者は深い反省の念にさいなまれていることと拝察されます。
 私として強く願いたいのは「同じ轍を踏まないためにはどうすればよいか?」の一点だけです。

  •  日本の展覧会に所蔵品を貸し出すと、扱いは万全だしレンタル収入も見込める

 長い時間をかけて日本と世界の美術館の間で築き上げてきた信頼関係です。
 今回の展覧会をきっかけに、こうした信頼関係が新たな段階に昇華していくことを願ってやみません。



 ハルカス美術館、次回は薬師寺


 こんなところがあります。
 ここにしかない「空間」があります。



 イタリア美術と言えば著者の宮下教授、とても表現力が豊か


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 利用について、基本情報

 あべのハルカス美術館
 カラヴァッジョ展
 【美術館による展覧会サイト】
 【主催者による展覧会サイト】

 主催:あべのハルカス美術館、読売新聞社、読売テレビ
 会期:2019年12月26日(木)~2020年2月16日(日)
 原則休館日:2019/12/31、2020/1/1、1/14
 入館(拝観)受付時間:10:00~17:30(火~金曜~19:30)

 ※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
 ※この展覧会は、2019年10月まで札幌・北海道立近代美術館、2019年12月まで名古屋市美術館、から巡回してきたものです。
 ※会場毎に展示作品が一部異なります。
 ※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。



 ◆おすすめ交通機関◆

 JR・大阪メトロ「天王寺駅」、近鉄「大阪阿部野橋」駅、阪堺電車「天王寺駅前」駅下車
 あべのハルカスB1Fシャトルエレベーター乗り場まで徒歩3分、エレベーターで16Fへ
 JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:20分
 JR大阪駅(梅田駅)→大阪メトロ御堂筋線→天王寺駅

 【公式サイト】 アクセス案内

 ※この施設には駐車場はありません。
 ※渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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